入学二日目 (8)
時計の針が八時前くらいを指した頃、僕らは各々の部屋から繋がる最奥の一つ……その中でも特に大きな部屋に集まっていた。
僕達、蒼の姉妹が到着した頃には、白の姉妹を除いたメンバーが集まっているらしかった。
その中でも最初に目に付いたのは……鈴莉ちゃんの、赤く可愛らしいドレス姿。
朱(赤)という色から想像される情熱や苛烈さといったイメージ……そしてそれに付随して付いてくる派手ささえも、鈴莉ちゃんの小さく可愛らしい姿が全てを見事に調和させていた。
少し間違えれば、派手過ぎに思えたり、逆に子供っぽくなりすぎてしまう色とドレスなのに、すごいな。
ちなみに空さんは、同じ朱色の少し落ち着いたロングのドレスを着ていた。
鈴莉ちゃんから視線を外し、ぐるりと部屋の中を見まわしてみれば、他の姉妹も色とりどり、様々な衣装を身に纏っていた。
特に目を引いたのは、黒いドレス(所謂ゴスロリというやつだろうか?)の子とか、紫を基調とした着物の子。
ただ、彼ら以外もみんな共通してるのは、すごく綺麗か可愛いかって事だった。
「姉様。吹雪さん達、遅いですね」
「えぇ、レン……と言いますか、今代の白の姫は姫の中でも特別ですので」
「今代の? それってどういう――」
お姉様の言葉が気になり、詳しく聞こうとした僕の声を遮って、八時の鐘が鳴る。
すると同時に、扉が開き、吹雪さん達が入ってきた。
「待たせたね。では始めようか」
蓮さんがそう言葉を紡ぐと、部屋の空気が少し変わった。
まるで、この部屋だけ周りの世界から切り離されたような……。
「やあ、涼。それに遥も、よく似合ってるね」
「ごきげんよう、レン、吹雪さん。そちらも、ドレスがよくお似合いですわ」
「あ、ああ、ありがとう」
「ふふ。こちらこそ、ありがとうございます」
部屋の雰囲気の変化に少し戸惑っていた僕を置いて、近づいてきていたらしい白の姉妹と、お姉様は挨拶を交わしていた。
慌てて僕も「先ほどぶりです、蓮さん」と声をかければ、蓮さんは少し笑って「ああ、そうだね、遥。よく似合っているよ」と、その綺麗な顔を柔らかく笑みに変えてくれた。
そんな蓮さんに、若干テンパりながらも「ありがとうございます」と言えただけ、僕は頑張ったと思いたい。
「ふふ。遥さん、可愛いです」
「も、もう……からかわないでよ。それにその、吹雪さんも可愛いよ」
照れながらも褒めた僕の言葉に「ありがとうございます」と吹雪さんは返事をして、少し顔を赤らめた。
その後も、離れることなく話す僕らに、合流する形で空さん達が訪れ、三組が混じりつつ少し話をしてから、僕らはまた別々に他の姉妹に挨拶に行くことになった。
お姉様の後に続くように、僕は沢山の人と言葉を交わしていった。
あと、こうして相対するまでは知らなかったんだけど、十二色の姫とは言ったものの、一学年で六色を担当する形式となっているらしい。
つまり、今年の三年生と一年生が蒼や白、朱に紫、
残りの黄、灰、桃、金銀に無色が今の二年生だとか……。
いや、無色って透明じゃん。
みんなそれぞれの色と同じ色の服を着ていて(無色は特に定めがないらしい)、そして特徴も違っていた。
中でも異彩を放っていたのは、金と銀の姫。
この二色は常に一卵性の双子が選ばれるらしい。
だから服の色がもし同じだったなら、僕にはどっちがどっちかわからなかったかも知れない。
そして次に、お姉様は僕が最初に気になっていた内の片方、紫の姉妹のほうへと向かった。
「式。今良いかしら」
「あら、涼様。 そちらから出向かせしまい、申し訳ございません」
「式、その呼び名、そろそろやめてもらえないかしら……。 同じ姫なのですから」
「何度言われようとも、それは聞けないお言葉です。涼様は私にとって、最もお慕いし、尊敬するべき方なのですから」
取り付く島もないとはまさにこのことで。
その言葉を聞いて、お姉様は少し苦笑していた。
「遥。こちらの方が紫の姫、
「初めまして、水無瀬 遥です。よろしくお願いします」
「みなせ……ということは、先ほど挨拶にこられた白の姫君と血縁の方でしょうか?」
「あ、いえ。苗字の読みが同じなだけで、違いますよ。僕らもお互い自己紹介した時に驚きましたし、そう思われても仕方ないですよ」
「そうですか」と紫の姫……式さんは小さく笑い、自分の後ろに立っていた子を手招きし、自分の隣へと呼び出した。
「こちらが、紫の姫君です。凜、ご挨拶を」
「はい。遥様、涼お姉様。お初にお目にかかります。
凛と名乗った子は、淀みのない動きで緩やかにお辞儀をすると、小さく微笑む。
俗に言う、日本人形のような外見をしていて、凛と言う名前がよく似合うと思えるような雰囲気を纏っていた。
「にしても、凛さん、でいいのかな? 着物とか結構大変そうだけど、平気?」
「遥様、私のことは呼び捨てて頂いて構いません。それに、お気遣いありがとうございます。ただ、私は普段よりこのような服を着慣れておりますので」
「普段からってすごいね。僕、着物を着たことなんて数えるくらいしかないよ。あ、もちろん男物だよ?」
「ふふ、存じておりますよ。我が家の方は古来より続く華道の家系であり、幼少の頃よりこのように育てられたもので」
そ、それは大変そうだ。
ちなみに、「僕も呼び捨てでもいいよ」と伝えても、凛は断固として譲らなかった。
様付けで呼ばれるなんて慣れてないんだけど、どうやら姉妹揃って頑ならしい。
「では、式。私たちは次に行きますので」
「はい、涼様。本日はありがとうございました」
「あ、凛。僕も行くよ。またね」
「はい、また」
緩やかながら、そこに芯を感じるほどに洗練されていた動きで、二人は頭を下げ、僕らを見送る。
なんだか慣れないことばかりで背中がむず痒くなったりしたけれど、正直、紫の姉妹との交流が一番。
ということで、残る色は後1つ、黒だ。
黒の姉妹は黒いゴスロリのような服を着ていた。
「クロト、よろしいかしら」
「リョウ?」
「相変わらず、真っ黒ですのねぇ」
「仕方ない。色、黒」
お姉様にクロトと呼ばれた人は、“呟くように”という形容詞がよく合う喋り方で、そのうえ単語で喋るから、すごいわかりにくい……。
「君、蒼?」
「はい?」
「クロトはね、“君は蒼の姫君ですか?”と、訊いてますのよ」
その言葉にコクコクと頷くクロトさん。
やっぱり単語だけで喋られると、慣れない限りは話しにくそうだ。
「僕は水無瀬 遥と言います。 クロト先輩、でいいのでしょうか?」
「クローディア・アクスラット。黒の姫、よろしく」
そう言って少し視線を僕に向けると、すぐに俯いてしまう。
なんだろう……嫌われてるのかな。
「クロト、あなたの妹はどちらに?」
「アヤ」
クロトさんがそう言うと、彼の後ろから小さな子が出てきた。
その背丈は(僕らの中でも低い)吹雪さんより、さらに低かった。
「……
それだけ言うと、彼はまたクロトさんの後ろに隠れてしまう。
もしかすると人見知りとかなのかな。
「彩ちゃん、よろしくね」
だから僕は深く追求することをせずに、クロトさんの後ろにいる彼へそう言った。
よく聞いていないと聞き逃すくらいの小さな声で「はい」とだけ返事が返ってきたので、嫌われてはないんだろうと思う。
お姉様が言うにはこれで全員回ったらしい。
しかし、部屋の中を行き来してただけでも僕はもうへとへとだ。
そのうえ、慣れない靴で足の裏が痛い。
……慣れないせいか、こけそうになったのをお姉様が受け止めてくれたけど、その時に出た声が、キャッだったことに自分でもちょっとショックだったりもする。
女の子みたいな悲鳴なのがさ……。
そんな事に少し凹みつつ、時計を見ればもう夜の十時を回ろうとしていた。
寮の消灯時間はとうに過ぎている。
そのことをお姉様に聞いてみると「今日はここに泊りますよ」とのこと。
お泊まり会……ちょっとワクワクするね。
リアス女学園 ~この学園には、男の娘しかいません~ 一色 遥 @Serituki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。リアス女学園 ~この学園には、男の娘しかいません~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます