第28話 若草色の衣装。
二人の様子を唖然と見つめていたアマンダの顔をルイが覗き込む。まるで悪戯が成功したような顔で片目を瞑ってみせた。
「驚いてる?」
「……ええ、とても驚いているわ。これは、どういうことかしら?」
「本当はね、リリアは女の子なんだ。一人で王都へ行くために、男の子に見えるように髪まで切っちゃたんだって」
「髪を、切った?!」
アマンダは心底驚いたという顔をしている。彼女の驚いた声にリリアが視線を向けた。アマンダと視線が合うと、恥ずかしそうにクロウの腕に隠れる。
「あなた、……男の子ではなかったのね?」
「はい。……でも、騙すとか、そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい……」
「?! ちょ、ア、アマンダ?!」
アマンダは突然何を思ったのか、リリアへ手を伸ばした。ルイが慌てて制止するも、その手を振り切ってクロウの腕の中からリリアを奪い取る。予想外の行動に、クロウでさえ唖然としている。
「あなた。こちらへいらして!」
「え? ええっ?!」
「待て! リリアをどこへ連れて行くつもりだ?」
引き止めようとするクロウの声にもまったく耳を貸さないアマンダは、慌てふためくリリアの腕を掴んだまま廊下を突き進んでいく。途中ですれ違った使用人の娘達に何かを指示するも、まったく止まる様子はない。何かを命じられた使用人達はしっかりと頷くとみんなすぐに走り去って行った。
アマンダは別棟の奥にある部屋へ来てやっと足を止めた。ほっとするリリアをそのまま部屋の中へ押し込む。
「おい! 彼女を、どうするつもりだ?」
「ここは浴室ですのよ。殿方は扉の外でお待ちくださるかしら?」
「浴室……?!」
動揺を隠せないクロウを見上げアマンダはにっこりと微笑むと、クロウの目の前でピシャリと扉を閉めてしまった。
「リリア!」
まろびつつ入った部屋の中にはすでに3人の使用人らしい女性がリリアを待ち構えていた。閉じられた扉の外からクロウの焦った声が聞こえる。怯えるように入口を振り返ると、扉を背にしたアマンダがリリアをじっと見つめていた。
「……やり直してください」
「え? 何を……?」
アマンダが何を言っているのか分からないリリアは聞き返す。
「ありえないですわ。少年の、それもこのようなお世辞にも綺麗とは言えない格好で、人生で最も大切な告白をなさるなんて……」
アマンダはまるで頭痛に悩まされているかのように、額を抑えている。言われた内容に傷ついたリリアは思わず俯く。
だが、突然アマンダがぱっと顔を上げた。
「ですが、自ら意中の殿方へ告白なさるその勇気に感動いたしました。同じ女として私が微力ながらお手伝いをさせていただきますわ!」
アマンダはリリアの手を強く握りしめると、力強く告げた。リリアは状況に頭が追いついてくれず、ただ茫然突っ立っていた。
「さあ、あなた達。この方を美しく着飾ってさしあげて」
「はい! お嬢様」
「?!」
震えながらじりじりと後ずさりするリリアを3人の女性達がいっせいに取り囲んだ。
「私達に、どうぞお任せくださいね」
リリアは悲鳴さえ上げることも出来ないまま服を剝ぎ取られ、手際よく3人の女達によって全身を良い香りのする石鹸でキレイに洗い上げられた。濡れた体を柔らかな布で包まれ連れて来られたのは浴室の隣の部屋だった。部屋の中はすでに暖炉に火が入れられ、とても暖かい。
「見てくださる?」
すでに部屋で待ち構えていたアマンダが手に持っていた若草色の衣装を広げてみせる。真っ白なレースが品よく裾や襟、袖を飾っていて、ふんわりとした形のとても可愛らしいものだった。
「まあ、素敵!」
「そうでしょう? これは私が十二、三歳の頃に着ていたものなの。でももう私には小さくなってしまって、もう着ることはできないのよ」
「まあ、それはとても残念ね」
「ええ。でも、いい事を思いつきましたの。これをあなたに着ていただくわ。あなたのその翆緑色の瞳にとても似合うと思うの」
「……私が、着る?」
「ええ、そうよ。私は、アマンダ。あなた。お名前は何とおっしゃるの?」
「リリアです。名乗るのが遅くなってしまってごめんなさい」
「あら、それならお互いさまよ。ねえ、私の事をアマンダって呼んでくださる? 私も、あなたの事をリリアって呼ぶわ」
「ええ。アマンダ」
「では、リリア。これを着て、もう一度愛の告白をなさってくださいね!」
驚きで目を真ん丸にして固まっているリリアに、アマンダは艶やかに微笑んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます