第8話 入学式

 お隣さんに挨拶を済ませ、荷物の整理も終えた僕はベッドに横たわる。すでに窓の外はまっくらだ。……寮の部屋が快適そうなのは助かったなあ。風呂もトイレもあるし、いざというときはここにひきこもることができるだろう。……ま、ひきこもるなんて許されないんだろうけど。


 明日から何が始まるんだろうか。実家に送られてきた魔法学校入学許可の手紙の内容から察するに、座学と実技をひたすら繰り返す毎日みたいだけど……。不安だなあ。などと思索に耽っていると眠気が僕を襲う。……そろそろ寝るか。僕は部屋の明かりを消した。


 ――翌日、いよいよ入学式である。僕らはやたらと広い西洋風の講堂に集められていた。式はつつがなく行われ、それなりに社会的ステータスが高いであろう人たちが代わるがわる話をしていた。そして、新入生代表の挨拶になる。


「新入生代表、テンプレート・グライムスは壇上へ」


 あーあ。来ちゃったよ。そりゃ事前に手紙で代表挨拶をしてもらうとは聞いていたけどさぁ。やっぱりやらなきゃダメ? ダメだよな……。心臓ばくばくなんだが……。僕は緊張した面持ちで壇上へと上がった。生徒だけでも在校生を含めて数百人。他の参列者もいるから、千人近くはいるんじゃないか? 元ひきこもりの僕には荷が重過ぎる仕事だよ。


 やることは決まっている。壇上に置かれた卓の上にある書類を読むだけさ。それでも荷は重いけど。身体年齢が5歳の僕は背丈が足りないため、脚立を使って卓から頭を出し書類に目を向ける。なになに。『司会が紹介をするからその後に文章を読むこと』か。


「今年の新入生代表は竜騎士の爵位を持つグライムス家の長男、テンプレート殿である。彼は齢5年8カ月で本校に入学した。これは本校の最年少記録である」


 ええ!? そうだったの!? まったく聞かされてないんだけど……。おおと観衆から驚嘆の言葉を浴びせられる。僕が戸惑いながらふと来賓席に目をやると魔法庁長官のコンラート殿がうんうんと朗らかな顔をして頷いていた。いや、この学校、魔法庁の管轄ですよね? 予め教えておいてくださいよ。


「さらにテンプレート殿は入学前の適正検査で類稀なる才能が確認され、聖者の爵位を授与されてもいる。それでは、テンプレート殿、挨拶を」


 司会に促された僕は書類に書かれたとおりに喋る。なんとか喋り終えると、壇を下り、元の列に戻った。ああ、緊張した。


「ねえ。あんた、あれ本当?」


 僕にかけられる幼い声。寮室のお隣さんの幼女だ。そういえば、まだ名前を聞いてなかったな……。


「本当って何が?」と僕は小さな声で質問を質問で返す。まだ式典中だからね。大声で話すわけにもいかないだろ? お隣さんの幼女もそれは理解しているらしく、ひっそりと声を出す。ただ、いささか感情が込めらているらしい声だ。


「とぼけんじゃないわよ。5歳8カ月で最年少入学したってことよ!」


 な、なんでちょっと怒ってるんだ?


「最年少ってのは今初めて知ったよ」と答える僕。

「5歳8カ月ってのは……本当なの? 生年月日教えなさいよ!」


 な、なんなんだよ……。僕はこの世界での生年月日を正確に幼女に告げた。


「わ、私と一日しか違わないじゃない!? そ、それでアンタが最年少だってこと!? 納得できないわ……!」

「そ、そんなこと言われても……」

「ま、いいわ。それが『貴方達』のやり方だもんね。もう慣れてるわよ!」


 幼女はぷんぷんと怒りながらそっぽを向く。なんで怒られたんだ? ぼ、僕何もしてないのに……。

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