22 勇者、北部都市に住まう(二)
十日が経った。
メイが再びブラッドカースに攫われ、その手がかりを得るために北部都市カイマナに滞在してから、十日が経った。
そんな獅子浜、コウキ、リーズの三人はギルドのクエストを承け、第二カイ山の麓近くきていた。
その辺りでは通行する馬車が時折魔人の被害を受けており、これを退治する依頼がギルドに届いていたのだ。
▪️▪️▪️
「リーズ、後方からサポートを頼む!コウキはデビルソルジャーの増援を警戒してくれ!」
「……分かってる!…任せて」
「了解です!」
獅子浜は馬車に多くの荷物を乗せて行商に偽装。そこへまんまと引っかかったデビルソルジャー率いる魔人と戦闘を行っていた。
「おのれ魔人め!これ以上の悪行は許さないぞ!ブレイブアップ!」
道の前方に構える魔人と六体のデビルソルジャーへ大声を上げると突っ込んでいった。
「なんダと!罠だっタのか!ダが、冒険者メ!俺を舐めルなよ!」
魔人も負けじと大声を出す。手下であろうデビルソルジャー達と同時に獅子浜へ襲いかかってきた。
「負けるものか!」
目の前のデビルソルジャーへ正拳突きを出して吹き飛ばす。続いて二撃、三撃と拳を放ち、他の敵の体勢も打ち崩す。
「おのレ!」
全身が西洋の鎧のようになっているその魔人は左腰から剣を引き抜いた。そして走ってくると獅子浜目掛けて剣を振り下ろす!
「……ッ!」
デビルソルジャーに気を取られていた獅子浜はその場でバックステップをとり回避。
ズドン!と、獅子浜が直前までいた地面へ剣先が刺さる。
その隙を見逃さず、獅子浜は魔人の胴体めがけてアッパーを放った!
「ぐゥぅアぁぁ!」
会心の一撃!獅子浜の一撃を受けた魔人は武器を手放し後ろに大きく飛ばされた。
「おりゃぁ!」
後ろで声が聞こえてきて急いで振り返る。そこにはデビルソルジャー立ちを相手取り戦うコウキがいた。既に二体が鮮血を撒き散らし倒れ、残りの敵も手負いの状態だ。
「シシハマさん!ここは任せて魔人に集中してくどさい!」
獅子浜と目が合ったコウキは強く言った。今の彼には余裕は無いが、窮地でも無い。
──今の彼なら必ず勝てる。
この数日、数度のクエストをこなしてコウキはだいぶ強くなれた。彼のことを信じると、獅子浜は魔人へ振り向いた。
──あの魔人は素手の状態。逃がさないためにもここで倒す!
「フォトンソード!!」
甲冑の魔人を倒すため獅子浜はバングルに手をかざし、剣を取り出す。次いで剣柄を振り構えると光の刃を発生させた。
「これで終わりだ!魔人!」
獅子浜は左腰に剣を据え、走り出す。剣先にエネルギーを送り、力を蓄える。──フォトンスラッシュの構えだ。
「なンだ!まっテくレ!ちょっト!おマえ…、まサか──」
「終わりだ!フォトンスラッシュ!!」
狼狽える魔人に走りより、逆袈裟斬りを放った。ズシュゥゥゥ!!と激しく火花が飛び、魔人の身体を焼き斬った。
「ぐアぁぁぁぁ!!」
魔人の断末魔が辺りに響く。力なく後ろに倒れ、起き上がる気配はない。
あとは息絶えるのを確認するだけだ。
「……ヒール」
だが、それを拒むように魔人へヒールをかけると者がいた。リーズだ。
「リーズちゃん!?…なん、で…」
「……こいつから聞きたいことがある」
そう言ってリーズはコウキと共に倒れる魔人の側へやってきた。
「ぐ、ぐギぎ。なんなんだ、お前たち。助けて、くれるのか?」
「……質問に答えたなら」
リーズは冷たい眼差しで魔人の顔を上から覗き込む。
「…まず一つ、あんたは魔術が使える?」
「そんなの…出来たら、俺はこんな仕事、してないぞ」
「…そう……」とリーズが残念そうな言葉を洩らす。しかし態度ではそのような様子はない。戦いの最中で、この魔人は魔術を使えないことを察していたのだろう。
「……じゃあ次の質問。あんた、死体いじりが好きな魔人を知ってる?」
その言葉を聞いて息絶えそうになっていた魔人の目は開かれ、口角が上がった。
「お前ラ!あイつを探シていルのか!ダがムダだな!諦めロ!あいつハ、デッドソーサラーは、…用心深い!そんじゃソこらの魔人は…詳しいこと、を、知らないダろう!
魔人は胸の傷口を両手で抑え、苦しそうにしながら言葉を続ける。
「そう…、ダな!あいツの直属の上司、ブラッドカース様ナら、知っテいる、カもナ!」
こちらの答えには、リーズも落胆を見せる。
この魔人の答えは堂々巡りのようなもの。ポジティブに捉えれば、ほかの魔人からも手がかりは得にくいってことが判明した。
もうこれ以上は聞いても仕方が無い。と考えたのだろうか、リーズは魔人に背を向け、離れた。
「おイ、言えルことは全部言っタぞ。助けテくれるンじゃナいの──
ブスゥ…
回復担当のリーズが去り、焦る魔人。そこへ、コウキの槍が顔面を穿いた。
グシャッ!っと肉のちぎれる音がなり、刃を引き抜く。
ある程度離れ、爆発したのを確認すると馬車に乗り込んだ。
──これで今回の依頼は達成だ。あとは北部都市へ戻り、報告するだけ…
今回の依頼も魔人が絡むだけあり、だいぶ報奨金の高い依頼だった。三人に大した怪我は無く、短時間で達成しただけに誇るべき業績なのだが──
「……」
「また手掛かり探さないといけないですね」
「……今日もまた、ギルドで聴き込みする」
どこか不満げの残る態度を示していた。
▪️▪️▪️
無事依頼を達成した獅子浜達は、証拠になる魔人の欠片を手にいれ、帰路に着いていた。
「……はいこれ、魔力消費したでしょ。…飲んでおいて」
「ん?…ああ、ありがとね、リーズちゃん」
気を利かせたリーズがマジックポーションを一本譲ってくれた。
確かに先程の戦いで幾らか疲労していた獅子浜は、蓋を摂ると一気に飲み干した。
──うん、身体に力が染み渡るみたいだ。
空になった瓶を懐にしまい、馬車の先方へ向き直る。
相変わらず続くうねった山道を、御者の巧みな操縦技術で早々に下っていくのであった。
馬車がちょうど第一カイ山の付近まで下り、底を川の流れる崖がそびえる細道を進んでいた時だ。前方に一台、馬車が止まっているのが見えた。
よく見るとその隣には一人誰かが立ち、中を確認している。
「何かがかりますね。検問でしょうか…でもそれにしては何かおかしい…」
「……武器を構えておいて」
獅子浜達の馬車がそこへ近ずいて行くなか、件の止まっている馬車は謎の人物を置いて出発した。
そしてその人物はこちらを振り向く。遠目では分かりにくかったが、近くまで来た今ならわかる。
──あいつは、魔人だ。
あの馬車で特に何事もおきなかった以上、獅子浜たちも戦闘は避けられる可能性がある。
だが…、
それでも…、
彼らは魔王軍討伐を志し旅立った仲間。
「いくぞ!」
見つけた魔人を野放しにすることは出来ない。獅子浜たちは馬車を止めさせると飛び降り、戦闘隊形に入った。
魔人の前に三人が並び、睨みつける。
相手の魔人は機械の鎧を身につけ背中には銃のようなものが付き、右肩から銃口を覗かせている。
こんな特徴があれば直ぐにわかる、こいつはまだギルドへの報告にない魔人だ。
「おいおまえ!ここで何をしていた?」
棒立ちでこちらを観察してくる魔人へ、コウキが怒声を飛ばす。
「勇者を……探している。先程、勇者の反応があった。知らないか?」
それに対する魔人の反応は呆れるほどに淡々としていた。よく言ってマイペース、悪く言ってこちらの態度を全く理解していないようだ。
──あいつの目的は俺か、ならばちょうどいい!
しかし、最初からその魔人を倒す予定だった獅子浜にとっては好都合。
「ブレイブアップ!」と叫んで変身し、フォトンブレードを取り出して構えた。
「魔人!俺が、この勇者が相手だ!これ以上の悪事は許さない!」
「な……お前か…お前か!お前が勇者か!!コロす…コロスコロスコロス!」
獅子浜の変身した姿を見るなり激昴。背中の銃を傾け、銃口をこちらへ向けてきた。
「二人は下がっていてくれ!」
一瞬振り返り、そう言って獅子浜は走り出した。
バシュ!バシュ!と、魔人のうちだした弾丸が飛んでくる。
獅子浜は大きくジャンプして回避。
ドゴォォン!
何も無い地に着弾し、炸裂音が響く。
獅子浜は着地後も走り続ける。2弾目、3弾目と回避して魔人へどんどん近づいていった。
「これ以上は撃たせない!」
魔人の銃口目掛けて剣を突き刺した。銃はそれ以上弾を撃てなくなり、火花が散る。
「──この!」
魔人が抵抗しようと拳を握りしめ、獅子浜の顔めがけて振りかざしてきた。
しかし、獅子浜は銃から剣を引き抜き、素早く下がってソレを回避した。
「これで終わりだ!」
剣を左腰に構え、気を集中させる。
フォトンスラッシュを出す準備をして再び魔人へ迫った。
だが、魔人は避ける素振りを見せない。
「それを、待っていた」
魔人は両手を広げる。次いで胸元の装甲が開かれた。
そこから覗かれる紫の鉱石が激しく光る!
「エナジードレイン!」
魔人が叫ぶと胸元の鉱石から光が飛び、獅子浜へ当たった!
「う、うぐぅぅぅぅぅ!うがぁぁぁぁぁぁ!」
「勇者の力、奪わせてもらう」
光が全身を包む。痛みはない──だが謎の不快感が、謎の脱力感が全身を襲ってきた。
光が収まり、解放された獅子浜は両膝を地面に着き、次いで腕を着いた。
果てしない疲労が身体に積もる。とてもじゃないが立つことなんでできない。
対して力を吸い取ったらしい魔人はピンピンしている。胸にそなわる紫の鉱石は強く輝き、右腕にも何かが輝いている。
──あれ、は……
──まさか……
意識が途切れ途切れになる獅子浜がそこに見たのは……
……女神のバングルと同じ形をした腕輪であった。
【第22話 完】
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