05 男、変身する
「はぁっはぁっ!」
獅子浜はメイに連れられて村の正門の方へ走る。
「魔王軍ってどんな奴らなんだ?」
「主にスモールデビルの群れを使って村や町を壊し、人を襲ってる奴らよ!村の入口で押しとどめて、街から自警団が来るまで耐えないと!」
獅子浜はアニメや漫画の知識がないため、魔王軍のイメージはないが、その邪悪さは理解出来た。
「門をみて!まだ押し留めれてるみたい!」
だが、村人たちにも限界がある。十数人程度しかいない村人たちに対し、敵の数は50を超える。しかもスモールデビル達は、仲間の死体を踏み潰し、恐れを知らないかのようにこちらへ突撃してくる。戦い初心者の獅子浜にも、このままでは突破されるのは分かった。
「私たちも加勢します!」
メイは大声で叫ぶと部隊に加わり槍を構えた。獅子浜も同様に槍を構えてスモールデビル目掛けて刺す。
「シシハマ!頭を刺してしっかり殺して!」
胴体を刺したものの、まだ動くスモールデビルを見て慌てている獅子浜にメイは言い放つ。
槍に刺さったまま暴れるスモールデビルの頭を、腰に携える剣で叩き割った。激しい血飛沫と共に叫び声を上げ、敵の動きは完全に止まった。
(なるほど、こいつらは頭を砕かないと完全には死なないのか)
ありがとう!と獅子浜はメイに礼を言うと、次から次へ来るスモールデビル達を同様の手順で倒していった。
「この調子なら俺たちだけでも倒せるぞ!」
共に防衛する村人のひとりが叫ぶ。確かに体格が良い獅子浜と鍛錬を積んでいるメイが加わったことで防衛線は強化され、残りのスモールデビルも減ってきた。
村人達にはそこまで大きな被害はない。
獅子浜も安心してきた時、あちこちの家から黒煙が上がってくるのが見えた。続いて手負いのスモールデビルが村の内側からやってきた。
「何が起きたんだ!」
「わからない!反対側の門が突破されたなんて連絡も来てないぞ!」
「何で村の内側からスモールデビルで出てくるんだ!」
村の内部が攻撃されてると分かると、防衛隊にパニックが広がる。
村の中心部に戻ろうも敵に挟み撃ちされていて直ぐに動くことも出来ない。
死にたくない、助けてくれ、もう無理だ── 防衛隊から弱音が漏れてくる。
「みんな落ち着いて!弱気になっちゃダメ!すぐに陣を組み直してここを突破しないと!」
メイが皆を励ますが、あまりにも分が悪い。部隊はどんどんと崩壊していく。
「うおぉぉぉぉ!!!」
しかし、獅子浜は弱気を一欠片も出さない。壊れた槍を捨て、剣のみを持ち、スモールデビルの群れに突っ込んでいく。
「俺は村を、みんなを救うんだ!」
獅子浜は叫び、それに呼応するようにバングルは強く輝く。
一体、また一体と獅子浜はスモールデビル達をどんどん倒していく。その横でも生き残っている村人たちがなんとか協力して、スモールデビル達を追い詰めていった。
とうとうスモールデビルを殲滅すると、獅子浜とメイは一目散に宿の方へ走り出した。
▪️▪️▪️
「そ、そんな…」
2人が目にしたのは、焼かれて倒壊しかける宿屋であった。いや、無残な姿になったのはそれだけではない。周りにあった家々も焼かれて倒壊、半壊している。
「姉ちゃん!姉ちゃんはどこ!」
「マイちゃん!」
2人は見当たらないマイのことを必死になって探す。
「もしかしてまだ中に居るのか!」
獅子浜はマイの怪我のことを思い出す。足の怪我はまだ完治してない。逃げそびれて、中に取り残されている可能性を思慮した。
「待ってシシハマ!せめて水を被ってからにして!」
獅子浜はメイの忠告を無視して中に突入する。
(かなり熱いぞ、早く出ないと俺の体も持たない…!)
焦る獅子浜は脇目も降らずに厨房へ駆け込む。…そこには思っていたとおり、マイが倒れていた。
(脈はある。良かった、今すぐ脱出するぞ)
ぐったりと倒れるマイを背負い、獅子浜は焼ける家を急いで脱出した。
▪️▪️▪️
家を出た獅子浜の目には、武器を構えるメイと、身長2mを超える全身鎧の怪人が映った。
「メイちゃん!そいつはなんだ! 」
「今回の群れのリーダーだよ!こいつはかなりやばい!」
その怪人は首をゆったりと獅子浜に向け、ニヤリと笑顔を向ける。
「こんなクソ辺鄙な村の破壊なんてつまんねーと思ってたが、でかい収入があるじゃねーか!その腕輪!お前勇者だろ!」
「そうだ!お前は誰なんだ!」
獅子浜は背中のマイを気にしつつも、敵を最大限警戒して尋ねる。
「俺かァ?俺は重鉄魔人ギガント!てめぇを殺して魔王の側近になるもんだ。じゃあ…死ねぇ!」
そう言い放つと、ギガントは獅子浜に向かって走り出し、手に持つ巨大なハンマーを振りおろした。
「くっ!!」
ギリギリのところを獅子浜は躱す。しかしギガントは獅子浜目掛けて何度も何度も、執拗にハンマーを振るってくる。
「オラオラオラァ!いつまで避けれるかなァ!」
大きく横ぶりに振られたハンマーは獅子浜にぶつかり、マイ共々吹き飛ばされてしまった。
「シシハマァ!…そこの魔人!私が相手だ!」
先程まで気圧されて動けなかったメイも、獅子浜とマイが飛ばされたのを見て我に返り、ギガントを挑発する。
「子供がうるせぇなァ。少しは遊んでやるかァ」
ギガントはバカにしたような態度でメイの挑発に乗り、攻撃対象を変更する。
それを見る獅子浜もメイに加勢しようとする。しかしすぐ後ろで倒れているマイが気がかりで動けずにいた。
「シシハマ、さん。…私のことは、置いておいて、…メイを、助けて、ください…。」
「マイちゃん…。目を覚ましたのか。…だが…」
「いいですから…!…それと、自分を、信じて、くだ…い…。それが、きっと、貴方の力に…、なる…は…。」
いつの間にか目を覚ましたマイは、息も切れ切れに話す。分かった、と頷くと、獅子浜は剣を取り出しギガントに突撃した。
二対一。数では有利になったが、戦況は不利なままであった。
「そんな武器が俺に通る訳無いだろォ!」
ギガントは疲れる様子もなくハンマーを振り回し、2人の武器を吹き飛ばす。
「もういっちょォ!」
さらに追い打ちをするようにハンマーを大きく振り回し、2人は吹き飛ばされた。
「ガハハ!勇者さんよォ。俺は人の苦しむ顔を見るのが好きなんでねぇ!まずは1人、てめぇの前で人を殺してやるよォ!まずは死に損ないの方からだァ!」
そう言ったギガントは意識を失っているマイに近ずき、ハンマーを持ち上げる。
「やめろぉぉぉ!!」
「やめてぇぇぇえ!」
…
ギガントがハンマーを振り下ろす。
…
グチャリ
不快な音が、辺りに響く。
…
赤い液体がじわり、じわりと広がってきた。
…
…
それが何なのか、言うまでもない。
…
この異世界に来て出会い、短い間とはいえ、家族のように暮らした人、マイ。彼女が、目の前で、魔人に殺された。
「ウワァァァァァアアアア!!!」
獅子浜は、大切な人を殺したギガントと無力な自分に激怒する。
(俺に力があれば、こいつを倒せるだけの力があれば、マイちゃんを救えたのに…!)
「おのれ魔王軍!!許さんぞ!!」
獅子浜はこれまでにないほどの怒りをギガントにぶつける。
その時、女神の「強く願うことで武器や防具を作り出す」の言葉を獅子浜は思い出した。
この場を打開するにはバングルの力に頼るしかない。そう確信した。
(俺の知る最も強い物はなんだ…!拳銃や日本刀みたいな武器?違う!最強の武闘家?違う!絶対に負けない強い存在は…!)
最も強い存在を、記憶の中から必死に探す中、幼少期に好きだった特撮番組の主人公を思い出す。
(どんな敵にも決してくじけない、正義のヒーローだ!!)
「女神のバンクル!!俺に力を!!」
獅子浜は大声で叫ぶ!!
その刹那、女神のバングルは激しく輝き、周囲を光で包んだ。
………
……
…
(眩しい!何が起きたの!?)
光が消えた跡には鎧を着た獅子浜が拳を握りしめ、立っていた。
「何だァお前!面白い姿になったなァ!」
「シシハマなの!?」
メイとギガントは突如変身した獅子浜に驚く。
「俺は勇気の戦士、グロウシャイン!!」
獅子浜は一番に思い付いた、特撮番組の主人公の名を叫ぶ。
「グロウシャインだと!?面白いじゃねぇか!少しは強くなっったんだろうなァ!!」
昂ったギガントは、獅子浜目掛けてハンマーを振り下ろす!
「ハァッ!!」
獅子浜は渾身の一撃を両手で受け止める!
「なッ…なんだとッ!俺のハンマーを!素手で受け止めるだと!」
「これが!俺の怒りだ!」
獅子浜はハンマーを弾くと、仰け反ったギガントの腹部にボディブローを放つ。
「カッ…」
全身が鋼鉄に包まれるギガントにも、獅子浜の攻撃は効いたようである。
「俺はァ!やられねェぞ!」
「ギガントよ!その攻撃はもう効かない!」
ギガントの振るったハンマーを獅子浜は見切り、回り込んで横から大きく吹き飛ばす。
「これで終わりだ!ブレイブアップ!」
獅子浜が叫ぶとバングルは強く光り、右腕は赤いオーラに包まれだ!
「ハートブレイク!!」
獅子浜は飛び掛り、ギカント目掛けて正拳突きを放なった。
武器を飛ばされた時の衝撃で回避行動ができないギガントは腹部に直に受け、大穴を開けて吹き飛ぶ。
「グァアアア!おのれェ!グロウシャイン!」
ギガントは叫び声を上げながら地面に突っ伏し、爆散した。獅子浜の完全勝利である。
(マイちゃんは、魔王軍のせいで……。許さない!俺が、俺が!お前たちを倒す!)
爆発した空間を今も睨む獅子浜は、溢れんとする涙を歯を食いしばって押え、魔王軍討伐を心に誓うのであった。
【第5話 完】
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