06 男、旅に出る

 村を襲われてからの2日間、生き残った村人は、駆けつけた自警団や政府からの使者らと共に、片付けに明け暮れていた。使者らは獅子浜を直ぐに中央都市へ連れ出そうとしたが、獅子浜が猛反対。根負けしたため仕方なく村の片付けを手伝っているのだった。


 片付けも終わり、村の復興に向けて動き始めた頃、使者のリンが我慢の限界に至ったのと、親睦のあるリクに背中を押されたことで獅子浜は旅立つことを決心する。そこへメイは使者に懇願して、どうにか同行する許可を得たのであった。

 こうして獅子浜とメイは、使者のリンと共に馬車に乗り、中央都市パブロを目指す傍ら、一旦最寄りの都市であるイパワに向かって行くのであった。


「なぁ、メイちゃん。ほんとに着いてきて良かったのか?」

「うん、もういいの!宿や色んなことはリクさんが継いでくれるって言ってたし、私も決心したから!」

 獅子浜には、メイが無理をして言ってることが分かる。唯一の家族である姉を、数日前に無くしたばかりなのだ。しかし、彼女の強い決心を感じ取り、同行を断ることは出来なかった。

「ああ、分かった。俺はこの世界に来てからまだ日は浅い。色々と頼むよ」

「まっかせて!隣の市に着いたら色々と案内してあげる」

「ハハ!楽しみだな」

 2人は、マイを失った悲しみを紛らわすかのように、笑って話すのだった。

 …


 

 獅子浜たちが滞在していた村を出発してから、だいぶ時間が経った。あたりは真っ暗となり、月が空で輝いている。

「シシハマ見て!向こうの方に明かりが見える!あの辺りが目的の街、イパワだよ」

「やっと着くのかぁ。ふあぁ〜」

「ここまで来れば残りは僅かです。おつかれ様でした。現地では宿を取ってありますので、そこで一旦解散となります」

 メイは、目的地がやっと見えてきた事に気分が上昇する。獅子浜は大きな欠伸をつき、リンがそれに対して淡々とした態度で返事をする。

 馬車の中は獅子浜とメイ、リンの三人のみ。時間も経てば話すこともなくなり、何をするでもなくただ長時間座っているしかなかったのだ。

「そうだね!やっと羽を伸ばして休めるよ」

 メイは体の痛む箇所を揉み、夕飯の事を想像しながら笑顔で返事をする。

 その時、突如近くの林から複数の影が現れ、馬車の行く手を阻むのであったた。

「馬車の中にいる者は全員でてこい!我は武闘魔人スカルウォーリア。デスジェネラル様の部下だ!」

「魔人だと!」

 魔人、その名を聞いて魔王軍の一員だと確信した。獅子浜達は、急いで馬車を降り警戒態勢をとる。


「ほう、これで全員か。おや、女神の腕輪をしている者がいるな」

 獅子浜が着けている女神のバングルに気がついたスカルウォーリアは、声を荒らげて尋ねる。

「ギガントを倒したのはお前か!?」

「ああ、そうだ!あの怪人は俺が倒した!」

 獅子浜も大声で答える。なるほど、と魔人は納得してニヤつき、引き下がっていく。

「今日は確認に来ただけだ、勇者よ。惜しいが今、戦うつもりは無い」

「なんだと!?」

「ではさらばだ。ハハハ!デビルソルジャー達よ行け!!」

 スカルウォーリアの掛け声とともに、周りに控えていた五体の敵兵が獅子浜たち目掛けて襲いかかってくる!

「待て魔人!ブレイブアップ!グロウシャイン!」

 獅子浜は掛け声とともに姿を変化させ、襲ってくるデビルソルジャーの群れに応戦する。それを見たメイも、槍を取り出す。

「メイさん。私たちは馬車を守りましょう」

 リンが剣を構えながら、メイに話しかける。

「でも、シシハマを助けた方が…」

「彼は怪人を1人で倒したのでしょう?ならば大丈夫です。私たちは彼の邪魔にならないよう、ここで荷物を守るのです」

 納得したメイは、リンと共に馬車を守るために下がり、獅子浜を見守ることに決めた。

 …


(こいつらは、村を襲った奴らよりも身体が大きい。数はそこまで多くないが、油断はできない!)

 獅子浜は突撃してくるデビルソルジャーのうち、目の前にいる敵に狙いをつける。剣が振り下ろされる前に、懐に潜り込んで殴り飛ばした。

「ブァッ」

 鈍い悲鳴と共に頭部が陥没した。続けて右側から剣が振られてくる。それを素早くしゃがみこんで避け、足払い。素早く立ち上がり、後ろから飛び掛かって来る敵に回し蹴りを当て、距離を作る。足場払いをした相手が体制を立て直す前に頭部を殴って破壊する。

(あと、三体!)

 倒した敵から剣を奪い取り、立っているデビルソルジャーに投擲。胴体に命中したところを引き抜いて頭部に振り下ろしてとどめを刺す。

 その時、背中に衝撃が走った。

「グワッ!」

 その衝撃で思わず前方向に飛び、そのまま受身を取った。背中をデビルソルジャーに斬られたようであった。

(俺は斬られたのか。だが問題は無い!)

 スーツのお陰でダメージはほとんど無い。獅子浜は斬ってきた敵に突進、振り下ろす剣を左腕で弾き、飛び膝蹴りを顎に食らわせる。

 倒れた敵の剣を奪い取り、近くの敵の頭に振り下ろす。

「お前が最後だ!」

 残る最後の敵の頭部目掛けて、剣を投げる。

「ウブァ」

 苦しむ声と共に最後のデビルソルジャーも倒れた。


「ハァ、ハァ。や、やったぞ」

 獅子浜はスカルウォーリアの逃げていった方向を見ながら言ったが、そこにはもう誰もいなかった。

「や、やった!シシハマが勝ったんだ!」

「当然です。そうでなければ、勇者として困ります」

 敵を倒しきった獅子浜を見る2人の態度は対象的であった。

「お疲れ様でした。シシハマ様。落ち着き次第馬車を出しましょう」

 リンの冷静な指示のもと、すぐに支度を整えて目的地イパワヘ向かった。


 馬車が再出発してから20分後。獅子浜達は何事もなく、イパワの街中へたどり着き、今晩泊まる予定の宿屋へ向かった。

「ではここでお待ちください。メイさん、貴方の宿をとる必要がありますので」

 リンは、メイに向かって嫌味を言うと皆が泊まる予定の宿屋の店主と相談を始めた。

「ほんっと嫌なヤツだよね!シシハマもそう思うでしょ!」

「いやぁ、メイちゃんも俺に対する態度は最初あんな感じだったぞ」

 ふん!と獅子浜の発言を無視してメイが拗ねていると、リンが話を終えて戻ってきた。

「無事、メイさんの分の部屋と食事も取れました。食事はすぐ出せるそうなので、今から食べましょう」

 食事という単語に、いやったぁ!と喜びテンションの上がるメイ。料理が運ばれてくると、先程まで表情の硬かったリンも笑顔となり、皆で食事を食べ始めた。


「この肉は食べたことの無い味だな。この焼いた肉はなんの動物なんだ?」

 獅子浜は食べている肉が何なのかが気になり尋ねる。何せ、この世界に来てから初めて肉を食すからであった。

「プラトーリザードの肉です。高原の方に生息しております」

「へぇー、そうなのか」

「この街にはギルドの支部が設けられており、危険種の討伐が定期的にあるため、色々な肉が食べられるのです」

 そう言ったリンは、メイにも目配せをして発言した。

「どーせ田舎娘ですよ!食べた事なんてほとんどないですよーだ」

「おや、私は特に何も言ってませんが」

 リンは、メイが田舎育ちのことを煽ったようだ。実際に、メイは肉を食べる機会はほとんどなく、それが気に触った。

「それよりも!シシハマ、このあと暇でしょ。この街散策しようよ」

「ダメです。シシハマ様は勇者なのです。万が一の事を考え、今晩の外出は禁止となります」

「固いこと言わないでよ。ケチ」

「絶対にダメです。メイさん単独でならご自由にどうぞ」

 リンとの話が少し嫌になったメイは、この街での楽しみであった、街の観光を提案するが、あっさりと断られる。一人での観光も考えたが、イパワは何度か来たことのある街だったため、それも乗り気にはなれなかった。

 今晩はそのまま寝るか。と、メイはしょぼくれるのであった。

「では、私は記録を作る必要があるので先に失礼します。また翌朝、お会いしましょう」

 先に食事を終えたリンは席をたち、同行していた御者と共に部屋へ消えていった。

「メイちゃん。俺達も部屋へ向かおうか。」

 食事を終えた獅子浜も、外を見て名残惜しそうにするメイを連れ、宿泊室へ向かう。おやすみ、とメイに別れを告げた獅子浜はベットに倒れ込み、眠りにつくのであった。


 …

 トントン。トントン。

 とドアを叩く音が鳴り、獅子浜は目が覚める。空はまだ暗く、月が浮いている。まだ出発の時刻ではない。街も静寂であり非常事態の気配はない。

 一体何用かと疑問を浮かべた獅子浜は、ドアに近ずき尋ねた。

「誰だ?」

「私、メイ」

 なんだ、メイか。と安心した獅子浜は扉を開けてメイを迎え入れた。

「こんな夜中にどうしたんだ?」

 そこまで言って、獅子浜はメイの顔に涙が浮かんでいることに気づく。

「ゴメン。眠れなくって…」

「そうか…」

 獅子浜はその一言で理解する。しかし、何をすれば良いのかは分からなかった。

「今は、一人でいたくない」

「ああ、分かった。気が済むまでここにいればいいさ」

 部屋に入ったメイはベットに座り込む。獅子浜も他に座る所がないため、メイの隣に座った。

「ちょっと肩貸して」

 メイが、ふらっと獅子浜の肩に寄りかかってくる。肩に触れるその少女を見て獅子浜は小さく、あぁ、と答えた。

「ぐすっ……うぅぅぅ……うわぁぁぁあああ!!!」

 我慢ができなくなった少女は声を出し始め、仕舞いには大声で泣き始めてしまう。

 その声を聞く獅子浜も、無言で涙を流すのであった。


【第六話 完】

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