入学二日目 (2)

 あの後、いろいろとあって、僕らはなんとか間に合う時間に寮を出た。

 何で朝の段階で、二回も服を着替えなきゃいけなくなるんだろうね。


 あと、着替える前に、


「遥さん、可愛かったよ」


 とか、鈴莉ちゃんが耳元で囁いてた気がするけど、そんなの無視だ無視!

 可愛いなんて言われても、嬉しくなんか……っ!


 とりあえず、この二人についてはお姉様に相談してみようと思う。

 じゃないと、僕の貞操が危ない!


 そんなこんな各々で何かの思いを胸の内に秘めつつ、僕らは教室に辿り着いた。

 すでに、お風呂での出来事昨日の事は沢山の人の耳に届いてるらしい。

 なぜなら教室に入った途端、四方八方から無数の視線を感じたから。


「なんだか怖いですね。 こんなに色んな人に見られるなんて」

「まさに、視線で人を殺せるぜ! みたいな感じだねー」


 確かに、ピリピリと痛いくらいに視線が刺さってくる。

 これから毎日、こんなに人に見られるのかと思うと、憂鬱で仕方ないんだけどな。


 そんなことを思っていた矢先に、ポケットの中に入れていたモノが震える。

 スマホに着信?

 って、お姉様から!?


「ご、ごめん、電話!」

「え? 私もですよ?」

「同じくー」


 スマホを片手に三人とも背を向けて、それぞれに電話開始。

 でも、三人とも一緒って狙ったみたいな感じだなぁ。


「もしもし、遥です」

『あら、遥さん、おはようございます』

「おはようございます、お姉様。 何かご用事でもありましたか?」

『用事、というわけではないのですけれど、もしかすると、一昨年の私たちみたいなことになっているのかも、と思いまして』

「一昨年のお姉様方?」

『えぇ。 教室に入った途端、沢山の視線を感じたりとかしてませんか?』

「あ、はい。怖いくらいに」

『やっぱりですか。でも、心配しなくても大丈夫ですよ。皆様害意があるわけでは無いでしょうから。それにどうしても辛かったら、遠慮なく私たちに相談してくださって結構ですから』

「お姉様……。ありがとうございます」


 なんていうか、 (朝のこともあって)本当に弱ってたんだなって思った。

 たったこれだけなのに、すごく心があったかくなってきた気がするし。

 たぶん、頑張れる。


『えぇ、あなたは私にとって、誇れる妹ですから。きっと耐えられるはずですわ』

「はい。 お姉様に恥じないよう、頑張ってみせます」

『その意気ですよ。では、そろそろ授業も始りますのでお暇させていただきますね』

「はい。ありがとうございました」

『ふふ、頑張ってね』


 話が終わったと、僕は耳からスマホを離そうとした。

 その直後――


『そうそう、遥さん。貞操は自分で守ってくださいね。そればっかりは私でも難しいですから』


 とだけ、お姉様は残して電話を切った。


 というか、何で知ってるんだろう。

 ……不思議だ。


 鈴莉ちゃんも吹雪さんも苦笑していたところを見ると、同じように釘を刺されたみたいだ。


「なんで、姉様が今朝の事知ってるんだろう……」


 うなだれるように、机に突っ伏した鈴莉ちゃんは、頭から煙が出てそうなくらい顔が真っ赤になっていた。


 たぶん、今朝したことが自分たち以外にも知られてることが、恥ずかしかったんだろう。

 おかげで、ちょっとだけ気分がすっきり。


 そして、鈴莉ちゃんが復活するよりも先に、始業のベルが鳴り響いた。

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