入学一日目 (5)

「広っ!!」


 そう言って鈴莉ちゃんは部屋の中に駆けこんでいった。

 確かにその部屋は広かった。

 僕ら三人で使うと言えど、その部屋は広かった。


「もしかすると四人部屋を三人で使わせてもらってるのかもしれませんね」

「それだ!」


 とりあえず、鈴莉ちゃんのテンションの高さはどうにかならないのだろうか。


 部屋を見渡してみると、部屋の右端の方には二段ベッド、反対側の壁には一段のベッドが置かれている。

 ベッドを見つけた瞬間「キャー!! ベッドベッドー!!」と叫びながら鈴莉ちゃんはダイブをかましてたが。

 まぁ、たしかに四人部屋としても使えそうな間取りだ。

 ベッドのある場所から奥には広い空間があり、さらにその奥の方にはベランダのようなものがあり、部屋とベランダの間はガラス戸で仕切られているみたいだった。

 太陽の位置から考えると、窓は南向き。


「ふむ、ということはカーテンが必要か」


 幸い、机なんかは奥の方にちゃぶ台の如く鎮座されていた。

 本棚やタンスもあるし、ここに個人ごとの棚を作って置いていけばいいな。


「自分だけの机はないんですね。三人になると仕方ないですけど」

「そうだね。 勉強なんかは、あの机でやるしかなさそうだ」

「そんなことより、どのベッドを誰が使うかきめようよー」


 それもごもっともで。


「二段の上に行く人は寝相のいい人だね」

「鈴莉ちゃんは悪そうな気がします……」

「ちょっと、それ酷い! まぁ、寝相悪いけどさ……」


 あ、悪いんだ……。


「だったら、僕か吹雪さんか」

「多分、遥さんは室長会議とかで遅くなることがあるかもなので、私が上行きましょうか?」


 そこまで遅くなることはあまりないと思うんだけど。

 でももしかするとあるかもしれないし、吹雪さんがそう言ってくれてるので、甘えておこうと思う。


「じゃあ、よろしく」

「はい、よろしくされました」


 そう言って、吹雪さんは小さく笑った。

 吹雪さんのこんな仕草は、その辺の女の子たちよりも遥かに可愛いと思う。

 そのあと、僕が吹雪さんの下で、鈴莉ちゃんが反対側のベッドになった。

 ベッドが決まった直後に、鈴莉ちゃんは自分のベッドにまた飛び込んでいたが……。


「後は、そこの本棚の自分の場所を決めようか。 教科書とかしまわなきゃいけないしね」


 本棚は六段。

 つまり、一人二段ってところか。


「私が一番背が低いので、一番下を使わせてもらいますね」

「だったら、僕が一番上か」

「私は、真ん中ー」


 こっちは簡単に決まった。

 確かに少し大きめの本棚なため、吹雪さんに一番上は厳しそうだ。

 簡単に言うと、僕の目線の高さに一番上の段が来る感じ。


「よし、後は荷物が届いた後でいいかな」


 服をしまう場所なんかは後でいいだろう。

 人によっては服を沢山持ってたり、逆に全然持ってなかったりするんだし。

 しかし服か。


「二人は私服ってどんな感じなの?」


 少し気になった僕は、そんな事を聞いていた。

 だって吹雪さんとか、メンズ服を着てても男装した女の子にしか見えない気がして。


「えっと、私はホント普通です。 地味なくらいです」

「ん? 私はハーフパンツに半袖とか。長いと動きにくくて嫌いなんだ」


 鈴莉ちゃんも、たぶん男の子っぽい女の子なんだろうな。

 まぁ、僕も人の事言えなかったけどさ……。


「そうだっ! この際だからさ、私服も女の子にしちゃうのはどうかな?」


 鈴莉ちゃんは、いきなりそんな事を言い出した。

 でもそれはさすがに恥ずかしいよ?


「ほら、制服だってスカートなんだし。郷に入っては郷に従え的な?」


 “的な?”って。

 郷に入ってって、その郷を作ってるのはあの変態的な校長だぞ。


「そうですね……私は構いませんよ? それに、なんだか楽しそうです」


 え、えぇー。

 これって、僕も断れないフラグってやつじゃないか。


「で、遥さんはどーなのかな?」


 わかった、わかりましたよ。

 諦めた僕は返事の代わりとして、首を縦に動かしただけだった。

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