第2話 影は裏ではなく確固たり

入会式当日。コウキとユウは待ち合わせることになっていた。しかし、待ち合わせの時間になってもユウはこなかった。おそらく寝ているのだろう。


「はぁーー、仕方ない。家いくか」


遅れてくることは予想の範疇だった。そのため集合時間を本来の時間より少し早く伝えておいた。


ピンポーン、ピポピポピンポーン。


本来は迷惑行為だが、中にはユウしかいないことを知っていたためインターホンを連打し、ユウを起こす。すると、中からバタバタと急ぐ足音が聞こえてきた。


ガチャッと扉を開き、開口一番にこう告げた。


「コウキ~~!ごめん!!!寝てた!!!」

「だろうな。」

「いつもより起きる時間遅いから寝ちゃってた!!」

「だろうな。」

「布団気持ち良いのが悪いんだよ~~...。」

「だろうな、じゃねーよ!」


突っ込みながらユウの頭を小突く。


「どうせヒビキさんに、家でる前に起こして~? って言ってたけど二度寝したんだろ?」


ヒビキとはユウの姉で、同じ幻影流の使い手だ。ただ、育成会に入会後に雷の魔法を扱えるようになっている。


「あい....。その通りです~....。ごめんなさ~い」


ヒビキは絶世の美女であり、一目みたら惚れない人間はいないほどの見た目であるが、そのユウもまた、女の子に間違えられるほどのルックスであり、いわゆる男の娘だ。巷では[絶世の美少女姉妹]と言われている。


ルックスの可愛いユウに甘い声で許しを乞われると、ついつい許してしまう。


「まあいいや。どうせ遅れてくると思ってたから早めの時間を伝えておいたんだよ。」

「え~~なにそれ~。ユウ、信用されてないじゃ~ん」

「実際に遅れてるんだけど?」

「うぅ....。なにも言えない....。」


なんてことのない会話をしていたが、話題は育成会の話になった。


「クラス一緒になるといいね~~。」

「そうだな。といっても例年通りクラスは2つしかないみたいだし、一緒になれるさ」


2クラスしかないのは、生死を彷徨う戦場にわざわざ自分から行くなんてよっぽどの物好きか、バカぐらいしか集まらないからだろう。



世間話も挟みながら歩みを進めると、前方に目的の場所が見えてきた。


「うわ~~すご~~い!おっきいし、キレイ!!」


確かにテンションが上がるのも頷けるほどの外見だった。


「これが育成会か、ここに住むなら不満は無さそうだな。」


育成会は年に2回、実家に帰ることを許されてるが、基本は寮生活となっている。


「2人1部屋みたいだけど、一緒になれるかな~。知らない人だったらやだ~~」

「そうだな。俺も心配だよ。」

「え~?心配ってなに~?」


あまりの可愛さに夜這いでもされるんじゃないか、とは言えなかった。


「朝、起きれるかってことだよ」

「それなら大丈夫だよ~。コウキが起こしにきてくれるんでしょ??」


ニコッと吹き出しがポンッとでてきそな出そうなほどの笑顔で言ってくるその表情に、見慣れてない人は一発で惚れ込んでしまうだろう。


「可愛い子ぶったって俺には効かないぞ?」

「ごめんなさい。起こしにきてください、お願いします...。」


前に一度、起こさなかった事があったのだが、昼過ぎても起きなかったほどの寝坊助だ。


「起こさないと1日なんて余裕で寝過ごしそうだから 仕・方・な・く 行ってあげるよ」


嫌み成分たっぷりでそう伝えたが、本人には届いていなかったようだ。


「ありがと~。やっぱり頼るべきは友。いや!コウキだね!」

「なんじゃそりゃ。」


そうこう話しているうちに正面玄関に着いた。


「さてと、クラス分けはどんな感じかなっと」


玄関に張り出された、人の背丈くらいある紙に1クラス、2クラスと分けて人の名前が書いてある。


「えーと、お、あった!俺は1クラスだ。」

「う~~んと、あ!僕も1クラスだ~~!やったね!一緒だよ!!」


辺りを見回すと、1人で来てる人が多く、ここで騒いでるのは俺らだけだった。


「おいおいそんなハシャぐな。周りの目が痛い。」

「は~いごめんなさ~い」


玄関に入るとズラッと並んだ下駄箱があり、クラス、学年毎に色の付いた札で分けられていた。


「さすがは育成会。外見だけじゃなくて中身もしっかりしてるな。」


想像はしていたが、改めて見ると掃除が行き渡ってるのか埃一つ落ちていないことに感動していた。


「ユウたちのクラスは三階だって~」

「んじゃ教室に向かうか」



教室の前に着き、これから共に過ごす仲間たちのいる部屋に入った。


ガラガラッと引き戸の扉を開け、中を見渡す。これといって変わり者はいなそうだ。


「これどこに座ったらいいんだろう~。」

「黒板に座席表張ってあるぞ。」


黒板に張ってある座席表に目を通し、自分の席を確認する。


「あ、あった~!って、え!?コウキとめっちゃ遠いんだけど!」

「同じクラスになったんだからいいじゃないか。」


続けざまに黒板に書いてある時間を指差しこう告げた。


「ほら、もうすぐ始まるみたいだぞ。席着きな」

「は〜〜い」


不満そうな返事を返し、お互いは席に着いた。


黒板に書いてあった時刻ピッタリにベルが鳴り、教室の扉が開いた。


「やあ諸君、おはよう」


気怠そうな声の主は軽く自己紹介をし、今日の予定を話す。


「私はこのクラスの担任になった ツルギ だ。今後ともよろしく。さて、今日の進行だが黒板に書いてある通り進めていく。さっそくだが机に書いてある番号順に廊下に並んでくれ」


黒板には上から、各担当者の挨拶。会長からの挨拶。そして、実力テスト各種と書いてあった。


「ここでグダグダ話するよりもあっちでいっぺんに話した方がいいだろうからな。そんじゃ行くぞー」


先導され集合した場所は、全クラス(2つだが)が集まれるぐらいの開けた庭なような所だった。

そこにはすでに各担当者と会長が列をなして立っていた。


全クラスが揃い、整列が終わったと同時に、会長からよく通る低い声が響き渡った。


「新入生の諸君。入会おめでとう、と言いたいところだが、今年はそういえないのが現状だ。我らが戦力は著しく低下している。よって今年から育成会を卒業した者、ではなく十分に戦力になり得る者、から戦争に参加してもらう。もちろん、個々の意思は尊重しよう。しかし、育成会に入ったということはその覚悟があると我々は考えている。」


人間同士の領土争いに駆り出されるのだろう。驚愕の色を隠せないでいたが、確かにその覚悟とやらはどこかしらにあったものだ。時期が早まっただけで、結局は通る道。焦るべきではないだろう。


「さて、担任のほうから連絡はあったと思うが、さっそく実力テストに参加してもらう。この実力テストでランク分けをし、上からS A B Cの四段階で総合評価を付けさせていただく。各担当の挨拶の後、開始する。では挨拶を頼んだぞ」


会長の言葉の後、三人の担当者が前に出た。


「挨拶を賜ったバッカズだ。剣技の教えを得意としている。よろしく」


「同じく、マヤっていうわ。魔術を教えているっていうか、魔術しか教えれないわ。よろしくね」


「レブルトだ。戦術について教えている。見ての通り戦闘できる体ではないが知識だけは教えよう」


レブルトは両足がなく、車椅子で移動していた。

そして左眼には眼帯がかけられ、その周りの皮膚は焼けただれた後があった。


その見た目から壮絶な戦いを乗り越えてきたのは想像に難く無い。そんな戦場に行くために修練をすると考えると、少し恐怖を覚えた。


各担当者からのあいさつが終わり、担任から指示があった。


「それじゃあ実力テスト始めるぞー。机に書いてあった番号に分かれてくれー。こっちからⅠ Ⅱ Ⅲで並べー」


指示された通りⅠの列に並ぶと、後ろから妙な視線を感じて振り向くと怪訝な顔をしてこちらを見ていた。


その視線の先はもちろんユウだ。Ⅱの列に並んでいる。

そして言いたいことはこれだ。

コウキと一緒じゃない。だろう。

やれやれ。

まったく。

可愛いやつだな。


整列が完了した後、会長からよく通る声で号令がかかった。

 




「これより実力テストを開始する!!」

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