第5話 適正属性
「ちょ、ちょっと待っているのだぞ。テンプレート殿。おい、すぐに新しい測定器を用意しなさい」
「は、はい!」
コンラート殿が秘書に命じる。二人ともどこか慌てているようだ。すぐに秘書が代わりの水晶を持ってくる。
「手間を取らせて済まぬな。テンプレート殿。どうやら先ほどの水晶には不具合があったらしい。あんなに光るなどありえぬからな。ささ、再度準備したこの水晶に触れてくれたまえ」
僕は再び差し出された水晶に掌を置く。だが、結果は同じ。水晶は激しい光を出したかと思うとすぐに砕け落ちてしまった。
「ば、ばかな。不具合ではないというのか……? ……あり得る。あの夫婦のご子息ならば……。おい、地下に置いているアレを持ってくるのだ……!」
「ち、地下ですか? まさかコンラート様、年一回行われる超級魔術師の定期診断に使われるあの水晶をお使いになるのですか……!? アレは高価なものですので、定期診断と緊急時以外持ちだしてはならないと庁内の規則で定められていますが……」
「そんなことは承知の上に決まっているだろう……!? まさに今が『緊急事態』なのだ……! ……テンプレート殿少し時間を頂けるか? 貴殿を測定する水晶の準備に時間が欲しい」
コントラート殿の願出に僕は頷き、しばし待つ。すると、秘書が同じような水晶を慎重な様子で持ってきた。
「……テンプレート殿。これに触ってみてもらえるかな?」
「わかりました」
僕は手渡された水晶を受け取る。すると、先ほど壊れた水晶以上の光が放出された。どうやら今度は壊れそうにはない。
「んぐうぅうううううう!? こ、これほどの光を放つとは……!? こんなに強い光を放つ者など見たことがない! ……もうよい、もうよいぞテンプレート殿。水晶を机の上に置いてくれ! 眩し過ぎて眼が潰れそうだ!?」
僕が手を離し机に水晶を置くと光が収まる。
「し、信じられん……。説明が遅れておったな……。テンプレート殿、今やっていた魔力測定なのだが……。水晶の光が強ければ強いほど、魔力の量が多いことを現している。その光の強さを私が肉眼で測定し判断を下すわけだが……。正直言ってここまでの光を放つ者はこのヴァーミリオン王国にはいない……! 圧倒的魔力量だ」
「そ、そうですか。そんな力が僕に……」
と言われても率直な気持ちを述べると良く分からない。僕自身は魔法を使ったこともないし、母親のアリア・グライムスが魔法使いだということは聞いていたけど、実際に魔法を使うのは見たことがないからね。なんせ、魔術の家庭教師との授業でも実際に魔法を使う段階まではいってなくて、座学しかしてなかったし、どれくらいすごいことなのか実感が持てない。
僕が自身の掌を見つめていると、コントラート殿が語りかけてきた。
「さて、では次の試験に移るとしよう。ふふふふふ。なんだか楽しくなってきたな。次はどんな可能性を見せてくれるのだね、テンプレート殿?」
「次は何の試験をするんです?」
「適正属性の判定だよ」
適正属性か……。属性という言葉は座学で学んだので覚えている。たしか、火、水、雷、土、風の五行属性と光、闇の陰陽属性。そして無属性。この8つの属性に魔法は分けられると聞いた。
「テンプレート殿には必要ないと思うが、一応説明しておこう。属性魔法は術者の体質によって得手不得手が決まってしまう。例えば火属性に適正がないからと言って必ずしも火属性の魔法が使えないわけではないが、習得に多大な修練が必要となる。逆に火属性に適正があれば火属性魔法の習得は比較的容易となる。これから国お抱えの魔術師になるにあたり、どんな魔法に適正があるのかを予め我々が把握しておくのだ。得意な魔法を伸ばせるように教育カリキュラムをつくるための情報取りということさ。適材適所という言葉があるだろう? 兵隊で例えれば、走る体力があるものに伝令役を、肩の強いものに投擲役をやらせた方が効率が良い。魔術も同じというわけだ。さて、ではさっそくだが、この赤い石に触れてもらえるかね?」
コンラート殿が話し終えると、秘書が長官席の机上に赤い石を置いたので僕は早速手に取る。
「むむ!? なんという強い光……。どうやら火属性の適正を強く持っておるようだな」
「あの……、これも光が強い方が良いのですか……?」
「いかにも。光が強ければ強い程適正を持っていることになる。さて、次はこの石だ」
コントラート殿は僕に水色の石を手渡す。
「むむむ!? み、水属性にも強い適正が……!? 通常火属性に適正を持つ者は水属性に適正を持つことは稀なはず……。つ、次! 雷属性の確認だ!?」
僕は黄色の石を手渡される。
「な、なにぃ!? こ、これはもしかしてもしかするのか……!?」
僕は次々と各属性の石を手にしたが、そのどれもが強い光を放っていた。
「し、信じられん! 全ての属性に適正があるだと……!? こんな者は未だかつて見たことがない……! ……ふふ。少々声を荒げ過ぎてしまったな。許してくれたまえテンプレート殿。偉大な魔術師の出現に興奮を押さえきれないのだ。……今後の処遇については追ってご実家に連絡させてもらう。今日の所はこれで終わりだ。解散としよう」
あっという間に能力検査は終了し、僕は魔法庁を後にした。
「それでは帰りますぞ。テンプレート様」
同伴していた魔術の家庭教師が僕に声をかける。
「もう帰るのかぁ。西洋風の大きなお城もあって街並みも綺麗だから観光したかったんだけどなぁ」
「心配せずともおそらくこのヴァームで暮らすことになるのですから。今日は帰りましょう」
家庭教師の言葉に頷くと僕は馬車に乗り、帰途についたのだった。
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