ハイウェイの獣

cokoly

ハイウェイの獣

獣が睨んでいる


今にも飛びかからんと体勢を整えている


その獣は運転席の後部座席に乗っている


バックミラーを覗くと獣の光る目がこっちを見ている


よだれを垂らしている


いつの間に乗り込んだのか


夜のハイウェイ


ダッシュボードのコンソール


指先でタッチして電話する


夏乃を呼び出す


ディスプレイに映る


恋人の夏乃


かけがえのない


「ハロゥ」


いつもの合図


「どしたのー」


これもいつもの


「夏乃」


「はい夏乃です」


「俺はもうダメかも知れない」


「何がダメなのだろう」


「今車で」


「うんうん車で」


「後ろに獣が」


「うわ」


「やばい」


「轢いちゃった?」


「違う」


「あら」


「後部座席に」


「獣が?」


「見えないか?」


僕は車内カメラの角度を少し変える


後ろの座席を親指を立てて指してみる


「みえんよぉ」


「さっきから居るんだ」


「……だいじょうぶかね」


「今にも食われそうなんだ」


「ふう」


「どうしようどうすんだこれなんなんだこれ」


「落ち着け」


「ほんとに見えない?」


「残念だが」


僕はまたバックミラーを覗く


獣が半開きの口から牙を剥きよだれを垂らしている


荒い息遣い


目の前の餌に興奮している


「演技だったら大したものだ」


「は?」


「ホラー映画の被害者に抜擢されてもおかしくない」


「信じてよ」


「わかったわかった」


「わかってない」


「ある意味誘っているな」


「へぇ?」


「後で謝るつもりなんだ」


「何の話?」


「さっきは変な話してごめんお詫びに好きな事していいからって言う感じで虐めて欲しいんだろ」


「そうじゃなくて」


「ふふふふそんなにいじめられたいならたっぷりお仕置きしてあげるからはやくおいで」


「ちょっと頼むよ」


「頼まれた」


唐突にディスプレイが暗転する


通話は切断された


確かに僕はドMだがこんな変なおねだりをした事は無い


いやだからこそ夏乃は面白がったのか


どんなことしてくれるつもりなんだろう


ちょっと忘我


静かに興奮


背後で獣が唸る


ああそうだった


いかんいかん


獣の事を忘れそうだった


でも


考えたところでどうにかなるだろうか?


実在するかも分からない


今のところ鏡の向こうだけの存在


今にも襲ってきそうだけど


ちっとも襲ってきやしない


こわいけどこわいだけ


だから


夏乃の事を考えよう


これから夏乃とする事される事の変態プレイナイト想像




妄想と獣の視線が絡まって


僕はこれまでに無い興奮状態に陥った


アクセルを踏み込んで


ハイウェイを爆走

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ハイウェイの獣 cokoly @cokoly

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