第9話 食事。

 ガルロイ達がオアシスに到着するほんの数時間前まで、リリアとクロウの二人はまだオアシスに居た。

 時は前日の朝にまで遡る。


「何をしているの? クロウ」

「出かける準備だ」


 リリアが女だと分かったクロウは、泉から戻って来ると出し抜けに愛馬に荷を載せ始めた。それを見たリリアは慌てて荷造りを止めに入った。


「待って! そんな体では無理よ」

「熱は下がっている。今ここを出発して夜通し進めば、明日の夜明け前には王都に到着するだろう」


 クロウは淡々と説明をしながら、全く手を止めようとはしない。

 熱が下がったとはいえ、先ほどはふらついていたのだ。今のクロウの体では、夜通し馬に乗るなんてどう考えても無謀としか言えなかった。

 もちろん、このオアシスが病人にとって良い環境かと聞かれれば良いとは言えないが、とにかく眠って体力を戻す事が今のクロウには大切な事だった。


「クロウ。少し食事をしませんか?」


 突然リリアが話を変えたので、クロウは怪訝な顔を向けてきた。


「食事?」

「ごめんなさい。食事と呼べるほどのものではないです。でも、あの、クロウは昨日から水以外何も口にされていないでしょう? だから、スープを作ってみたんです。どうですか? 少し飲んでみませんか?」


 クロウの返事も待たず、急いで木製のお椀にスープをよそい、こぼさないように注意しながら彼の目の前に湯気が立ち上るスープを差し出した。

 リリアはクロウの身体を拭くため泉に水を汲みに行ったその時に、スープも作っていたのだ。


「いつのまに……」

 

 クロウは苦い笑みを浮かべる。


「俺は、ずっとおまえに世話になってばかりだ」


 苦々しく言うクロウに「そんな事はない」とリリアがどんな言葉を並べたとしても、きっと彼は自分を責め続けるだろう。

 リリアは何も言わず、彼の手を引っ張って木陰に座らせると強引に器を持たせる。


「そう思うなら早く元気になって、私を王都へ連れて行ってくださいね。では、早速このスープの味見をしてください!」


 今のリリアは自分のことよりも、ただ少しでも早くクロウに元気になってもらいたかった。

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