第1話 始まりは楽しくも翳り

俺はコウキ、16歳。必須教育課程を修了し、来年からの進路に悩んでいる。



平民育ちは、教育課程を修了後はそのまま平民として農業や、土木などの肉体労働に就く。


または兵士育成会に入り、剣士・魔術師になって功績を上げ、国のお偉いさんになるかの2つだ。


貴族生まれは元々地位が高く、庶民に比べ楽に人生を歩む。しかし、貴族の中にも上下関係はあるようで落ちこぼれと呼ばれる家系もある。


「ユウはどうする? やっぱ育成会?」


ユウは昔からの幼なじみ。出会いは何て事のない物だが、なんだかんだ一緒にいる、最高の友達だ。


「そうだね~お姉ちゃんが行ってるし。コウキも来るんでしょ~?」

「そうするよ、ユウもいくし、何より戦う方が性に合ってる」


兵士育成会の入会条件はそう簡単なものじゃない。必須教育課程のなかで魔術の才か剣技の才に優れているもの。または学術の才に優れているものが条件となる。


この2人はコウキが魔術の才。ユウが剣技の才で合格している。


コウキは光玉使いの魔術師で、自身の魔力を自在に具現化できる。超高熱の魔力を球体にし、遠距離から自在に操り攻撃する、など自由自在だ。しかし、飛距離は10Mが良いとこだ。


ユウは姉と同じ流派である[幻影流]の刀使いだ。とにかく速さを追求した流派で、抜刀術はあまりの速さに一撃が何撃にも重なって見えることから幻の名がついている。ちっちゃい頃に教えてもらったそうだ。


「入会式まで結構期間あるよね~」


ユウが企みのある顔で話す。


「まさか、を? いいぜ久々にやるか! 」


アレとは、昔から休み期間になると少し開けた森の中に入ってチャンバラごっこをする。っていう男の子ならでは遊びだ。 


「んじゃいこ~!!」

「おう!」


森に向かうまでそれなりにある距離の中で他愛もない話に花が咲いた。


「コウキはさーホントに魔族っていると思う?」

「どした? 急に」


「有名な物語にでてくる話じゃ元から魔族っているじゃない? だから目で見たことが無いだけでホントはいるんじゃないかな~って」


「可能性はないとは言えないよな。どこかにこっちとあっちの境界があって一歩越えれば別の世界、みたいな。」


「もしあったとしたらそっちの人? とは仲良くできるかな~?」


「どうだろうな、意外と難しいんじゃないか」


他愛もない話をしているうちに目的地についた。


「よっしゃ!  ついたぜ、さっそく始めるか!」

「今回も参ったっていった方の負けね~!」


現在勝率は1011勝1008敗でユウの勝ち越しだ。


「この枝落ちたら開始ね~!  よっと!」


高々と宙を舞う枝が地面につくまでの瞬間、ユウは抜刀の構えをとり、鋭く変わった目つきに闘志が宿る。


溜めた魔力を解き放つが如く地面を蹴る。

― 幻影流抜刀術・壱番[身移しんい]。

鞘の中で抜刀の際、摩擦による加速をさせる間に相手との間合いを詰める技だ。その速さは10Mほどであれば瞬きをする間に到達できる速さである。


切迫した状態から放たれるは―幻影流抜刀術・陸番[一閃いっせん]。刀身が一筋の閃きを帯びるほどの速さの技だ。


だが、コウキはもうくらわないぜ。と言いたげな表情を浮かべる。


何度となく見てきた初撃を、腰をそらし刀身の下に潜って回避する。


幻影流最速の一撃を躱し、どうだ。と言わんばかりの自信あり気なその表情から、次の連続攻撃によってその余裕の色は失われた。


左下段からの切り上げ、すかさず振り上げた

刀身をやや右下に振り下ろす。続けざまに手首を返し、右から左への水平切り。


既の所で躱し続け最後の水平切りを後ろに飛んで避け、距離をとる。


「さすが幻影流の剣撃。何千と見てようやく避けれるようになったよ。」


以前までのコウキでは、連撃のどこかで必ず当たって痛い思いをしたものだ。


「ちょっと悔しいよ。でも見切っているのはコウキだけじゃないからね?」


抜刀術をさせる前に、先にコウキから攻撃を仕掛けた。


2個、具現化できる光玉のうち1つをユウに飛ばし、上下左右にと立体的な動きで攻撃する。


「1個だけじゃ、僕には当たらないよ!」


絶妙な体のこなしで避けながら、距離を詰めてくる。


だが、コウキはそれを待っていた。剣の間合いの少し奥にきたところでもう1つの光玉を飛ばす。だが、ただの光玉ではなくユウのもつ刀にそっくりの形に変え、剣撃をお見舞いする。


左下段からの切り上げ、すかさず振り上げた

刀身をやや右下に振り下ろす。続けざまに手首を返し、右から左への水平切り。


まさにユウが先程みせた剣撃をそっくり真似てきた。しかし、ただ真似るだけでなく一振りごとの合間にもう1つの光玉をユウに突撃させる。


しかし、ユウには当たらなかった。連続の剣撃は剣で弾き、迫り来る光玉は素早い身のこなしで躱す。


鬼気迫る様子はないものの、普段の余裕はなくなっていた。


「後一歩惜しかったね。同じ剣撃じゃなかったらわからなかったよ。」

「もう少し、ユウの剣撃を観察してれば良かったよ」

「ちょっと~、これで気軽に振るえなくなっちゃうじゃんか」


取り留めもない会話の裏で、お互いは次の一手を考えていた。


お互い手の内はわかっている。勝敗を分ける鍵はどちらが相手の不意をつけるかどうかにかかっている。


地上にいたらユウの独壇場、だな。上に逃げてみるか、と意を決し上空に待避する。


コウキは高魔力体を丸い状態にし、かざした両手の先において推進力を生み出し体を浮遊させ、10M以上はある高さから遠距離で攻撃を仕掛ける。


この高さなら、攻撃はしてこれないだろ。悪いがこっからは俺の番だ、と高を括っていたが、油断していると思いもよらないことが起こった。


なんとユウは空中を蹴り、上空にいるコウキとの間合いを詰め始めた。


一歩、また一歩と着実にそして迅速に迫り来る。


「そんなのありかよ!!!」


目の前に広がる衝撃に有効打となる行動が思い付かず、一瞬の隙をつくってしまった。


その隙をユウは見逃さなかった。左中段に構えた刀をコウキの首目掛けて振り抜く。


「 あぁぁ参った!!」


首元でピタッと止め、闘志の宿った目つきが普段の柔らかい表情に変わる。


武器をしまい、ゆっくりと着地する。


「いえ~い! またユウの勝ち越し~!」

「くっそーー! ありゃズルいぜ、空中を蹴ってくるとは思ってなかったよ」

「う~ん、なんかいけると思ったんだ~」

「いけると思ったって、それでできちゃうんだからユウは才能あるなー」

「まあね~~」


今回のチャンバラはユウの勝ち越しで終わった。


帰りの道も行きと同じ話題になった。


「コウキはもし魔族と戦うことになったら、躊躇なくトドメをさせる?」

「どうだろうな、誰かを殺すって敵といえど簡単ではないだろうし。ユウはどうなんだ?」

「僕ははお姉ちゃんとコウキを守れるなら何だってするよ。例え命を奪うことになってもね。」

「おうおう、こわいこわい。怒らせないようにしないと。」


そうこうしているうちに森の出口にきていた。


「んじゃまたなー」

「うん、入会式一緒に行こうね~」


別れ際、森の陰から何かが見ている気がした――。















     

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