四月期 ―― “入学編”
入学一日目 (1)
あんな事(見つめあった)があった後、普段通り人の話を聞くなんて芸当は、僕には無理だった。
だって、あんな可愛い子と見つめあったんだよ?
(外見はアレだけど)僕も一応男だ、平常心を保てた事自体奇跡だと思うね!!
と、心の中で胸を張ってみたりしてたわけだが、そんなことをしている間にも入学式は終りを告げようとしていた。
そして、今は所属クラスを発表している最中みたいだ。
学園に着くなり、講堂に行くよう指示された僕らは、まだ校舎の中身を見てすらいない。
だから、校舎の中に入るのは初めてだったりする。
「…さん? 水無瀬 遥さん! いないの!?」
「っ、ひゃい!」
気づかないうちに僕は何度も呼ばれていたらしい。
咄嗟に返事をしたものだから、変に声が裏返ってしまった……恥ずかしい。
しかし、先生方はこのような事態は慣れているようで、気にする様子もなく次の生徒の名前を読み上げていた。
その後、僕らは各自指示された教室へと向わされた。
その時すでに、友達を作っていた人がいたのは凄いと思う。
だって、全国からの選りすぐりだよ?
知り合いがいるって可能性はほぼゼロだからさ。
そんなことを思いながら、自分の名前の書かれていた席へ荷物を置き、椅子に腰掛ける。
廊下側から二つ目の列の後ろから二番目。
五十音順だとすると、僕は「み」なので大体この辺りになることが多い。
しかし二列目とは言ったが、二つの席がくっついてるような机なため、隣にどんな人が来るのか……。
そんな中、見覚えのある黒い髪と黒い目が僕のいる教室に入ってきた。
「もしかして同じクラスなのかな」
そう零した直後、あの子がこちらに振り向いた。
“呟きが聞こえたのかな?”と心配になったが、ただ自分の席を確認し終わっただけのようだった。
そのまま、彼女(だが男だ)はこちらに向かって歩きだし……僕の隣に荷物を置いた。
荷物を置いた彼は、隣の僕に挨拶をしようとして固まっていた。
きっと、席の確認をしていて隣が僕だと気づいてなかったんだろう。
かく言う僕も“どう挨拶しようか”と固まっていたわけだけど……。
「えっと、」
彼が僕よりも先に落ち着いたようで、ゆっくりと自己紹介を始めた。
「あの、みなせふぶきです。これからよろしくお願いします」
「あーこちらこそ。みなせはるかです。よろしくお願いしま……ん?」
――ちょっと待て。
今、同じ苗字じゃなかったか?
彼もそれに気づいたらしく、目の前で再度固まってる。
どうやら、彼もクラス発表の時は自分のことで精一杯だったらしい。
とりあえず僕は紙とペンを持ってきた荷物から出し、自分の名前を書いてから彼に渡した。
その行為で、彼も意図することが伝わったらしく、自分の名前を紙に書き僕らの席の真ん中辺りに置いた。
そこには、一応ペン字の資格を持っている僕が書いた、達筆な“水無瀬 遥”の文字。
そしてその隣に、愛らしく小さくて丸い字で書かれた“水瀬 吹雪”という文字。
どうやら読み方が同じなだけで苗字は違うようだ。
「これから、よろしくね。遥さん」
微笑みながら、僕のことを呼んだ彼。
そんな彼に僕も頷きつつ、「よろしく」と、手を差し出した。
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