異世界転生勇者テンプレート
向風歩夢
第1話 田中祐介
僕の名前は田中祐介。年齢は42歳になる。中卒無職の人間だ。人間? 人間でいいのか? この年まで一切の社会経験もない僕を人間と呼んでもいいのだろうか?
僕は中学でいじめられて不登校になってからというもの一度もこの家から出ていない。僕の世界はこの家とパソコンから得られる情報だけだ。いじめられた原因? さあなんだったんだろうね。僕は悪いことしてないと思うんだ。いじめていたヤツは僕のことを臭いと言っていた気がする。親にそのことを相談すると、哀しそうな顔をしていた。ネットで調べた情報だと遺伝子的に体臭が強い人間がいるらしい。もしかしたら、僕もそうなのかもしれないね。もうお医者さんに相談する気もなければ、直したところで僕の人生が変わるわけでもない。そういえば、僕の一人称は『僕』だけど、普通の42歳はどんな一人称を使っているのかな? 『俺』じゃ、社会では通用しないようなことをネットに書いていた気がするし、『私』じゃ女の子みたいだ。まあ、いいか。どうせ僕には関係ないことだしね。
外に出ようとしたことがなかったわけじゃない。でも、無理なんだ。外に出ようとしたら、それだけで吐き気がするんだ。いじめてたヤツのことなんてもう忘れたってのに……。強がりじゃないよ。本当に忘れたんだ。でも、体が外に出ることを拒否する。そんなこんなで早30年近くが経ち、僕は42歳になってしまったんだ。最近は父さんも母さんも何も言わなくなった。確か二人とももう70歳になったんだっけ?
世間の人は親孝行で旅行をプレゼントしてあげたりするのかな? ごめんな。僕にはそんなことできそうもないよ。それどころか、父さんと母さんが死んだらどうやって生きたらいいのかもわからない。多分父さん母さんが死んでも何もできずにそのまま餓死してしまうんじゃないかな。
僕は部屋に置かれた鏡に映る自分を見る。そこには小汚いゴブリンがいた。頭は禿げあがり、体はぷよぷよ。顔はおっさんなのにどこか幼い表情を残している。不快な姿のクリーチャーがそこにはいた。
これが僕か。信じられないな。夢の中では細身のマッチョでイケメンなのに。現実を受け止められない。もしかしたら夢の方が現実なんじゃないかな、なんて考えてしまうのは僕が子どもだからだろうか。42歳だけど……。
今日も部屋の前に母さんが置いてくれている朝食に手を付ける。まあもう夜10時なんだけどね。完全にお昼と夜が逆転しちゃっている。風呂も朝4時くらいに入るんだ。そうすれば、父さんも母さんも寝てるから安心して入れるんだ。
夜中0時になって僕は日課のネットゲームを開始する。引きこもりの僕にとって唯一人と触れ合う場所だ。もっともコミュニケーション障害の僕はチャットなんて全くしない。以前、チャレンジしてみたことがあったけど、「何言ってるかわからねーよ!」と返信されて以来発信するのが怖くなってしまったんだ。あまりに人と関わらないせいで、人に少しでも否定されることが怖い体質になってしまったらしい。まあ、それもどうでもいいことさ。僕には関係ない。僕は一生この部屋とパソコンの中の世界で生きていくんだからさ。
そんなことを考えながらネットゲームでソロプレイをしていると、地響きが鳴り、白い閃光が僕を襲う。その時の僕は何が起こったのか全くわからなかった。ただ、まだゲームクリアしてないのに……という思考が残っていたことだけは覚えている。
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