入学二日目 (5)

 それからの授業は、割と普通に受けることができた。

 周りからの視線は変わってなかったけれど、なぜか気にならなくなったから。

 そして、気がつけば時間は放課後になっていた。


「終わったー!」


 本当に嬉しそうに叫びながら、鈴莉ちゃんは近づいてくる。

 午前中に見せていた辛そうな顔はどこにもなくて、むしろ心の底から嬉しそうな感じだ。


「さて、それじゃ空さんに呼ばれてるし、お店に行ってみようか?」

「ぁ、はい。私ももう出れますよ」

「おっけーおっけー。姉様、待たせると怖そうだしね」


 そんなことを言う鈴莉ちゃんに不思議と同意しつつ、足取りは少し早めに、僕らは“シャルレーユ”へと向かった。


「はーい、いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは、ウェイトレス姿の空さん。

 案内されるままに席へ向かうと、そこにはお姉様達が座っていた。


「お姉様もこちらに来られてたんですね」

「ええ、空だけに任せるものでもありませんから」

「それに、空がバイトを終えるまでは私達も動けないからな」


 と二人は優雅に紅茶を口に運ぶ。

 そんな姿を見つつ、僕らはとりあえず席へと座った。

 僕はお姉様の隣。

 お姉様を挟んで反対側に蓮さんが座っており、彼は隣りに吹雪さんを呼んで、にこやかに笑う。

 鈴莉ちゃんは僕の隣り……と、僕らが全員座ったのを見て、お姉様はメニューを広げながら、口を開いた。


「本日、姫と姫君候補の初会合が開かれますの。場所はここではなく、別の場所なのだけれど、そこで二年生を含めた全姫と、その妹に当たる姫君候補が顔合わせを行いますわ」

「だから、今日呼んだんだ。君達にもその会合に出てもらう必要があるからね」


 お姉様の言葉を蓮さんが繋ぐ。

 顔合わせ……確か僕らの他にも九色の姫や姫君がいるんだったっけ。


「僕らはそこで何をすればいいんでしょうか?」

「遥達は普段通りで結構ですわ。他の姫と話す形で紹介しますので、きちんと離れずについて来てさえくだされば」


 なるほど……。

 それなら特に難しいことはないかな?


「あの、服は制服のままで大丈夫なのでしょうか?」

「あぁ、服に関しては着替えてもらうよ。無論、僕たち姫が選んだ服に、だけどね」

「お姉様の選んだ服ですか!?」

「おや吹雪、不服かい? 大丈夫、似合うやつを選んでるから」


 さらに蓮さんはその後、「私たちも着替えるから、心配しないで」と付け足して、吹雪さんの頭を撫でていた。

 そんなこんな話をしている内に、頼んだメニューもテーブルの上に揃い、放課後のおやつタイムとなった。


 それからしばらく経って、時計の針が午後六時半過ぎを指した頃、空さんがバイトを終えて、僕らのテーブルに合流した。


「ごめん。少し遅くなったね」

「姉様、お疲れ様ですっ」

「ああ、お疲れ様。さてと、それじゃ行こうか」


 蓮さんの言葉を合図に、僕らは席を立ち、外へと向かう。

 ちなみにお金は、お姉様が出してくれた。

 ごちそうさまです。


「それで、どこに向かうんですか?」

「秘密ですわ」


 少し意地悪げな表情を見せつつも、お姉様は空さんと同じく教えてくれない。

 この人たちって、なんでこんなに秘密が好きなんだろうか。

 と、思いながら歩くこと十分とちょっと。

 僕らの前に、学園の中とは思えない、豪華な建物が現れた。

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