19 勇者、人質奪還計画(一)
「…おかえり!」
獅子浜、コウキ、リーズの三人は鉱山の深部にて待ち構えていた魔王軍の一人、「ポイズンウィップ」と交戦。
死の淵に立つ獅子浜であったが仲間の助けを求める声に目を覚ます。新たな武器、「フォトンブレード」を手にして魔人を撃破。
メイの待つ地上まで三人、生還するのであった。
▪️▪️▪️
「ただいま、メイちゃん」
コウキも黙って腕を上げ、親指を(グッ)と出す。リーズも笑顔で「……ただいま」と小声で呟いた。
そう──帰ってこれたのだ。これで安心できる。
そう思った途端、力が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。
それを見た門番が慌てて駆け寄り、立ち上がらせて貰えた。
皆で笑顔を向け合い、馬車に乗り込もうと歩き出した。
「ようやく戻ってきたのですね。随分とノロマですこと!」
獅子浜たちの上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
全身に戦慄が走る。恐怖が蘇る。
──なんて…タイミングなんだ…。今は、今だけはダメなのに!?
獅子浜は目を見開いて声の元を睨みつけた。
その姿は太陽で影になりはっきりと見えない。だが、あの長い髪、あの長いドレス──あの
「何の用だ!」
「ふふふ…少し、
そう言ってブラッドカースは上空に多数の火炎球を生成する。奴はあれを獅子浜達に降らせるつもりだろう。
「リーズ!魔術障壁は!?」
「……すみません、シシハマ様。…魔力が尽きていて、出せない!」
「くっ」と歯を強く噛み、ブラッドカースの方を睨み直した。
──今の状況では防御手段はない。やつの狙いは恐らく俺一人。ここは…俺が囮になり、ここから遠ざけさせるか…?
「お前の狙いは俺なんだろ!俺だけを攻撃しろ!」
「あら。そうではなくてよ!」
皆を庇うために前に出る獅子浜。しかしそれを無視してブラッドカースは周囲一帯に火炎球を撒き散らした。
ドォン!ドォン!
火炎球が地面に衝突し、黒煙が広がる獅子浜が後ろを振り返るが、視界は遮られ何も見えない。
「みんな!無事か!?」
「問題ないです!」
「……当たってない、!平気!」
先程まで隣にいた二人は無事なようだ。だが…、一人、メイの声が聞こえない…!
耳を澄ませ辺りの音を聞くと、ぱちぱちと草木が燃える音、咳き込む声の中に「んー!んー!」と口を塞がれながらも叫ぶような声が聞こえてきた。
──もしかしてこれは…メイか!?
「メイ!そこにいるのか!」
「あら、今のところは無事でしてよ」
嫌な返事だけが返ってくる。
黒煙が落ち着き辺りが見渡せるようになると、声の元にはブラッドカースと拘束されたメイがそこにいた。
奴の言う通り、見る限りメイに怪我はない。
「ブラッドカース!メイさんを離せ!」
「三下に用はなくてよ」
コウキには目もくれずにあしらう。ただこちら、獅子浜の方だけを見てくる。
ゆっくりと手を上げ、人差し指で指してきた。何か魔術を使うかと構えたが、その気配はない。
「勇者よ、良く聞いておきなさい。明日の昼前過ぎに北部にある第一カイ山の山頂に一人で来ること。もし、約束を破ればこの娘の命はなくてよ!オーッホッホッホ!」
ブラッドカースはそれだけを告げると浮かび上がり、メイを連れ去り斜面の上の方へ消えていってしまった。
残された三人と門番たち。
「クソっ!」
獅子浜は怒り、悔やみ、地面を殴りつける。
──どうしてここで助けられなかったんだ。もっと、もっと強い力があれば…ッ!?
今悔やんでも仕方ないのは分かっているが、当たらずにはいられなかった。
「……シシハマ様、ここは一旦街へ戻るべき。…帰ってギルドに報告する、そして今後の策を立てる」
隣に寄ってきたリーズに促される。
──彼女言う通りだ。メイを助けるまで時間があまり無い。今すぐ帰り、身支度をすませなければ。
「あぁ、すまない。そうだね、ありがとうリーズちゃん」
直ぐに立ち上がると馬車に三人で乗り込む。鉱山門番の一人が運転に名乗り出てもらえたので、その人に馬車を操縦してもらい北部都市へ戻るのであった。
▪️▪️▪️
北部都市に着いた三人が真っ先に向かったのはギルドだった。それは勿論、クエストの報告をするためである。
「なるほど…、やはり鉱山奥には魔人が住み着いていて、そこを訪れた人々を襲っていたのですね」
「………でも、完全に終わったわけじゃない。…私たちが倒した魔人は「相方」がいるって言ってた。…そいつとはまだ会えてない」
一通りの連絡を受けたギルド嬢が報告書を作成しながら、簡単な質問を問いかけてきた。それに対しリーズはあの魔人が言ったことを口に出す。そう、今回の調査で鉱山の失踪事件の原因は判明したが、終着には至ってないのだ。失踪者の遺品は回収されてなく、遺体も見つかってない。少なくとも今回の事件を終わらせるには、それらのことも解決しなければならない。
「なるほど、なるほど…。これは新しく依頼をギルド側から出す必要がありますね。もし良ければ皆さんに引き続きこの調査を続行して頂きたいのですが…
「申し訳ないですが、俺は辞退させてもらいます」
獅子浜はギルド嬢の話を途中で遮り、断る旨を述べる。今回の事件が魔王軍絡みと判明してる以上、普段なら名乗り出るところだが、今は事情がある。明日の昼には第一カイ山に行き、メイを救いに行かなければならない。
「俺も断ります。付き合いが短いとはいえ、メイさんのことを見捨てることなんてできません」
「……私も」
ギルド嬢がしゅん…とした顔を見せる。
彼女の気持ちはよく分かるが、これだけは譲れない。同じ判断をとった二人に感謝を、ギルド嬢に再び謝罪を述べて離れようとした。
「なになに〜?お嬢さんなにか困り事〜?」
獅子浜達が帰ろうとしたところへ一人、軽薄そうな男がやってきた。
「へリムさん!」
ギルド嬢の顔に大きな笑顔が浮かぶ。彼は有名な人なのだろうか。彼を観察すると胸元に黄金色の札がちらりと見えた。星までは確認できなかったが彼は最低でも一星金なのは確か、つまり相当の手練のようだ。
「ん?おやおや、君はもしかして──
へリムがリーズの顔を覗き込み、目をぱちくりとさせた。
──リーズじゃないか!久しぶりだね。いやいやまぁまぁ、随分と綺麗になっちゃって!もし良ければこの後、僕とお茶でもしない?」
「……結構。…依頼受けてくれるならよろしく。…私は帰る」
リーズは獅子浜の手を引っ張ると、後ろで話すへリムを無視してそのままギルド会館を出た。
「リーズちゃん、あの人放っておいて良いのかい?」
「……シシハマ様、それよりもメイのことでしょ」
先程の反応からして、二人は旧知の仲のようであった。獅子浜に時間が無いのは確かだが、感動の再会を妨げるまでの気概は無い。
二人の関係性を察しつつも、自分のためにどこまでも協力的になってもらえることに感謝する獅子浜。宿へと戻ると、明日のメイ奪還作戦について話し合いをするのだった。
▪️▪️▪️
「じゃあ、行こう」
獅子浜たち一行は馬車に揺られながら宿を出発した。目指すは無論、ブラッドカースが待つ第一カイ山。
北部都市から目と鼻の先にあるその山は背も低く、昼前に都市を出れば約束の時間には充分間に合う。
だが、獅子浜は待っていられなかった。朝早くに目が覚めると、同じく早くに起きた二人とともに出発したのであった。
「それじゃあ行ってくるね」
山の麓まで辿り着くと、一人で登山路を登り始めた。手を振って見送る二人に、ここまで着いてきてれたことにを述べて別れた。
──どうか無事でいてくれ、メイちゃん…
獅子浜の胸には不安と焦燥感が積もる。彼女を一刻でも早く救いたいと思う願いで頭が満たされていた。
【第19話 完】
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