第4話 お宝、いただきます

ブン!ブン!ブン!ブン!


「いや、ちょっ待っ!ちょっと待って!」

腕でガードする。

急にヤカンをもってメイドさんが襲ってきた。


「お命頂戴いたします!」

まだ、なんか言ってる。

どういうことだ一体。

シュールな光景に理解が追いつかない。


攻撃は1HIT、2HITとはならない。

ふはは、アニメに影響されてダンベルを持ち上げていたおかげか!思わぬところで成果がでたぞ。


「今のところ死ぬどころか、全然無傷だから。そろそろ諦めよう?ね?」

「くっ―――。」

はぁはぁと肩で息をする少女、遊・・・だったけな。

とりあえず危険なヤカンは没収だ。




「—―――つまり、遊は俺を殺しに来たってことだな?」

「厳密にいうと違いますが、概ね合ってます。」

あの後事情を説明してもらうため、結局大学には行けなかった。

講義は1、2回くらい休んだって問題ないけど、あいつ心配してるかもな。


あれから遊の買ってきた机を囲み、

正座し向かい合ってかれこれ3時間くらいたつ。

要約するとこういうことらしい。


①メイド協会ではなく冥土教会

②命令をいただくのではなく、生命をいただく


「質問!なんでメイド服なんですか。」

「これはマスターの趣味です。」

信者にメイド服押し付けるなんて・・・マスターは変態か。


「私の所属する冥土教会は冥土、つまり死後の世界を神聖視しています。」

遊は続ける。


「しばらくご主人様とともに過ごし、その方に適した冥途の土産をお渡しすることにより、人が本来生きるべきである冥土でのクオリティオブライフをお約束するのがメイドの務めです。なのでメイド服もあながち間違いでもないのです。」

うん、まったく意味が分からないよ。


「え、じゃあなんで俺さっそく殺されそうになったの?」

「ふふーん、それはですね、こちらです!!!」

ばばーん!とでてきたそれは―――


「俺のマル秘AニマルVデオ!それにセクシーはかわいい増刊号!ほかにも、引っ越してきてから買いそろえたお宝の数々!」

一人暮らしだし隠す必要はないのだが、なんとなく本棚の後ろに隠しておいたのに。



「お宝と書いてありました!ご主人様はお宝をたくさんお持ちだから、もう十分かと思って――――。」

「お宝はお宝だけど、それで死ぬのは嫌だ!」

急いで遊の腕から奪いとる。


「なんと・・・。」

なんかとてつもなくショックを受けた顔でこちらを見ている。


「冥土教の教えに逆らうのですか?」

「そういうのじゃなくてさ・・・。」

ヤバイ、雰囲気が変わった。

このままじゃ魔法使いにもなれずに死んじゃう。


そうだ!


「俺、まだ冥土の土産に持っていきたいものないし…それにまだ…」

まだ…



「未使用なんです!そんな悔い残して死ぬほうが、冥土教の教えに反するんじゃないか?!」

どうだ、この理論。みんな納得するに違いない!

てか恥をしのんで告白したんだから納得しろ!


「…。」

沈黙が怖い。


「皐月様のおっしゃることも一理ありますね。では僭越ながら、この神無月 遊、謹んで御奉仕させていただきます!」


しゅるしゅる…

女の子の服の構造ってこんな風になってたんだ…。


はらり

最後の一枚が座布団の上に落ちた。


ここにきて、俺はようやく正気に戻った。


「待って!待って隠して!隠して!」

「さあ!皐月様もはやく裸になってください!」


にゃー・・にゃあーん・・

ああ外で発情期の猫がじゃれあっている。

なんとなく毎日を生きてきたけど―――

今日は特に長い一日になりそうだった。


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