第12話 疑問。

 怖れと不安そうな表情を浮かべて見上げてくるリリアを早く安心させてやりたかったが、どうしても確認しておかねばならないことがあった。


 「リリア。ここで、待っていてくれ」


 愛馬の手綱をリリアに渡し、クロウは一人で崖の縁に寄る。崖の下を見下ろすその目には、剣呑な光が灯っていた。

 突如感じた嫌な胸騒ぎに、とりあえず安全な場所へ避難することにした。今の自分の体調を考えれば、リリアを守りながら戦わねばならない状況は極力避けたかった。

 だが、どうやらその悪い予感は当たってしまったようだ。

 微かに聞こえてきた馬の蹄の音に一瞬ガルロイ達が戻って来たのかとも思ったのだが、もし違った場合を考え、疲れて眠るリリアを起こすことにかなり罪悪感を感じながらも避難した事は間違いではなかった。

 現れたのは六人もの長剣を携えた男達だった。まるで最初から狙っていたかのように、何の迷いも無くまっすぐにリリアが先程まで眠っていたテントへ駆け寄ると、全員が抜刀し取り囲む。

 もちろん、テントの中はもぬけの殻だ。その事が分かった途端、苛立ちも露わにテントを破壊し、踏みにじる。

 男達はその後もわざわざ松明に火を灯し、岩の影や木々の背後まで隈なく探し回っていた。

 男達が灯す光はもうクロウ達の所まで届く事はない。

 クロウは鋭い眼差しで男達の様子をじっと見つめていた。ひどく気になることがあったからだ。男達の動きは統率されていて、盗賊でないことは明らかだったのだ。


(兵士? 王都で、何かあったのか? 俺を狙って来た? まさか、リリアを……?)


 疑問を抱きながらもこれ以上は何も分からないと判断したクロウはリリアの元へ戻ろうと踵を返そうとしたその時、男達の中に見知った顔を見つけた。


 クロウの眼差しがさらに厳しさを増す。


(あの男が、なぜ?)


 謎は深まるばかりだった。

 再び月光が崖の頂上付近を静かに照らし出す。

 だが、もうそこには誰の姿もなかった。クロウはリリアを伴いこの場から静かに姿を消していたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る