第4話 強大な魔力
5歳のときのことだ。グライムス家お抱えの魔術を教える家庭教師が僕の魔力が異常に高いことに気付いたのだ。
「旦那さま、奥さま。ご子息、テンプレート様の魔力量は明らかに同年代のそれを大きく超えております。いえ、成人男子の魔術師をも超えていると思われます」
「……やはり、そうでしたか……」
「アリア、気付いていたのか……?」
「ええ、アレン。私も魔術師の端くれ。でもこの子には自分の歩みたい人生を歩んで欲しかったから……。気付かない振りをしていたの。ごめんなさい……」
どうやらこの世界では魔法の才に富む者は強制的に魔術師としての道を歩まねばならないらしい。魔力自体はどんな人間も持ち合わせている。僕に魔術の家庭教師が付いてるのも簡単な魔術を覚えさせるためだ。しかし、強大な魔力となると話は変わるらしい。
強大な魔力は言わば兵器である。兵器は管理しなければならない。もし、無秩序にその辺の国民が兵器を持っていたらどうなるか? 治安が悪くなる可能性が高くなることは言うまでもないだろう。国家転覆を狙う人間も出て来るかもしれない。それ故、強力な魔力を持つ人間は国の管理下に置かれる。
そして、国のもとで教育され、武力となるのだ。もっとも武力という言い方はされているが、人権は一般国民よりも認められている。むしろ、特権すらある。実力のある魔術師を雑に扱い、クーデターを起こされれば国も太刀打ちできないからだ。
しかし、それは人権、特権こそ認めるが、自由な人生は認められないことに他ならない。兵器として生きる未来しかないわけだ。
また、強力な魔力を持つ人間の存在を隠す行為も国により禁止されている。日本の法律で照らし合わせるなら銃刀法違反のようなものである。場合によっては極刑まであり得るという点では日本よりも厳しい。つまり、僕の母親アリア・グライムスの行為は犯罪であるということだ。しかし、それでも彼女は僕に強大な魔力があることを知らない振りをしていた。貴族に産まれた世間知らずの母親のわがままと言えばそれまでかもしれないが、それでも僕は僕の人生の選択肢を狭めたくないという思いから強大な魔力量のことを言わないでいてくれた母親の気持ちに感謝した。
「アリア様、今のお話、私は聞かなかったことにしましょう。5歳になられたテンプレート様の定期診断を実施した結果、強大な魔力を有していたことが判明した、と魔法庁には報告しておきましょう」
「……感謝します」
こうして強大な魔力を有することが分かった僕はこの国……、ヴァーミリオン王国の首都ヴァームにある魔法庁に家庭教師の魔術師とともに向かうこととなった。強力な魔力を持つ者はそれだけで国に魔術師と認められ、その能力を把握されるのだ。一概には言えないが、クラスが高ければ高いほど認められる特権は多くなるらしい。中には奴隷階級だった者が貴族扱いになる場合もあるそうだ。僕は元が貴族の生まれだからその恩恵を受けることはないけど。
「貴殿がグライムス家の長男テンプレート殿か……。なるほど、幼いながらも父親のアレン殿に良く似ている。アレン殿と私は同じ部隊に所属していたことがあったのだ。……アレン殿は他の貴族とは違い、平民のなかでも低い身分出身の私を他の者と平等に扱ってくれた。あの恩は一生かけても返せるものではない……」
僕の顔を見るや語り出したのは、魔法庁長官のコンラート殿だ。どうやら僕の父親と面識があるらしい。
「貴殿の父上と母上は本当に勇ましい方々であった。アレン殿はその剣技で貴族にも関わらず奴隷、平民が主で戦う前線にまでおもむき、彼らとともに戦っておられた。あの姿にどれだけの奴隷、平民出身の兵士が鼓舞されたか……! アリア殿も回復魔術師ではあるが率先して前線の兵士の治癒に当たっておられた。もちろん奴隷平民関係なく全ての者に慈愛を注がれ、そのお姿は戦場のマリアと呼ばれたほどだ」
コンラート殿は昔を懐かしむように饒舌に喋っている。
「もう10年近く前のことになるのか。あの闘いを機に少しずつではあるが、身分制度が改善されつつある。それも、あのお二方の『人間に貴賎なし』の精神が浸透してきているからであろう」
「コンラート様、積もる話もあるかとは思いますが、能力検査の方を始めていただけますか?」
コンラート殿が秘書の女性に促される。
「う、うむ。そうであるな。ごほん。テンプレート殿、今から貴殿の能力検査を行う。幸か不幸か、貴殿には強大な魔力が宿っている。その資質を今から見極めるわけだ。能力値や適正属性によっては準王族にまで身分があがる。貴族、平民、奴隷の身分は少しずつ差がなくなりつつある現代だが、やはり王族は別格。逆に言えばそこまで身分があがることは稀だ。あまり期待しないように。そうそう。私は例え世話になったアレン殿のご子息であるとはいえ、忖度をするつもりはない。私は尊敬するアレン殿と同じように公正・公平に人を見極めることを信条としている。理解してくれたまえよ」
そう言うと、コンラート殿は何やら文字の書かれた水晶を持ちだしてきた。
「この文字は古代ヴァーム語ですか……」
「いかにも。5歳にしてこの文字が何かわかるとはさすがはテンプレート殿。アリア様の聡明な頭脳も受け継いでいらっしゃるようだな。この古代ヴァーム語が書かれた水晶は魔力量を計る装置……。今からこれに触れてもらい測定させていただく」
「なるほど。……なぜ、古代ヴァーム語が記されているんです?」
「はは。これは慣習のようなものだよ。レベルの高い魔術師はアイテムに名を記すときに古代ヴァーム語を使いたがるのだ。これには単に水晶という意味の文字が彫られている」
……日本の医者がカルテにドイツ語を使うのと同じってことか。最近は日本語で書く医師がほとんどって聞いたことはあるけど……。
「それでは水晶に触ってもらえるかな?」
僕は言われるままに水晶に触れる。すると……。
「ぐあ!? なんだ、この強過ぎる光は……!? ……ばかな! 圧倒的強度を誇る魔力量測定水晶がバラバラに……!? テンプレート殿、そなた……」
コンラート殿が驚愕した表情を僕に向ける。一体何が起こったんだ?
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