16 勇者、北部都市にて(二)
北部都市へ向かう道中、獅子浜達は謎の変死体を発見。
それは河を挟んだ対岸の森の中、しかもアンデッド化の魔術が施されていた。
「これは魔王軍の仕業かもしれない…」
獅子浜達はこの疑惑を解消するため、都市に急行するのだった。
▪️▪️▪️
河原で再出発して以降、特に何事もなく順調に進む。
彼らが周囲を警戒する一方、平和に北部都市へ到達するのであった。
「旅の方ですね。ここまでお疲れ様でした。検査をしますので、何か身分証の提出をお願いします」
「えっと……」
メイが入口の門にたどり着き、検査を受ける。
身分証になるものは紫の短剣しかない。出来れば見せたくない…と、焦りを見せる。
「このギルド証でいいですか?あ、ほらリーズも出して」
「……分かった。…これが私の身分証」
それを見たコウキがフォローに入る。
──これまで、こういった検査は全て御者がしてくれていたのだろう。今後、俺たちだけで動くならギルド証があった方が良さそうだな。
などと、その様子を眺める獅子浜は思った。
「はい、ありがとうございます。問題ありませんね。あとのお連れのかたは、お二人が保証する形でよろしいですか?」
「はい、こちらの二人は俺達がそれぞれ保障者になります」
「かしこまりました。それではようこそ、北部都市へ。」
一通りの検査が終わったらしく、獅子浜一行の馬車は門をくぐり抜ける。
──何が起きるかは分からない。
獅子浜は周囲に気を配る
コウキはこっそりと槍を持つ
リーズはマジックポーションを手に持つ
門をくぐり抜けたその先には────
────なんてことの無い、普通の街景色が広がっていた。
赤く染まる空の下、クエスト終わりらしき人達が道端で談笑している。窓から香ばしい煙が出ている。子供たちが家に帰ろうと辺りを走っている。
どう見ても平和な都市だ。
獅子浜から緊張が抜ける。
メイも、コウキもリラックスしたようだ。
「私、安心したよ!この街は平和みたいだね!」
「そう…、だな。とりあえず、宿向かおうか」
うん!、と元気な返事帰ってくる。
馬車はそのまま進み、宿にたどり着く。昨晩よりは少し規模の大きい、柔らかいベッドを期待できそうな宿だ。
無事に受付も済ませ、獅子浜とコウキ、メイとリーズの二手に別れてそれぞれ部屋に入った。
「あのー…シシハマさん。メイさんのことはどう思ってるんですか?」
荷物の整理をしながら、コウキが尋ねてくる。
なぜ今?と思ったが、二人の時にしか相談できない事なのだろう。と獅子浜は考えた。
「メイちゃんのことかい?色々な所に気を配ってくれるいい子だと思ってるよ」
獅子浜の答えに、どこか不服そうな顔を示す。
小さく溜息を付くと、「そろそろ行きましょうか」と外へ促された。
宿の入口で待っていると、少しの時間の後メイとリーズもやってきた。
四人揃ったところで、初めに道具屋に向かう。これはリーズの提案だ。
先の魔王軍側近との戦闘で、マジックポーションをほとんど使ったらしく、補充したいらしい。それにアンデッドを警戒して、夜になる前に聖水を多めに揃えておきたいとの事だ。
▪️▪️▪️
カランカラン
「いらっしゃ〜い」
店に入ると気だるげな店主の声が響いた。
「……あった」
リーズが目的の物を見つけたらしい。棚に並ぶマジックポーションを全て取る。続いて聖水の瓶を見つけるとそれも全て取った。
「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん?」
「……店にあるのはこれで全て?…奥にあるならそれも持ってきて」
カウンターにズラリと並べると、慌てる店主にさらに追い打ちをかけた。
「か、確認します…」と、店主は急いで後に戻っていった。
「リーズ?そんなに買わなくても…」
「……いえ、念には念を。アンデッドはまだ多数いるはずです。可能な限り持ってきましょう」
コウキ、メイはそれに反対する素振りを見せない。獅子浜も、リーズには何度も助けられている以上、反論はなかった。
「……これでバッグは一杯。…こっちはコウキが持って」
「えぇー」
店にあった聖水の約半数を購入し、店を出た。もちろん、そんな数リーズが持てるわけないのでコウキが荷物持ちになる。
木箱に沢山入った瓶を、慎重に運ばされるコウキは必死そうだ。
「俺も持とうか?」
「……いいえ、大丈夫です。シシハマ様、コウキはもう少し筋肉つけた方が良いので、そのままにしてください」
見かねて手伝いに入ったが、何故かリーズに断られる。
この二人の上下関係が何となく分かってきた獅子浜であった。
そのままの流れで、隣接する店舗に入る。
「「うわぁ…!」」
獅子浜は店内の景色に圧倒され、声を出してしまった。先程の店とは比較にならないほどの広さ。大量に並ぶ革や金属製の鎧。それに様々な大きさの剣や槍、斧もおいてある。
──これまでの街では、ここまでの品ぞろえなんでなかった。これが鉄鋼都市なのか…
何人もの店員に、多くの客もいる大規模武器店に圧倒されてしまった。
「シシハマさんこっちこっち!」
荷物を置いたコウキが楽しそうに案内をしてくる。
獅子浜に良さそうな武器に、何か心当たりがあるのだろうか。剣のコーナーへ行くと物色をし始めた。
ぶつくさと「これじゃない」「これでもない」と、呟きながら様々な片手剣を見比べる。獅子浜には剣の善し悪しなんて分からないので、一任した。
店に入って20分くらいは経ったのだろうか、コウキが一本の剣を持ってきた。やや細身の直剣、獅子浜が持つにしては小柄な剣だ。
「初めはこれがいいんじゃないかと思います。慣れたらまた買いましょう」
そう言って獅子浜をカウンターに連れていった。「じゃあ後は」と言ってメイを連れて鎧コーナーの方へ行ってしまった。
取り残される獅子浜。この後どうすれば良いのか分からない。困った。
「ではお前さん。握り部を調整するから手を出してくれ」
そう言われ腕を出す。その後も鍛治職人に従い、武器を調整してもらった。
購入した剣の調整が終わった頃だ。メイも防具を選び終わったらしく、細かい調整をおこなっていた。
これまで身につけていた鎧よりも強く輝き、少し覆う面積が増えている。金属部以外も革で保持され、頑丈そうである。
支払いも終え、店を出る。大きな出費だったが、命には替えられない。
空は深い紺色を示し月が見えていた。
このままギルドに行きたかったが、どうやら時間切れのようだ。
皆大きな荷物を抱えて宿に帰り、柔らかなベッドに身を鎮めるのであった。
▪️▪️▪️
翌朝、獅子浜達は真っ先にギルドへ向かった。
やることは獅子浜とメイの冒険者登録と…アンデッドに関する依頼の確認。
冒険者の登録にはいくつかの検査があるらしい。が、二人の保証ですっ飛ばされ簡単に登録ができた。
貰ったのは銅色のプレート。星が一つ付いている。
これは階級らしく、プレートの色は銅、銀、金の三色。星が一から四まであるとの事だ。
見せてもらったがコウキは二つ星の銀、リーズは四つ星の銀。二人ともそこそこの中堅クラスだったようだ。
「よろしくな後輩!」
「うん!よろしくね!」
「ああ、先輩」
コウキが嬉しそうに話す。メイも自分の肩書きが増えて嬉しいようだ。二人の楽しそうな姿を見て獅子浜も笑顔になった。
「……これを見て」
どこかへ行っていたらしいリーズが、1枚の紙を持って戻ってきた。
パッと見てわかったが、それはギルドの依頼書だ。紙には、赤い髑髏のスタンプとバツ印がいくつも付いている。
「げえっ!そんなに難しいの持ってきてどうするんだよ」
「……これは近くの鉱山を調査して来るって内容。…突然消息を絶った作業員がどうなったか調べ、坑道の安全性を確保してこいって」
「そういえば…、さっき武器屋のおっちゃんが鉱山のうち一つが使えなくなって武器が不足してるって言ってたな…」
鉱山で多数の行方不明者。獅子浜の頭に疑惑が浮かんだ。
「消息を絶った何人もの作業員と冒険者。街の近くにいたアンデッド。この二つは…関係あるかもしれない。行こう!」
「いやいやいや!何人も失敗してますよ!無理ですって!」
「いや、行くぞ。メイちゃん、馬車を出してくれ。今からその鉱山に行こう!」
メイが「分かった」と言うとギルドを急いで出ていく。宿近くに置いてある馬車の準備に行ってくれたのだろう。
獅子浜は受付にその依頼書を持っていった。
「こちらの依頼書ですね。確認しました。失礼ですがあなたの階級では死する可能性が大いにございますが、覚悟は出来ていますか?」
受付嬢はそう告げる。獅子浜の今の階級、一星銅では厳しいと配慮してくれたのだろう。
「俺にはこんな仲間がいます。それに、困っている人たちを放っておけないんですよ」
コウキ、リーズと目を合わせながら自身の決意を語る。
その鉱山に何があるかは分からない。だが、そこへ行く決心は十分に固まっていた。
「四つ星銀の方が仲間なのですね。でしたらこれ以上は申し上げません。どうぞ調査の方、お願い致します」
受付嬢の丁寧なお願いとともに依頼は受諾された。
目的地は西の鉱山。一番近くにある最も大きな採掘場だ。
獅子浜達は道具屋に一旦寄り、松明を幾つか購入するとメイの待つ宿に向かった。
馬車に乗り、目的地をこと細かく確認すると探掘場へ出発するのであった。
▪️▪️▪️
【第16話 完】
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