入学二日目 (7 / 蒼)
お姉様が持ってきた服は、上下が一体になった所謂ワンピースのような形をしたドレスだった。
完全に肩を露出させ、肩紐で吊るすようなスタイル。
さらに、胸元から腕にかけて横向きにレースが伸び、繋がるように袖が作られていたそのドレスは、僕らの担当する蒼の色をしていた。
「遥でしたらこれが似合うと思うのだけれど、着てみてもらえるかしら?」
と、お姉様は僕にその服を手渡してくる。
言われるままに手に取ってみれば、柔らかくもサラリとした手触り。
身体で合わせるように持ってみれば、スカートの長さは膝の少し下あたりまでのようだった。
「じゃあ、着替えますけど……更衣室みたいなところはないんでしょうか?」
「ええ。少し恥ずかしいかも知れないけれど、ここで着替えるしかないの……。ごめんなさいね」
何故か謝ってきたお姉様に対して、「お姉様は全然わるくないのですよ!」と慌てて僕は返す。
でも、見られるのは恥ずかしいので後ろを向いてて貰えるようにお願いをして、僕は服を脱いだ。
ワンピースみたいな形状なので、パンツを穿くように下からすっぽりと着てしまえばそれでほとんど終わり。
最後に、袖を通してしまえば、着替え自体は終了だ。
ちなみに下着は、制服自体がスカートなため、いろいろとアレなのだ。(みなまで言わせないで欲しい)
「お姉様、着替え終わりましたよ」
「あら、やっぱり似合いますわね」
言いながら、僕に手袋とストールを手渡し、お姉様は僕の全身を見るように一歩下がる。
そして、手渡されたアイテムを全て身に付けると、お姉様は満足そうに頷き、僕に椅子に座るようにと言ってきた。
僕が椅子に座ると、お姉様は僕の後ろへと立ち、髪質を確かめるように髪の毛を触りだした。
「遥は髪を伸ばしたりはしてなかったのですね。遥らしい真っ直ぐに下ろす髪型も素敵ですが、今日は少し髪をいじらせて貰いますわね? ドレスに対して少し大人しくなり過ぎてしまいますから」
お姉様は僕の髪を触っただけで言い当てていたが、実際、僕は今まで髪を伸ばしてはいない。
一番長いところでも、肩には届かないくらいに調整しているから。
本当はもっと短くしたいんだけど……父がうるさくてね……はは……。
そんななんとも言えない哀愁を漂わせていた僕には気付かず、お姉様は僕の髪を櫛で梳かしてくれていた。
「ひゃんっ」
「あら、遥。 もしかして首筋とか、弱いのかしら?」
「ん、はい……。 ひゃっ」
でも、お姉様の櫛が首筋に当たるたび、僕は体にくすぐったさが駆け抜けてしまう。
お姉様はそれを少し楽しんでいるみたいに小さく笑いつつ、(たぶんわざと首に擦るように)髪を梳かしていった。
僕がくすぐったさから我慢の限界に達しそうになる直前、お姉様は、髪を梳くのを止めた。
そして、手早く髪飾りを取り付けると、鏡を取り出して、僕へと見せてくれた。
そこには、いつもより綺麗に梳かされている僕の頭と、青色をした花飾りが二つ付けられていた。
「これで完成ですわ」
「お姉様、ありがとうございました」
「ふふ、遥。すごい可愛いですわよ」
この学園に入ってから、可愛いと言われるのはこれで何度目だろうか。
不思議と可愛いって言われると、嬉しい気持ちになる。
ここにくるまではは、そんなこと思いもしなかったのに。
「それと遥。外に出るときは、この靴を履いてくださいね?」
お姉様が僕の前に置いてくれた靴も、服と同じ色をしていた。
でも、形が、
「あの、お姉様? 僕、ヒールのある靴とか履いたことがないんですが」
そもそも履いたことがあっても、それはそれで謎だと思うが。
ともかく僕は、この靴でまともに歩ける自信がない。
つま先で歩きつつ、踵は細いヒール部分だけなんて、どう考えてもコケてしまいそうだ。
「そうでしょうね……。でも、その内慣れると思いますわ」
そう言ってにっこりと笑いかけてくるお姉様に、僕は何も言うことが出来なかった……。
そんな僕を見て満足したのか、お姉様は制服のボタンに手を掛け――
「わ、わっ!? お姉様ちょっと待ってください!」
驚きと共に、僕は顔を逸らし、そしてすぐお姉様に背を向けた。
頭ではお姉様も男だと分かってはいるのだ。
けれど、十人中百人が振り返るであろう超絶美人なお姉様が服を脱ぐっていうのは、頭とかそういったの関係無く身体が反応してしまうよ!
うう……そんなこと考えちゃったからか、衣ずれの音が余計に……。
思春期の男子には拷問のような時間を、必死に耐えていた僕に「はい、着替え終わりましたわ」と、声が掛かる。
その声で幾分かホッとして振り返った先には――ドレスをまとったお姉様がいた。
あ、これは女神。(なお男である)
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