入学一日目 (6)

 少し時間は経って、僕は今、所属寮の室長会議に参加していた。

 場所は僕が暮らすことになる“さくら寮”の一階ロビー。

 出入り口から少し歩いたところにある、少し広い空間だ。


 どうやら今回の会議は、一年生に対する寮での注意事項やその他いろいろの連絡のようだ。

 消灯時間やゴミの分別、お風呂の事などなどを聞いた後、会議は三十分ほどで解散となった。


「ただいまー」

「おかえりー。どうだったハジメテの会議」


 言いながら扉を開ければ、部屋の中には鈴莉ちゃんの姿しかなかった。


「ん~、至って普通かな。注意事項とかの伝達だけだったし。で、吹雪さんは?」

「そっかー、お疲れさまっ。吹雪さんは今飲み物を買いに行ってるよ。すぐ戻ってくると思う」


 吹雪さんみたいに綺麗だと少し違うけど、鈴莉ちゃんに笑顔で労ってもらうと、疲れが一気に吹き飛ぶね。

 もうなんていうか、可愛すぎるというか抱きしめたくなるというか、頭ナデナデしたくなる可愛さだ。


 もちろんそんな事を思ってるとか悟られたくない僕は、「そっか」とだけ返して先ほどの会議内容をメモしたノートを机の上で開いた。


「おぉ? なんかいっぱいメモしてきたんだね」

「うん。時間とか場所とか書いておかないと忘れそうだったから」


 二人でノートを読み始めた時、ガチャっと音がして吹雪さんが帰ってきた。


「吹雪さんおかえりー。もう遥さん帰ってきてるよー?」

「ほぇ? あ、お帰りなさいです」

「うん、ただいま。吹雪さんもおかえり」


 吹雪さんは少し照れたような顔で「ただいまです」といいながら買ってきた飲み物を机のすぐそばに置いてくれた。


「吹雪さんも帰ってきたことだし、会議で連絡されたことを伝えようか」


 吹雪さんが買ってきたお茶をみんなで飲みながら、僕は2人に先ほどの会議の内容を伝えていった。


「消灯時間は夜十時、見回りの先生がいるらしいからそれまでにいろいろ終わらしとくこと。あと、お風呂は寮ごとにある大浴場で、時間は六時から九時までならいつでもOK」

「消灯十時かー。はやいよー。そんなに早くに寝れない!」

「お風呂は他の学年の方も一緒になることがあるのですね……」

「まぁ、そうゆうこと。で、さっそくだけどお風呂に行かないとやばい時間になってるんだ」

「はわ!? い、急ぎましょう、鈴莉ちゃんもダレてないで早く用意して!」


 そうか、吹雪さんはお風呂好きなのか……あと鈴莉ちゃんは夜更かしタイプと。


「ほら、遥さんも早く! 行きますよ!」


 吹雪さんに急かされるように部屋を出て、僕らはお風呂場の着脱室へと移動した。

 なお、お風呂セットは部屋に置かれていたものを持ってきている。

 寮が決まってから荷物を送る手順だから、どの部屋にもある程度の備品を置いてくれてるんだろう。


 ……しかし、ここで困ったことがある。

 吹雪さんや鈴莉ちゃん以外にも、脱衣所やお風呂には他の人がいるわけだが、その人たちがみな美少女な場合、僕はどうすればいいのだろう。

 もちろん、吹雪さんや鈴莉ちゃんも非常に可愛い部類だ。

 そんな人達の中、僕は今いるわけで。

 半ば女性と一緒にお風呂に入るみたいで、心がドキドキして仕方ない。


 さらにさらに、なぜか僕らは注目されているみたいで……。

 僕らが一体何をしたというのだろうか。


「な、なんだかすごい見られてる気がするよ……?」

「そうですね。私も少し怖いです」


 二人にもそれは感じられたらしい。

 突き刺さるほどの熱視線に、少し戸惑っているみたいだ。


「こんばんは」


 そんな中、完全に死角から声をかけられた僕は、今までの緊張も相まって、声には出なかったがかなり驚いてしまった。


「あぁ、ごめんなさい。真後ろから声をかけるものじゃないですよね。水無瀬 遥さん?」


 驚きつつも振り返った先には、お姉様と呼ぶにふさわしい端正な顔立ちの女性が立っていた。

 少し赤みのある髪を後ろに向けて編みこんでいて、整った顔立ちと合わさり、美少女よりも美女って感じだ。

 特に瞳の力が凄い。

 大人しくなりそうなパーツばかりなのに、意思の強そうな瞳が全てのパーツに命を与えてる感じがする。


「あ、はい。 水無瀬 遥は僕ですけど」

「そう……、私は火波 涼ほなみりょう。あなた達の二つ上で三年生です」

「火波先輩……? その先輩が僕に何の用ですか?」


 酷く綺麗な人だけど、吹雪さんとの出会いの時よりは緊張しない。

 一言でいえば、どこか親近感を感じる……?


「えぇ、ご挨拶をと思いまして。蒼の姫として、次期蒼の姫君に……ね?」

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