13 勇者、北上する(二)

「はあっ!でやぁ!」


 獅子浜達は村を目ざして北上中、魔王側近のブラッドカースと交戦。これを無事退ける。

 しかし、奴が引き際に呼び出したデビルソルジャーの部隊と交戦をしていた。

 ▪️▪️▪️



 目の前にいる敵を殴り倒し、剣を奪う。

 ──前には敵がまだ十体ほどいる。まだまだ気は抜けない。それに…馬車の後方で戦っているコウキとリーズも心配だ。


 奪った剣で、倒れた敵の頭部を破壊。血を撒き散らし、膝から崩れる。完全に沈黙した。

 続けて敵が二体、剣を振り下ろしてきた。獅子浜はそれに合わせて剣をぶつける。

 ガキンッ!ガキンッ!

 甲高い音と共に二本の剣が宙を舞う。隙を見逃さず脳天に一撃。膝から崩れ落ち、赤黒い液が噴水をつくった。


 残りの敵もすぐさまに攻撃。

 ──弾く。避ける。ほかの敵を盾にする。多数の敵の攻撃を無傷で処理する。

 剣の切れ味が悪くなれば、その場で直ぐに奪って補給し、攻撃を続ける。

 一体、一体と確実に撃破。前方の敵は瞬く間に全滅した。

 馬車の後方では今も剣戟が聞こえる。

 獅子浜は変身したまま急いで向かった。


「シシハマさん!」

 コウキは獅子浜の増援に気づき笑顔をうかべる。

 彼の戦況は、パッと見た限りかなり厳しいものだ。後方にいるリーズが補助に回って、障壁と回復をおこなっているが、攻撃面が不足している。何体かの敵は傷つき、瀕死だがトドメには至っていない。

 このままではジリ貧なのがひとめで分かった。


「俺が来たからもう大丈夫だ!」

 近くにいる敵の頭部目掛け、剣を投げつける。

 グサァ

 見事に命中、血の噴水を作りながら後ろに倒れ込む。

 突然の事態にデビルソルジャーらは獅子浜の方を振り向いた。

 ──その瞬間を、コウキは見逃さない。できた隙を見逃さず、目の前の敵の頭に槍を突き刺さした。


「ハアッ!」

 獅子浜の勢いは止まらない。雄叫びを上げ、気合いを入れ直すとそのままデビルソルジャーの群れに突入した。

 一番に剣を振ってきた敵の手首の部分を前腕で受止め、武器を弾き飛ばす。後ろ蹴りで背面の敵から距離をつくる。両サイドから剣戟が飛んでくるのを前転して回避し、落ちていた剣を拾う。

 素早く斬りつけ、敵を倒していった。


 一方のコウキも、獅子浜が来たことで敵が僅かになり、攻勢に回っていた。

 敵は剣、こちらは槍。リーチの差を生かし素早く踏み込んで先制の一撃を胴体に加える。素早く引き抜き、相手が怯んだ所で脳天に直撃させる。

 リーズの援護魔術で、小さな傷なら即時に回復し、距離をとりたい時には障壁を作成してもらう。

 二人の息の合った協力で敵を一体一体、確実に仕留めていった。


「これで、最後だ!」

 獅子浜が最後の一体の脳天に、剣を振り下ろす。振るった剣は「バキン」と、鈍い音を鳴らして柄の先で折れた。


 辺りには赤黒いプールと黒色の肉塊が転がり、鉄臭い匂いか充満していた。


「皆、怪我はないかい?」

 変身を解除した獅子浜が、皆を心配して尋ねる。


「俺は大丈夫です。シシハマさん、ありがとうございました」

「……私の方も平気。マジックポーション、沢山持ってきておいてよかった…」

 二人の元気な姿に安堵する。

 早歩きで馬車の前側、メイのいる所へ向かい、現状の確認にいった。


「メイちゃん!そっちの様子はどうだい?」

「うーん…。馬は何とか落ち着かせたけど…御者の火傷が酷いよ。今すぐ仕事に戻ってもらうのは厳しいかも…」


 御者は苦しそうに呻いている。リーズの魔術のお陰で出血は治まり、傷は回復してきてはいる。しかし、まだまだ安静にした方が良いのが見て取れた。


「そうか…」

「でも任せて。私、馬車の運転やってみる」

「できるのかい?」


 メイは少し戸惑いながらも、首を縦に振る。馬を落ち着かせる事が出来たから、操縦も出来ると思ったらしい。


「ありがとう。取り敢えず馬車を元に戻さないとな。コウキ、手伝ってくれるか?」

 はい!と元気な返事が返ってきた。二人で力を合わせ、横転した馬車を元に戻す。


 ギィ……ガッシャン!


 大きな音を立て、両方の車輪が地に着いた。不安だった車輪部分も無事らしい、問題なく走れそうだ。

 散らばった荷物を馬車に詰め込み、御者を寝かせ、出発準備をする。


 メイが操縦席に座り、手綱を握る。

「行っくよー!」

 元気な号令と共に、ムチのしなる音が鳴った。

 ギシィッ…

 大きな歪み音を立てながら、ゆっくりと馬車は進み始める。


 ──予想外の出来事に時間を取られたが、夜が深まる前には村には着けそうだ。魔王軍の追撃が来る可能性も、低いだろう。


 獅子浜は、馬車の天井に出来た穴から空を眺める。空は青から藍色に移ってきた。

 先程までの殺し合いが嘘だったかのように、外は静かさを示す。

 馬の制御に必死になっている、メイの慌て声。

 それを応援する、コウキの元気な声。

 傷ついた御者を癒すリーズの、淡々としているが、優しい声。

 風で揺れ、擦れ合う木々の声まで聞こえてくる。

 それら全ての声が一つ一つ、獅子浜の耳へ届く。

 …自分たち以外、辺りには誰も居ないことを知らせるように。


 峠を越え、馬車は下り道を辿っていく。

 遠くに村が見えてきた。このうねった山道を進んだ先にある村。そこが今日の目的地。

 その村から放たれる、松明の灯りを目指して馬車は進むのであった。

 ▪️▪️▪️



 馬車が村に着いたのは、獅子浜の予想通りの時間、黒い空に月が佇む頃だった。


 皆はとっくに空腹、時折ぐぅ〜と腹の音が聞こえてくる。途中で携帯食を摂る選択肢もあったが、あと少しの辛抱と、皆一様に控えていた。

 馬車を留め、最低限の荷物を抱えると宿に急いだ。


 受付に出てきた宿主に、獅子浜たちは黙って腕輪とナイフを出す。

 その意図を汲み取ったのか、宿主は「こちらへどうぞ」と、部外者立ち入り禁止の奥の方へと案内した。


「ここまでお疲れ様でした、勇者様。ご要望はどのような件で?」

「今晩はここに泊まりたい。男三人、女二人だ。そのうち一人は怪我をしてる。それと、極力勇者であることを隠したい。普通の冒険者として扱って欲しい」

「かしこまりました。怪我の方は別室を用意致します。それ以外の方は二人用の部屋を二つ、用意致しますね」


「ありがとう」と手短に礼を述べると、指定された部屋に御者を運び込み、寝かせた。


「リーズ、様子はどうだ?」

「……もう大丈夫。あとは自然治癒能力に任せるだけ。……精神の面は分からない」

 リーズの言う通り、襲われた時の怪我はだいぶ治っていた。手際の良さと能力の高さに感謝する。

「……私も今日は、魔術を多用して疲れた。……マジックポーションで魔力は回復できるけど、気力は回復できない。」


 ──酒が飲みたいってことだろうか…

 別室で荷物の整理をしている二人に、後で尋ねよう。


 二人の返事を獅子浜は想像する。コウキは間違いなく乗るだろう。メイはどうだろうか…。そこで獅子浜は、メイが酒を飲んでいる姿を見たことがないことに気づく。


「分かった。リーズちゃんは今日頑張ってくれたしね。二人にこの後、酒場に行くよう掛け合ってみよう」

 リーズの仏頂面が少し笑った…ように獅子浜は感じた。


「じゃあ俺は、二人のところに行ってくる。リーズちゃんはここで少し待っててね」


 そう言って獅子浜はそれぞれの部屋に行き、二人に尋ねた。コウキは言わずもがな、メイも乗り気なことには驚きつつ、四人で村唯一の酒場に向かうのであった。

 ▪️▪️▪️


「「「「カンパーイ!!」」」」

 賑やかな酒場の中で、ひときわ賑やかな声が響く。続いて酒入りのコップがぶつかり合う音が鳴る。

 コウキとリーズは勢いよく飲み「ぷはぁっ」と、気持ちの良い声を出す。メイは対照的に少し口を付けるだけだ。


「私、コウキさんとリーズのこと、まだ全然知らないんだよね。もし良かったら私たちと会うまでの事、色々聞きたいな!」

「いいぜ!じゃあ俺から。俺の話は長いぜー」

 そう言って、もう上機嫌になっているコウキは、自身のことを話し始めた。



【第12話 完】

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