入学二日目 (4)
学食までの移動時間が考慮されてる分、この学園のお昼休みは多少長めになっているらしい。
そのおかげか、僕らは食べ終わった後も、少しゆっくりする時間ができた。
「にしても、なんでお姉様が今朝の事知ってたんだろうね」
「姉様に聞いてみればいいんじゃないかなー?」
ということで少し申し訳なさを感じつつも、仕事中の空さんを呼んでみることに。
お客さんも少なくなってきたため、僕らの呼びかけに快諾してくれた空さんは、自分の休憩の時間に僕らの席へと来てくれた。
「――と、いうことで、姉様何で知ってたの?」
空さんは少し苦笑しながら「秘密」とだけ答えて、自分のご飯に手をつける。
もちろんそんな答えで鈴莉ちゃんが納得するわけもなく、空さんの袖をひっぱって、「ねー、なんでー?」と繰り返していたが。
そんな、まるで姉妹のような二人を見ながら、僕らはのんびりと残りの時間を過ごしていた。
「そうそう、忘れてたけど。放課後、三人ともまたうちの店に来てね。案内するところがあるから」
お昼休みがもうすぐ終わるため、教室に帰ろうとした僕らに、空さんはそんな事を言ってきた。
「案内するってどこを?」と聞いても、「秘密」とだけ帰ってくるあたり、今は教える気がないんだろう。
とりあえず、了承の返事だけをして、僕らは教室へと帰った。
教室に帰りつくまでにも、沢山の視線を浴びて……嫌になりそうだった。
「こんなに視線を浴びた日は、生まれてから数えるくらいしかないよ」
「それだけこの学園では姫の存在が大きいのですね……。正直怖いです」
考えてみれば生徒会の立場も姫がやっているのなら、この学園では知らない人はいない存在なわけで。
そんな存在に、僕らはなるわけで……。
「今思えば、すごい怖い気がするね」
そう、寒気がするほどに……。
「遥さん、気分悪そうだけど……大丈夫?」
鈴莉ちゃんが心配そうに僕を見上げていた。
そんな彼に「大丈夫」とだけ返して僕は微笑む。
この程度で心配されてしまう、そんな自分が少し悔しいが。
「……人間万事塞翁が馬、か」
「それって確か、悪いことが起こってもその分いいことが起こるって意味でしたっけ?」
「微妙に違うかな。悪いことが本当に悪いことか分からない、同じように良いことが本当に良いことなのか分からないって意味だよ」
「ん~? 結局どういうこと?」
「そうだね……今は辛いけれど、この辛さも後々にとって良い経験になるのかもしれないし、ならないかもしれない。なんにせよ、誰にも未来はわからないけれど、自身にとって悪いことを“悪いこと”とだけ受け取らないようにしておきたいってことだね」
結局どういうことなのかよく分かっていない……みたいな表情を見せた鈴莉ちゃんに苦笑しつつ、僕は気を引き締める。
……今は辛くても、後々良いことに転ずるかもしれない。
だから、今までも僕は頑張ってきた。
そして多分、これからもずっと。
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