第2話 女神

◇◆◇


「……ここは?」


 僕は真っ黒な空間で眼が覚める。一体何が起こったんだ? 白い閃光が僕を包みこんだと思ったら次の瞬間にはここにいた。周囲を見渡すもただただ真っ黒だった。上も下も右も左も……平衡感覚がなくなりそうなんだけど。不思議なことに自分の手足はこの暗闇でもはっきりと目に写る。一体どうなってるんだ。父さんと母さんはどこに行っちゃったんだろう? ……42歳中卒職歴なしの僕なんて見捨てられても仕方ないけど……。


 突然目の前に光が現れる。その光はだんだんと人の形になっていった。


 きれいな人だなあと思った。そこにはゲームで出てくるキャラクターのようなとてつもない美人がいたんだよ。コミュニケーション障害の僕なのに、なぜかその女性には自然と言葉を出すことができた。


「あなたは誰?」

「私は女神」

「女神?」

「ええ」


 なんでだろう。僕はこの状況をすんなりと受け入れることができていた。きっとラノベ、漫画の読み過ぎ、ゲームのやり過ぎで頭がバカになっていたんだと思う。もし、この人が本当に神様だというのなら……。


「僕は死んだんですか?」

「そうです」

「一体どうやって? どんな風に死んだんですか?」

「隕石です」

「い、隕石? 隕石ってあの恐竜とかを絶滅させたあの隕石?」

「そうです。あなたたちが地球と呼び住んでいたあの星は隕石の衝突によって跡形もなく砕け散ったのです」

「じゃ、じゃあ父さんと母さんも死んじゃったんですか……?」

「そういうことになります。もっともあなたの両親だけでなく、地球に住む全ての人類と生命が亡くなったのですが」

「そんな……」


 父さんと母さんが死んだなんて……僕はこれからどうすれば……。……はは、最低だな。親が死んだっていうのに悲しむ前に自分のことを心配するなんて、やっぱり僕はもう人間じゃないのかもしれない。


「あなたには選択肢が二つあります」


 女神が僕に語りかける。


「一つは完全に生まれ変わる。記憶も全て消えてしまいますがね。もう一つは、今の記憶のまま人生をやり直すか、です」

「そ、そんなの二つ目を選ぶに決まってるじゃないですか! 一つ目は僕の自我がなくなってしまうんでしょう!?」

「そうですか。その方が私たちにとってもありがたいです」

「ど、どういうことですか?」

「我々神にとっても地球の知的生命体80億がまとめて死んでしまったことは想定外だったのです。今、神界は邪悪な念で埋め尽くされかねない危機にあるのです」

「邪悪な念?」

「ええ。突然人生を奪われた80億の怨念がまとめて神界に流れ込みかねない状況に陥っているのです。その対策として我々は特例として地球の民80億に対して記憶を留めたままの転生を認めることとしたのです。邪悪な念を神界に振りまかれるよりも、その方が安全であると判断したのです」

「よくわかりませんけど、とりあえず生き返ることができるということですね?」

「そうです」

「そこには父さんと母さんはいるんでしょうか……?」

「それはわかりません。あなたの両親が記憶を保持した転生を拒否している可能性もゼロではありませんし、あなたの行く世界に両親がいるとも限りません」

「そんな……」

「しかし、ここで転生を選ばなければ会える可能性もゼロです」

「……わかりました。転生してください」

「……あなたは地球では能力に恵まれなかったようですね。健常者の中では最低レベルの能力だったようです。転生の際は能力が低かった人間には高い能力を授ける決まりになっています。これも邪悪な念が生まれにくくするためにですがね。さあ、行きなさい。転生先の世界へ。……今度の人生は何の言い訳もできませんよ?」


 そういうと女神は僕に人差し指を向ける。すると、僕の体が光に覆われた。次の瞬間僕の意識はまた失われたんだ。

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