14.5 仮面婦女、帰還
帰ら…なければ…
早く、新しい仮面を…付けなければ…
勇者との闘いで仮面を壊された私は逃げるしかなかった。
あの仮面は魔力の流れをコントロールするもの。
本来、魔力を大量に持つ者はそれを制御できる力も持つ。しかし、ワタクシは膨大な魔力を持つ一方で、殆どコントロールが出来ないのだ。魔力を用いれば流れに異常をきたし、身体が蝕まれていく。
こんな異常な体質なのは、ワタクシに施された改造の影響だ。ワタクシの本名はセレン・ポロニューン、東北部にあるポロニューン家の娘だ。その家は地位の低い貴族階級であり、魔術研究に努める一族である。そこで産まれたワタクシは魔力を多く生成出来るよう、幼少期に魔術で改造を受けたのだ。改造は半ば成功、ワタクシは多くの魔力を得たものの、それを操る力までは得られなかった。
そのせいで多くの魔力を持つのに、それを扱えない歪な体になってしまった…。
そう、仮面を持たない今のワタクシはほんの低級魔術しか使えない女……。
「うっ…。あぁっ!」
割れるように痛む頭を両手で抱えながらワタクシは基地の方向に逃げた。
せめて、勇者に追いつかれないようにと浮遊魔術で逃げてきた。でも、どうやらここが限界のよう。これ以上の魔術は、本当に身体が壊れてしまう。
ワタクシは森の中に身を隠して、木陰で休む。せめて、少しでも楽になれるようにと全身の力を抜いて目を瞑った。
▪️▪️▪️
無抵抗な姿で身体を休め、どれくらい時間がだったのか…。脳裏を叩きつけ、全身を痺れさせていた苦痛がだいぶ和らいできた。
ここにもそんなに長居はできない。早く、帰らないと…
ワタクシは立ち上がり、基地の方向へ歩き出した。
「…カナヤ様」
ワタクシの心の中には、一人の男の顔が浮かぶ。
カナヤ様を失望させたくない
カナヤ様に見捨てられたくない
全ての家族を失い、全ての友を失ったワタクシにはもう、カナヤ様しかいない。
まだまだお役に立てる。それを証明するために私は成果を示さないと。
だから、帰らなければならない。新しい仮面を頂き、また闘わなければならない。
▪️▪️▪️
空が真っ暗になってから時間もだいぶたった頃、ワタクシは基地へたどり着いた。
不眠不休で移動し続けた。身体には疲労が溜まり、脚は石のように重くなっていた。
早く横になりたい気分。
すぐにでも眠りたいけども、今やらなければいけない事がある。ワタクシは彼の元を尋ねた。
「カナヤ様…?いらっしゃいますか」
ワタクシは基地の最奥部、研究室の扉を叩く。
彼ならまだ、起きている頃合だろう。
ガチャリ…
「こんな夜になんですか?…おや、ブラッドカースです、か…」
眉間に皺を増やし、不機嫌そうにカナヤはそう呟く。きっとワタクシが彼の研究の邪魔をしてしまったのだろう。
「申し訳…ありません。…その…仮面を壊してしまいまして」
「なんだ。勇者にやられたのですか」
普通ならば落胆するはず。なのにその男は、どこか嬉しそうな顔を見せた。
「ククク……。そうですか、そうですか!ならば、貴女に渡したいものが、あるのですよ」
そう言ってカナヤ様はワタクシを部屋の中に引き込んだ。
部屋の様子を見るのは何時ぶりだろうか。相変わらず不気味な部屋。
部屋に何本もたっている透明の筒。その中には緑の液体が充満していて、新しい人工魔人が一体づつ入っている。
通路の奥には変な魔法陣がいつも刻まれていて、連れ去ってきた人で試している…。
この人間がどんなことを目標にしているのか、ワタクシにも分からない。
こんな部屋、早く出たいと思っていた。
カナヤ様が棚の前で止まった。そこへ手を伸ばし、ひとつの木箱を取り出し、ワタクシへ渡す。
「ククク…。中を見てごらん、新しい仮面だ。これを付けて明日適当な村人にでも試すがいいさ。ククク」
箱の中には確かに新しい仮面が入っている。
ワタクシはそれを確認するとカナヤ様に深く礼を述べ、足早に部屋を出ていった……。
▪️▪️▪️
「その仮面の性能、楽しみですねぇ。ククククク」
彼女が部屋を出たのを確認すると、私は元の作業に戻った。現在作成中の魔人と向かい合う。これで大詰めだ、私の新たな魔人がもう時期生まれる。
名前はエビルソウル。此奴には私の研究を大いに手伝ってもらう。
学習機能に腕輪のテスト、第三世代の魔人の作製に大いに役に立つだろう。
此奴には大きな期待が詰まっている。それが、寿命を犠牲に作られた存在だとしても……
▪️▪️▪️
ワタクシはカナヤ様から頂いた仮面を手に取り、床に就いた。
これでワタクシはまだ闘える。
まだ、役に立てる。
「見捨てないでくださいまし……」
ワタクシは不安を抱えながらその意識を闇に落とすのでした。
【第14.5話 完】
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