第5話 因縁は穢れなき出会い

じりりりりりりり―――。


朝の決まった時間に窓掛けの隙間の朝日と共に覚醒を促してくる。


(もう、朝か。そろそろ起きないと。。。)


目覚ましの鐘をカチッと止め、布団から身を出す。


(さてと、ユウを起こすか。)



ユウとは同部屋で、起こさないといつまでも寝るから毎朝俺が起こしている。


「おーい、ユウ起きろー。朝だぞー!起きる時間だぞー!」

「うるさい...まだ寝てたいー‥」


布団の中で右左に体をくねらせる。


「ほうー?いいのか?ヒビキさん呼んでくるぞ??」


寝ぼけ眼でだらけているユウに脅しをかけた。


「げっ!それは...勘弁してー...?」


ヒビキはユウの一個上の姉でだらしないユウとは正反対のしっかり者である。


育成会では1日の予定が細かく決められている。今日は1,2年合同実技演習の予定だ。


「今日の授業なんだっけ~?」  

「確か、合同じゃなかったか?」

「え゛!2年生と一緒という事はお姉ちゃんが飛んでくるかも...」


「良いじゃないか!あんな綺麗で素敵な人そうそういないぜ??」


ヒビキは見た目も性格も良くて男子から明らかにわかるほどモテている。しかし、当の本人もユウ以外には興味がないようだ。


「そうなんだよね~~。血の繋がりが無ければお姉ちゃんと結婚したいもん。」

「また惚気やがって。」

「まあね~」

「んじゃそろそろ行くか」


集合はいつもの場所の屋外実習場だ。

屋外実習場といっても敷地の裏の森で、入り口のみ人が集まれる程度に整備されてるだけだ。


「さあーて集まったかな諸君。今日の題目は先刻伝えた通り、1,2年合同演習だ。早速2人1組を作ってくれ。ただし、必ず学年が違う同士で組むことが条件だ。いいな?」


はい!っという返事と共に皆が動き出す。 ある者は友達と。

ある者は先輩後輩で。

そしてある者は姉弟と。


「ユウ君は私と!」


[雷鳴]の異名をもつ姉は雷が如く素早さで弟の前に現れた。


「今日は別の人と組もうかな~...なんて」

「ユウ君は、わ・た・し・と!」

「はい...」


ヒビキのことは大好きなユウだが、合同演習の時はあれやこれやと事細かく話続けるからとても疲れるのである。


「さて、準備はいいか?ん?そこの1年。もう1人はどうした?」

「それが見つからなくて...」


一方、コウキはというと、1人残されていた。

この手の班分けはだいたい最後まで残るタイプである。


「おーい、そこの端っこで体育座りしてる女子こいつの相手してやってくれないか?」


そこにはか弱い女性という言葉がぴったりの女子がいた。

しかし、周りから浴びせられている視線は嫌われ者、忌み子を見る目、とはまた別のどちらかと言うと恐いものを見る目だった。


しかし、その女子からはそんな気配は感じなかった。


「あ..あの...わたしで良ければ...その..はい。」


見るからに華奢でか弱いが、言葉を発するとさらにその印象が強まった。


「あーよろしくお願いします、おれはコウキです。好きなように呼んでください。そっちはなんて呼べばいいですか??」

「あ..わたしは...リエ。よろしく..コウキ君」


当たり障りのない挨拶を交わし、コンビ結成となった。


「よし、これで揃ったな。これより1,2年合同演習を開始する。今回の演習は実戦形式とし、演習は全員が戦闘不能になるか、どこかに設置してある旗を取った組から修了となる。ただし、旗を取れるのは各組に1つ配っている札を3つ持っている者のみとする。説明は以上だ。」


(なるほどな、要するに戦闘力がものを言う演習というわけか。これは少し分が悪そうだな....)


「演習の前に各組ごとに作戦を考える時間をやろう。私の合図で終わりとする。今年はどんな作戦があるか見物だな」



「えっとー、去年もありました?この旗取り合戦。」


尋ねると思いの外、流暢に答えが返ってきた。


「う、うん....あったよ。去年わたしは後一歩ってところで負けちゃったんだけど....今回は、その、いけると思ってる...。」

「意外と自信あるんだ。どうやってそこまでいったんですか?」


これまた意外な返事が返ってきた。


「わ、わたし...戦闘には自信があるの。」


「へ?」


想像の遥か上を行く回答に、思わず変な声が出てしまった。


「戦闘って、あのー、罠とかそういう感じのです?」


「う、ううん、わたしは形状変化で色んな力を使えるの。」


形状変化――。

腕を強靭な爪に変え、脚を超人的な脚力にし、五感を数万倍まで高める。他にも色んな形状が存在し、その形は本人次第で何通りも作ることができる。


「そういうことか!いや、でも、いささかそんなばりばりの戦闘をするようには見えないですよ?」


「う、うん。よく言われる...。でも、戦闘が始まるとなんか、こう、咎が外れるというか、その...。」


「あ、ああ。そういうことか...。」


周りがあんな視線だった理由がわかった気がする。


「そうだ、俺の能力を伝えておきます。俺は光玉使い。今は2個しか操れないけど、それなりに自在に使えます」


光玉――。

高魔力体を自在に操り、剣のように振るったり、両手にかざして推進力とし空を移動したりできる。


「コウキ君も珍しい能力だね..。コウキ君の戦闘力次第だけど、今年は勝ちたいな....。」


悪気はないのだろうが、癪に障る言い方だった。


「作戦はどうします?何か考えがあったり...?」


想定よりも、もっと具体的な作戦がでてきた。


「わたしの聴力と嗅覚で....敵の位置を割り出して..一気に札を3つ集める。コウキ君は....わたしが集めてる間に旗を探してて...見つけたら..わたしの名前を叫んで....そしたらすぐに跳んでいく、わ。」


能力を存分に使い切ったいい作戦なんだろうがこれは...。


「俺じゃなくても良くねぇか...?」


小さく呟いたが、リエには聞こえていたようだ。


「そ、そんなことないよ。い、いざとなったら上空に逃げられるし、10秒持ち堪えてくれれば何とかできるし、ひ、光玉使いのコウキ君だからこの作戦が実行できるん...だよ。」


「そ、そうですか...。」


そう言われると悪い気はしないが、しかし、

舐められているのは確か。

だけど悪意がないから憎めない。


「そんじゃその作戦でいきますか。といってもリエさん任せで俺は特に何もできないだろうけど」


話のキリが良いところに丁度良く、会長の合図がかかった。


「諸君!これより、私の魔法でランダムに君達を転移させる。その転移が終わるのが開始の合図だ。各々、思う存分力を発揮したまえ!」


会長が言葉を終わると、全員、光に包まれて一瞬の静寂のうち、違う場所に転移していた。


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