第30話 雨の夜。
クロウはリリアを心配しながらも、ルイと一緒に扉の外で大人しく待っていた。
だが、突然室内からガラスが割れる音と共に女性達の悲鳴が響く。
「え? な、 何だ?!」
「リリア!」
クロウはすぐさま扉の取っ手に飛びついた。ガタガタと音を立てながら力づくで扉を開けようと試みるが、重厚な扉はまったく開く気配を見せない。
「リリア! リリア!」
扉を拳で叩きながら大声で何度も呼びかけるが、中からは何の返答もない。嫌な予感にクロウとルイは視線を合わせると、二人で同時に体を扉にぶつける。
「くそっ!」
苛立ちと焦りを露わに二人で体当たりを繰り返した。何度目かに酷い音を立てて扉の留め金が吹っ飛ぶ。クロウ達は傾いた扉を蹴破り、その勢いのまま部屋の中に飛び込み息を飲んだ。
「!」
正面の大きな吐き出し窓が壊され、室内では二人の使用人の娘とアマンダが倒れている。
ルイが倒れているアマンダに駆け寄り抱き起こす。
「アマンダ! アマンダ! 大丈夫か?!」
「…………う、うっ……」
「! クロウ! アマンダの意識はある! 他の二人も目立った外傷は無いみたいだ!」
だが、クロウにはルイの声が聞こえていなかった。険しい顔で室内を一瞥すると、リリアの姿を求めすぐさま壊れた窓からバルコニーへ飛び出していた。いつのまにか雨は上がっている。
しかし、厚い雲に遮られ月の光が届かない室外は暗い。窓から漏れるわずかな明かりが庭園を照らしているだけだ。その中を馬に乗った黒ずくめの男が走り去ろうとする姿をクロウの目が捉える。男が腕に抱えているのはリリアだ。見覚えのない衣装に身を包んでいるが間違いない。意識が無いのか、ぐったりとしたその姿に、クロウの全身の血が逆流していくような怒りが込み上げる。
「リリア!」
クロウは手摺を掴むと、二階のバルコニーから身を躍らす。クロウの足は泥濘で水飛沫を上げると同時に、リリアを攫おうとしている男へ向かって疾風のように駆け出していた。
だが、すぐにクロウの前に男の仲間と思われる全身を黒一色で覆った男達が現れ、行く手を阻む。
「どけっ!」
殺気を含んだ声を上げるクロウの手にはすでに剣が握られている。
「クロウ!」
不審な男達と対峙するクロウの耳にルイの焦った声が飛び込んできた。クロウはルイに背を向けたまま大声で叫ぶ。
「リリアが攫われた! 早く団長に知らせろ!」
「! わ、分かった!」
ルイとのやり取りの間にすでに二人の男を斬り捨てていたクロウは、刃を合わせていた男も瞬く間に一刀で濡れた大地に沈めた。さらに、馬に乗って逃げようとしていた男から馬を奪うと、そのまま馬を駆け、門を抜けていく。
しかし、リリアを攫た男はすでに姿は消していた。
「どっちだ? どっちへ向かった?!」
焦るクロウの目に、雨でぬかるんだ道に続く馬の蹄の跡が映った。幸運なことに、立派な邸宅が並ぶこの町はどの門の前にも明かりが灯され、彼の行く道を照らしている。
クロウは並みの腕前では落馬しそうな勢いで馬を駆けさせた。
「リリア、すぐに助けてやる! 待っていろ────」
攫われていくリリアの姿がクロウの目に焼き付いている。
(なぜ攫われねばならない? 美しい衣装を着ていた為に、アマンダと間違われたのか? だが、リリアのそばにはアマンダ本人がいた。髪の色も違う。荒事に慣れた様子の男達がそんな間違いをするだろうか?)
ふとクロウの脳裏を過ったのはオアシスにいた不審な男達の姿だった。
(まさか、初めからリリアが狙いだった?)
嫌な予感が胸をじりじりと焦がす。無意識にクロウは胸元を指先が白くなる程強く握り緊めていた。
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