入学二日目 (7 / 白)
遥達が部屋に着いた頃、吹雪と蓮はすでに部屋の中で椅子に座り話をしていた。
「む、なら吹雪は料理もある程度こなせるということだな?」
「は、はい。お菓子作りほど練習したりはしていないのですが、それなりには」
「なら、今度一緒にしようか。私は菓子作りを勉強したいからな。吹雪先生に教えてもらうのも良いかもしれない」
微笑みながら、すこしからかう様に私の方へと視線を向けるお姉様。
そんな視線に、私は手を顔の前で振ることしかできなかった。
うぅ、顔が熱いです……。
「さて吹雪、そろそろ着替えようか。君はレースなど付いていても大丈夫か?」
「多分、大丈夫だと思います」
「そうか。私は肌が敏感なのか、レースがあるとなんだか少し落ち着かなくてね」
なるほど、お姉様は敏感肌ですか。
肌の色もすごい白くて、まるで西洋のお人形さんのような雰囲気がありますし、少し波打つ銀色の長い髪もそのイメージを強めているみたいです。
もしかしてハーフなのでしょうか?
私がそんなことを考えているとは露も知らず、背を向けてクローゼットを開くお姉様。
お姉様の向こうに見えるクローゼットの中には、白を基調とした沢山の服が掛けられていました。
それらの沢山の服の中から、品定めをするようにお姉様は服を見繕うと、
「よし、これにしよう」
と言って、振り返り、広げるように袖を伸ばし、私に見せてくれました。
「吹雪は慎ましくて清楚な雰囲気があるからね、そこを全面に押し出してみようと思う」
「慎ましくて清楚……ですか?」
「ああ、そうだ」と頷きながら、お姉様は私に服を手渡してくる。
きっと、着てみて欲しいということなのでしょう。
その意味を理解して、自らの服に手をかけ、脱ごうとすると……お姉様が驚いたように「わ、私は外にいる! 着替えたら教えてくれ!」と、急ぐように部屋の外へと出て行きました。
「なにか悪い事でもやってしまったのでしょうか……?」
そう思い考えても、それらしい答えが出てこないため、とりあえず私は着替えることにしました。
ワンピースのような造りをしたそのドレスは、腰から先……つまり、スカートの部分が何枚も折り重なるようなアシンメトリーな構造になっていました。
少し重さを感じつつも、下からスルリと着れば、次に着るのは肩の部分。
所謂ボレロというもので、ワンピースと同じ色のそれを、羽織り、腕を通す。
数分ほどで、渡されたものを全部着ることが出来たため、ドアへと近付き「お姉様? 着替え終わりましたよ」と、声をかけました。
「む、そうか。では失礼する」
ドアの向こうからお姉様の声が聞こえ、直後にドアが開き、お姉様が入ってきました。
「さて、どうなったかな?」なんて呟きながら私の方に向き直ると……少し驚いたみたいに、お姉様は目を見開きました。
「どうでしょうか?」
「あ、ああ、似合ってるよ。その、可愛いと思う」
「本当ですか? ありがとうございます」
照れたように顔を赤らめつつ、恥ずかしそうに顔を逸らすお姉様の手を取って、私はしっかりとお礼の言葉を伝えた。
可愛いって言われて喜ぶ私は、少し変なのでしょうか?
でも、思わず零れてしまう笑みに、お姉様はさらに顔を真っ赤にして俯いてしましました。
「そ、その、私も着替えるから。少し外に出ててもらえないか……?」
「はい。お姉様の服も楽しみにしてますね」
俯いたまま呟くような……擦れるような小さな声に私は頷いて、部屋の外へと向かいました。
でも、お姉様……同じ男の子なのに、なんでそんなに恥ずかしがるのかしら?
◇◇◇
吹雪が外へ出るのを確認してから、私はクローゼットを開いた。
本当に、驚いた。
いや、ああ見えて吹雪も男だから、別に一緒に着替えてもおかしくはないのだろうけれど。
私には、それは耐えられそうになかった。
あまりにも吹雪が可憐で……。
「――駄目だな、これでは私ではない。心を引き締めろ、私!」
目を閉じ、吹雪の姿を心の奥へとしまい込む。
そして少し気を引き締めなおしてから、私は自分用のドレスを取り出し、その身に纏った。
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