入学一日目 (2)
さて、学校始まって最初にすることは何か?
と、問われるとまず考えることは自己紹介や担任の紹介なんかがそうだろうと思う。
変な学校だけど、その辺りは他と変わりが無いらしく、高校最初のクラス時間は“自己紹介”となった。
僕は頭文字が“み”なため、順番も最後の辺り。
だから僕よりも先に、いろんな人が前に出ては自分の紹介をして、席に戻る。
それを何人も何人も見ては、同じ数だけは拍手をして……。
ようやく、僕は高校生になったんだなぁと実感した。
しかしなんと言うか……“女子”なのに、名前や声は“男子”って言うのがあまりにも不釣合いで、違和感がすごかったりするが。
そんなこんなで、遂に僕の番までまわってきた。
やっぱりというべきか、何度やっても沢山の人の前に立つのは緊張するものだ。
黒板ではない白板の前に立って、みんなの方へと向き直る。
そうして見えた人の中に、自己紹介中には気付かなかったけれど、見たことのある顔もちらほらといた。
入学式の時、右隣に座っていた子も同じクラスだったみたいで、彼もそれに気づいた様子で手を振ってくれている。
「僕は水無瀬 遥です、趣味は――」
緊張した状態だったけれど、そんな感じに言うべきことは言って僕は席へと戻った。
僕の番が終わったって事は、次は同じ“みなせ”さんだ。
「ぅー、緊張するよー」
帰ってきた僕に対して、すでに赤くなってる顔みせてから彼は席を立った。
身長百六十センチで小柄といわれてる僕よりも小さい体をさらに縮こませながら、彼は白板の前に立ち、そのままなんとか聞き取れるようなか細い声で自己紹介を終わらし、逃げるように帰ってきた。
その間、三十秒も無かったのではないのだろうか……。
とりあえず、僕は“お疲れ様”と労いの言葉を投げたが、彼には聞こえてないようだった。
そんなこんなありつつも、全員の自己紹介が終わったところで、10分ほどの休憩時間になった。
とは言えど、まだ全然知り合えていない状態では苦痛に感じる者の方が多いはずだ。
僕も隣の吹雪さんが緊張から復帰するまで、
「やほ、みなせさん達」
吹雪さんが緊張から平常心へと戻り始めたころ、少し後ろの方から僕らを呼ぶ声がした。
振り返ってみれば、入学式は隣にいて、さらには僕の自己紹介の時に手を振ってくれた子が、後ろの方から近づいてきていた。
「こんにちは」
さっきは緊張してよく見えてなかったが、栗色の髪を左右の耳の上で結っている……いわゆるツインテールってやつだ。
幼さの残る顔立ちに吹雪さんより少し高いくらいの身長(それでも低め)なため、よく似合っている。
吹雪さんが、ゲームとかで言うなら幼馴染みたいな感じに対して、この子は妹や後輩って感じのする人だった。
「お、その顔は私の名前聞いてなかったってオチだね? まぁいいや、私は“かすが すずり”って言うんだ」
「えっと、かすがさん?」
「字で書くと、こう」
彼は僕と吹雪さんが名前の確認のために使った紙に、僕のペンを使って“春日 鈴莉”と書いた。
ものすごい、右上がりの字体で読みにくかったが。
「別に、春日さんでも鈴莉さんでもかまわないよ」
笑いながら、僕にペンを返してくる春日さん。
「それじゃ、春日さんで。ほら、まだ名前で呼べるほど知り合ってないしさ」
「まぁ、そうだけど……私は二人の事名前で呼んじゃうよ? 同じ苗字だしさ」
そういえば、そうか。
なら、互いに名前で呼んだほうがどちらかというと対等に思えるって事だよね。
「えっと、“水瀬 吹雪”です。 よろしく、鈴莉ちゃん」
「お、名前で呼んでくれるんだ。 こちらこそ、よろしく吹雪さん。 出来れば“ちゃん”付けじゃないほうがいいけどなぁ」
すでに、笑いながら仲良さげな二人を見て、なぜか僕は置いて行かれている気がして。
「む、なら僕も名前で呼ぶよ。いいよね、鈴莉ちゃん」
「お、いいね。でも“ちゃん”付けは勘弁してほしいなぁ」
その要求は無理だ。
だって、鈴莉ちゃんはなぜか鈴莉ちゃんと呼びたくなる雰囲気と外見なんだから。
「まぁ、ともかくよろしくね。 遥さんに吹雪さん」
僕らが頷くと同時に休憩時間終了の鐘が鳴った。
さて、次の時間は何があるんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます