第5話 突然の告白、いただきます

「ご主人様ー。」

「…。」

モソモソ

「ご主人様ー、皐月様ー!」

「……。」

シーン

「…ふふ意識は無いようですね。じゃあさっそく…」


「おい、駄メイド。遊。なにをやってる。」

ビクっ!

「あ、あらー?皐月様、おはようございます(はぁと)」

「おはよう、ほらまずは洋服を着てくれ。」

手近にあったジャケットを、一矢纏わぬ姿の遊に投げる。

 

こいつが来てから毎っ日っ!この調子だ。

「あのさぁ。」

「どうされました?皐月様!ようやく私で使用済みにしちゃいます?」

キラッキラした目。


「はぁー。」

もうため息しかでない。


大学に初めて連れていった時もそうだ。

「ご主人ー皐月様ー、見てくださいまし!」

「いっ!学校ではやめてくれ、頼むから!」

さっき買ってやったコーンポタージュ缶を胸の谷間に挟むんで揺らすな!


「ご主人様ー皐月さまー、みてくださいまし!」

「いっ!通学路ではやめてくれ、頼むから!」

電柱をポールに見立ててのポールダンス。

ご近所さんがこっちをみてひそひそ言っているじゃないか!

それも一枚ずつ脱いでいくのをやめろ!


「ご主人様のお宝本の通りにやっていますのに―――。」

「そうじゃないんだよ、遊。」

そういったことが積み重なった結果、今ようやくお説教タイムに至ったわけである。特に最近になって、すこぶるひどかったのだ。


向かい合って正座する二人。


「確かにお宝本は、最高の教科書になりうる。」

「はい。」

「だがそれは紆余曲折を経て、晴れて恋人同士になった暁に起こる一大イベントのようなものだ。ぽんぽん起こっていいもんじゃない。

人生でここぞというときにな、ここだっていって勝負を決めるんだよ。」


俺はその時のために、イメージトレーニングを欠かさない。

お宝本を買い集めたのはそのために違いない、多分。


「—―。」

返事はない。


聞いているのかいないのか、いつもとなんだか様子が違う。

時折見せる、何か考え込んだような真面目な顔。

遊の真面目な顔は、なんか、こう現実離れしている。

白い髪が、夕日に輝いて―――、存在が希薄だ。



「遊ってさ、なんで冥土教会に入信したんだ?」

「そうですね―――。話すと長くなるかもしれませんが、大丈夫ですか。」

「—――。」

遊の真面目な様子に、言葉を飲み込む。




無言を肯定と受け取った遊は話し始めた。

「私の家、神無月家は少し特殊な家でして―――。」


「神無月は神のいない月、不幸なものの象徴。

神無月を継ぐ者は、その場にいないものとして扱われるのです。代々神無月が住む街ではそう、決められています。

私も、例外ではありません。区切りである10歳までは、ある程度親も面倒を見てくれるのですが―――。」


「私の髪、白いでしょう?」

髪をさらさら触る遊。


「当主は10を超えてしばらくして、髪が白くなります。存在を消されてしまうその孤独こそが原因でしょう。生きる限り、その身を苛み続ける孤独。孤独に耐えられなくなり死を選ぶ者、正気を捨てて狂人になる者も多いとか。」


「私、なにもかもから逃げてきたんです。」

外も暗くなってきた。


「冥土に生きる意味を見出す冥土教会は、私にとって天啓ともいえました。

だから初めはメイドの役割のために、冥土の土産をお渡ししようと思いました。」


「けれども私にはできませんでした。2人で食べるご飯が美味しいこと、2人でいたら空が雨でも晴れでも綺麗なこと、2人でくだらないことを笑い合えること、ほかにもたくさんの素敵なこと—――。

冥土の土産なんて、持っていけるものじゃない。少なくとも私が持っていきたいと思ったのは、皐月様との生活のすべてでした。」




「覚えてます?買い物帰りに商店街を皐月様と2人で歩いていた時に、仲間に入れず、ポツンと1人でいた子がいたときのこと。」


確かに覚えている。

あの時から遊の俺に対する態度が、少し変わった気がしてたから。


「頭を空っぽにしろ、大声だせ、裸になれ、存在を大きく示せっていっていましたよね。お手本のため上着を脱いで、大声をだしていた皐月様は捕まりそうになってましたけれどね―――ふふっ。

あのあと、友達と遊ぶあの子の姿を何度か見かけましたよ。笑っていました。あの子を変えたのは、皐月様です。

そんなあなたのことを、私はかっこいいと思いました。」


こちらを温かいまなざしで見つめる遊。

その視線は次第に交差し、2人の影が重なるのも時間の問題だった・・・のに

俺は、なぜか突然ひどい睡魔に襲われ意識が朦朧とした。


「—―――。」

去っていく遊が、なにか言った気がした。

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