入学一日目 (8)

 僕らがお湯に入って十数分後……ようやく、現白の姫の彼女……もとい彼は口を開いた。


鳳 蓮おおとりれん、現白の姫。よろしく」


 いきなり始まった自己紹介に、僕は驚いてしまったが、吹雪さんはそうでもなかったようだ。

 彼の行動がさも当たり前みたいに、続くように自分の自己紹介をしていたから。

 やはり吹雪さんは、人と少し違う次元のテンポで日々を生きてるようだ。


「とりあえず、君達は涼の方からある程度の話を聞いたと思う。あとは細かいことになるが……それよりも、何か気になることがあるなら、それについて答えた方が効率がよさそうだな」


 と、そんなことを言われたので、僕らは気になっていたことを聞いてみた。


「男子しかいないのに、なぜ“姫”なのか?」

「姫になることで、何か特典はあるのか?」

「そもそも姫って何をするの?」


 などなど……たぶん、誰もが気にすることだと思う。

 でも、聞いておかないと後々困るのは自分たちだから。


「なぜ“姫”なのか、と聞かれてもな……。私たちの外見で王子とか言われても説得力がないだろう? あとはあの学園長の趣味だと思うが」


「姫になることでの特典ですか……そうですね……。内申が上がるのと、あと他の皆様から何かを頂いたり、慕ってくれる人が増えたりすることかしら」


「なにするのーって言われると、そうね。体育会なんかでの癒し役だったり、他の学校で言う、生徒会やチアなんかをしたりするの。いわゆる癒し系何でも屋みたいな」


「あぁ、そうだ。服なんかのお金なら学校側が出してくれたりするぞ。いわゆる何でも屋の報酬みたいなものだ。まぁ、それでも空みたいにバイトをするやつもいるがな」


 簡単にまとめると、

 姫とは、“学園長の趣味で”“学園の生徒の癒し”となり、なおかつ“学園のために働く何でも屋”ということ(学園に雇われてるような感じ)かな。


「お姉様方の説明のおかげで、ひとつだけ確実にわかったことは……学園長は類をみないほどの変態だということですね」

「それは否定しないよ」

「面白い人だとおもうんだけどなー」

「私もそう思うよ」

「鈴莉ちゃんも、空先輩も何言ってるんですか……」


 鈴莉ちゃんと空さんを見てると、二人の考え方が似てる気がする。

 朱の姫と朱の姫君だけど……そういうことなのかな?

 気になった僕は、お姉様にそのことを聞いてみた。


「えぇ、それはそうなるように選ばれてますの。たとえば、朱の姫に選ばれる方は“勉強よりも運動を重視した健康的な子”が選ばれやすいみたいですね」


 同じように、蒼なら“学業が優秀で冷静”、白なら“落ち着いた優しい雰囲気の子”等。

 僕には、鳳先輩は白の姫に当てはまらないような気がしたが、お姉様が言うには「よく当てはまってる」だそうだ。


 各寮に三人ずつということは、僕らみたいなのがあと九組もいるのだろうか?

 もしそうだとしたら……まるで性格の違う人達と、僕はうまくやれるのだろうか。

 そんな風に考え込んでうつむいた僕の頭を、撫でてくれるお姉様の手がとても温かかった。

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