第3話 序列とは他が決めし偽り
俺の並んでいるⅠの列は剣技の試験だった。
試験内容は至って簡単で試験官バッカズ先生を相手に3対1で攻撃を当てる。
ただそれだけだった。
俺より前に並んでた人から試験を受けていた。
さすがは試験官。生徒の攻撃など赤子をいなすかの如く躱している。
生徒の中にも俺が剣のみで対峙したら確実に負けるだろうほどの実力をもつ人もいたがバッカズ先生には通用していなかった。
俺の前にいた生徒達は次々と時間切れを言い渡され、ついに自分の番が来る。
見ていて気付いたことがある。
3対1が故に背中からの攻撃には対処が難しいはずだ。
だが、攻撃を躱すとき必ず後ろに受け流し、連続で攻撃させないようにしている。
そこを逆手に取る。
一緒に組む味方に作戦を伝えた。
試験開始の合図と同時に各々が作戦通りに動いた。
まずバッカズを中心に三角形に囲む。
そして、コウキの一撃から作戦が始まる。
作戦通り、コウキの攻撃は後ろに受け流され、背後を取っていた味方の方に投げ出される。
しかし、投げ出されることを想定していれば対処も簡単。
既のところで身を翻しざまに一撃を放つ。
その一撃とほぼ同時に、もう1人も攻撃を放つ。
作戦通りにいったこの戦況に頬が緩む。
さあ、どう躱す!?
バッカズは一言ボソッと呟いた。
「ほう?筋がいい、だがまだ青いな」
その瞬間、バッカズの姿が消えた。
背後に気配を感じ、振り向くと、そこにバッカズは立っていた。
その後も、あの手この手で挑んだが、圧倒的な剣技の差に打ち負かされた。
「自分の苦手な所を仲間と補う。とてもいい対応だが、先が見えていない。今後に期待する。」
嬉しいような、実力の無さを突きつけられたような複雑な気持ちで終わった。
そして次はユウの出番がきた。
このテストが始まる時、ユウはどのくらいまで通用するのか。すごく気になっていた。
開始の鐘がなると同時にユウは最速の剣技をお見舞いする。
身移からの一閃、幻影流最速の型だ。
しかし、バッカズ先生はしっかり反応し、避けてみせた。
ユウは避けられることを予期していたかの如く、次々と剣技を繰り出した。
いつものチャンバラごっこで見る連撃だ。
俺は見慣れているから目で追えるが、
初見の人は反応することすらままならないだろうことは周りの反応を見ればわかる。
だが、バッカズ先生はその全てを受け切った。
ユウはため息交じりに言葉を吐いた。
「さすが試験官だね〜。全力でやったんだけどな〜、仕方ない。あまりやりたくないんだけど...」
いつもの優しい目つきから、殺意に満ちた目に変わった。
「本気でいくよ」
その一言をキッカケに、今まで見たことのない剣技を繰り出していた。
自身が高速で移動し、上下左右と様々な方向から斬りかかる。
常人だったらどこから攻撃されているのかわからないほどの高速移動。
その剣撃をも躱し続けるバッカズ先生。
しかし、その表情に余裕の色は窺えなかった。
ユウの高速攻撃は振り抜く刀が光を反射し、その光が尾を引くように軌跡を残している。
その剣撃を全て受け切ったバッカズ先生に追い討ちをかけるように次の剣技をお見舞いした。
「幻影流抜刀術 肆番 楓華乱舞...!」
腰を低くし、鞘に納めた刀に手が触れた瞬間、ピカッと輝いたように見えたが、ユウの姿勢は変わらずその場に構えたままだ。
次の瞬間、バッカズ先生の周りに無数の斬撃が放たれていた。
「なんだそのデタラメな攻撃は!?」
俺は見たことのない攻撃に思わず声を出して驚いていた。
さすがのバッカズ先生もこの攻撃には対処できず攻撃を負っていたが、かすり傷は受けたものの、致命傷となるものだけは避けていた。
「あ〜あ、かすり傷程度か〜。ふぅ。これ使うとすっごく体疲れるんだよね〜...。」
今にも倒れそうになり見ていて不安になった。
「やばーい、歩くのもだるいなぁ〜。あッ」
事切れたようにゆっくりと地面に倒れていく。
俺は地面に着く前にしっかりと抱え、ユウを支えた。
「あれ〜...コウキじゃ〜ん。ありがと〜.....。」
そう言い終わるより早く眠りについてしまった。
「まったく、お前ってヤツは...。」
これだからユウの側は離れられない、と我が子を守る母親の気持ちが少しわかった気がした。
しばらくの後、3つに分かれた班のそれぞれ剣技の試験が修了した。
続いて魔術の試験だが、試験開始まで少しの休憩を与えられた。
「おーい、ユウ~。起きろー。次の試験始まるぞ~。」
「ん、ん~。あれ、寝ちゃってた??はぁ~。あの先生強かったな~。」
ユウは瞼を薄く開け、伸びをしながら起き上がった。
「そりゃそうさ。戦争を生き抜いている人なんだから。でも、あのバッカズ先生に攻撃を当てれたのユウだけだ。自信持とうぜ!」
「次の試験は魔術だそうだ。どんな試験なんだろうな」
魔術の先生であるマヤ先生から号令がかかった。
「新入生集合〜。休憩時間は終わり。試験始めるわよ。」
ゆる〜い挨拶が試験の始まる合図となった。
続けてマヤ先生は試験内容の話を始めた。
「魔術の試験は至って簡単よ。あなた達がどのくらい魔術を使えるかを見せてもらうだけ、戦ったりすることはないわ。さっきの順番で始めていくから並びなさい。」
クラスのみんなはもう一度自分に割り当てられた列に並び直した。
「私が的を作るからそれに向かって全力で魔術を放ちなさい。幻術でもこの的に当てればどの程度の幻術かもわかるから気にせず使ってね。それじゃあ君からやってもらおうかしら。あなたはどんな魔術が使えるの?」
列の先頭から徐々に進んでいき、それぞれが自分の使える魔術を放っていた。
特にこれと言って目立つものはいなかったが、その中に1人だけ気になる人がいた。
見た目は平均ぐらいの身長で体格も普通。長い前髪以外は至って代わり映えのない男だが、扱う魔術に衝撃を覚えた。
「一通り全属性の魔術は扱える、得意なのは火の魔術だ。」
その一言にその場の全員はどよめいた。
素直に驚く者、疑いの目で見る者、様々いたが共通しているのは、皆がこの男を注目しているということだ。
「あら、それでは見せてもらおうかしら。一つずつ全部、ね」
その言葉を合図に、男は魔術を放っていった。
雷、氷、水、風、その他にもあらゆる魔術を使っていた。
そしてついに本命の火属性の魔術を放った。
「焼きつくせ...灼熱烈火...!」
その魔術を放った瞬間、耳を劈く爆音が鳴り響き、辺りは目を伏せたくなるような高温になっていた。その状況から察するに威力は凄まじいものなのだろう。
「すごい威力だわ!連発では打てないみたいだけど、この威力なら先鋭隊にも引けを取らないわ!」
連発では打てないとはいえ、あらゆる属性の魔術を打ってからこの威力の魔術を打っている。同じ組の人とは思えないほどの魔術の才をみせつけられた。
見せ付けられた側は全員、開いた口が塞がらないという言葉がぴったりだったが、張本人はドヤ顔するわけでもなく、至って普通。むしろ不服そうな様子だった。
その表情に何を思っているのか、全くわからなかった。
続いてコウキの番が回ってきたが、直前にあれだけの魔法を見せられてはコウキの魔法は印象が薄れるが、マヤ先生はその本質をしっかりみていた。
「あら、あなた才能あるじゃない。形も自由自在みたいだし、個数と距離さえもっと制御できればいいわね」
少しだけ褒められたが、自分のできない事をすぐに見抜かれ、弱点なのだと改めて実感した。
しばらくするとユウの出番が来たが、ユウは試験に参加しなかった。いや、参加できなかった。
「マヤせんせ〜い。僕、この試験受けれないよ」
「受けれない?なぜかしら?その感じで、できないことないと思うけど?何か不服?」
マヤ先生は怪訝そうな顔で聞いた。
しかし、ユウの回答は思いもよらないものだった。
「僕、魔術は一切使えないんだ。だからこの試験は受けれない。」
マヤ先生を含め、周りのみんな驚いていた。
しかし、あれだけの剣技を見せつけて魔術まで扱えたら嫉妬の嵐だっただろう。
全員の魔術の試験が修了し、残されたのは戦術の試験だった。
簡単な筆記試験という内容だったが、平均点は半分にも満たなかった。
ユウと雑談しながら、最初に集まった開けた庭のようなところに集合した。
「筆記試験全然わからなかったよ~。」
「俺も平均点とるのがやっとだった・・・。」
集合場所に着き、会長の透き通る低い声で最初の試験は締められた。
「みんなご苦労であった。各々が自分の実力を発揮していたのは見ていたら感じ取れた。この調子で修練に励んでくれ。今後の活躍に期待する。それと、君たちの序列を決めておいた。担任から告知があるだろう、それぞれ確認してくれ。ではこれにて実力試験を終了する!」
すべての試験が修了し、それぞれに序列が分けられた。
コウキとユウは同じAに割り当てられ、あのとんでもない魔術の才を見せつけた人もまた同じAクラスだった。
そして今年はSランク認定者は現れなかった。
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