20.5 Wake up the Anti Hero (Ⅰ)
それは、獅子浜鉱山から帰還した日の晩。メイが連れ去られ、ブラッドカースと洞窟で過ごした晩の事だ。
▪️▪️▪️
──意識を得たのはいつ頃だろうか
──未だ醒めぬ意識の中、四肢が作り上げられてくのを実感した
──既に身体は形を作り上げられ、あとはここを出るのみ
──日に日に鮮明になっていく意識の中、自分の出番が来るのを待っていた
そんなある日
プシュゥゥーー
──自身を囲う器に音が鳴り響いた
──次いで、満たされていた液体が無くなっていく
──これまで与えられてきた知識で、直感的に解った
──出番が、きたのだ
この脚で初めて地面を踏み、自力で立ち上がる
──重力とは、こんなに重いものなのか
器から出て、なれぬ脚つきで数歩前に踏み出す。
「床」と呼ばれる所へ出ると目の前にいる「男」を見た。
これは与えられた知識で分かる。「我」を作り出した張本人だ。
「やっと…完成しましたよ!ククククク……!!さあ、自分の名を言うのです!!」
命令されるがままに、それに答える
「エビルソウル」
「そうです!!君の名はエビルソウル!!やるべき事は!?」
──それも、与えられた知識に含まれている
「勇者を、倒すこと」
男が、ニンマリと笑った
それ以後も何度も問答が行われた
「我」の機能を確認しているのだろう
「男」が尋ね、「我」が答える
「我」にはその重要さが分からない
だが、「男」は答えを聞く度にその顔を歪ませていった
最後に「男」は行ってこいと「我」へ命令した
既に我が知識内にある構造図を頼りに、外へ歩む
未だ慣れぬ「歩く」行為を学習しながら、見知った初めて歩む通路を進んでいった
外へ出て辺りを一望
周囲の空気を吸い込む、周囲の音を聴きとる
「我」が記録に存在する情報と照らし合わせる
それが土の香り、鳥の鳴き声、木々のざわめきであることを確認
「我」が記憶に刻み込む
──いや、こんなことをしている場合ではない
目標地点は北部都市の周囲にそびえる山
その辺に勇者がいるはずだ
まずは、そこへ向かう
我の目標は勇者を倒すこと
制限時間は25日
それが「我」に与えられた寿命
それが「我」に与えられた猶予
▪️▪️▪️
──とうとう完成したぞ!
──これこそが、私の望んだ新兵器
──対勇者用に特化した新たな魔人だ!
完成したその個体を出すため、パネルに表示される「取り出し」ボタンを押す。
次いでケース内の溶液が回収されていき、内部の魔人が地に足をつける。
そして、ケースが開かれた。
──まだだ、まだ、最後の確認が出来ていない。
──焦るのはまだ早いぞ、金谷!
心臓が激しく動き、冷や汗が流れるのを必死に抑えようと、自身に言い聞かせる。
──記録が問題ないか確認しなければ
「やっと…完成しましたよ!ククククク……!!さあ、自分の名を言うのです!!」
「エビルソウル」
期待通りの返事に高揚感がつのる。
それ以降も幾つもの質問をする。そしてそれに問題なく答えてくれる。
動きにも問題は無い。
──間違いなく、成功だ!
何体もの魔人をこれまでに作りあげてきたが、やはりこの瞬間の達成感は何事にも変え難いものがある。
エビルソウルの背を見送り、旅立ったことを確認すると私は机に座り、余韻に浸った。
やつならばどの魔人よりも効率的に勇者を倒せるだろう。
何しろ、私がそう作りあげたのだ。
これまで作った魔人は皆汎用型。憎しみの対象を「人間」と設定し、多くの人を殺すように定めてきた。
しかし、今回の魔人は違う。エビルソウルは憎しみの対象を「勇者」まで狭めたのだ。そうしたことでやつは勇者を激しく憎む、破壊装置となり得た。
そして新兵器のイミテーションバングルも装備させ、奥の手のギミックも備えてある。
やつがどんな結果をもたらすのか今から楽しみで仕方が無い。
「──ククク…。クーックックック!!……ハーッハッハッハッハ!!!」
柄にもなく大声で笑う。
私一人を除き、誰もいない研究室内を音が響いていった。
▪️▪️▪️
【第20.5話 完】
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