第40話 公爵令嬢は先生になる

学童院は10時から開始され、休憩を挟みながら1時間、給食が20分、午後は2時まで授業をする。


地球の時間で例えたら、9時半から12時まで午前授業、12時半から15時半まで午後授業って感じ。


うーん、この地球との時間の違い、未だに謎が多いんだよね。


地球より1日が3時間46分40秒長くて、1年が135日多い計算になるんだけど、体内時計や成長に違いがあるんだろうか。


連続活動時間が地球より長いのに、昼寝をせずに活動出来てるし、食事と食事の合間におやつ食べずでも晩ご飯まで耐えていられてるし、体内時計はこの世界基準になってるのかな。


平均寿命はやっぱり都市部と田舎でだいぶ差があるんだけど、長生きしてる人だと90歳超えてる人もいるくらいだから、地球人に比べたら緩やかに成長、老化してるんだろうね。


あと、この世界には光属性による治癒魔法てのがあるから、原因のわかる病気や怪我は治す事が出来るんだけど、医学は地球に比べると桁違いに遅れてるから、そのあたりが改善されれば平均寿命ももっと伸びると思う。


まあ、光魔法も万能じゃなくて、肥満や飢餓といった外因的なものは治せないらしいから、そこは規則正しい生活と食事の栄養バランス、適度な運動ってのは地球と変わらないだろうね。


そういえば、今まで色んな資料や文献を見てきて、地域別平均寿命とかの情報はあったけど、年齢別の身長、体重、体力とかを調べたようなものはなかったな。


これは、私の好奇心だけじゃなくて、国民の健康の為にも必要な事なんじゃないかな。





昼食の時間になった。


昼食は、自分で用意してくるかここで出される給食を食べるか。購買はない。


ほとんどの子は給食を食べるんだけど、内容が固いパンと野菜スープだけだったから、金銭的に余裕のある子は自分で持って来た物を(も)食べるらしい。


私は持参、今日はサンドイッチを持ってきた。


おやつのチーズ入りドーナッツもある。


給食の子に比べると、量も栄養バランスもしっかりしている。


私の昼食を物欲しそうに見てるけど、一人にあげたら全員にあげなきゃいけなくなるし、そしたら私の食べる物なくなっちゃうから、視線が痛いけど全部一人で食べる。


うーん…


量が少ないのはわかるけど、皆んな食べるの早すぎ。



午後の授業まで皆んなでお喋りタイム。


「なんで6才なのに先生なの?」


知らん。こっちが聞きたい。


「なんて呼んだらいいの?」


呼び方にこだわりはないんだけど、マナー的には様呼びじゃないとダメなのかな?


せっかく友達になるんなら、ちゃん呼びとかあだ名で呼んでもらいたいよね。


あ、でも私一応先生になるから、先生呼びになるのかな?


「じゃあ、フランちゃん先生ね。」


それ、呼びにくくない?


満場一致で可決。




午後の授業は私が受け持つことになった。


なんの打ち合わせもない、ぶっつけ本番。


好きな事をやっていいらしい。


という訳で、皆んなに中庭に来てもらった。


「フランドールお嬢様、中庭で一体何をなさるのですか?」


「ちょっとここに壁を作ろうと思ってるんです。」


「か、壁ですか…どのような…?」


「こんな壁です。」


ズドーンと、横幅5メートル、高さ2メートル程の石壁を作った。


初めて見る魔法に、子供達は「うぉー」とか「きゃー」とか「スゲー!」とか言って大興奮、ベル先生は大混乱。


「あ、あの、この壁、何に…」


「皆さんの身長を測ります。

ベル先生も手伝ってください。」


子供達を一人ずつ壁に立たせて、背の高さで壁に傷を付けた。


「自分の傷に名前と今日の日付を書いてください。

書き方は、私とベル先生で教えます。」


こうして、全員が自分の傷に名前を書き終えたのを確認して、皆んなに言った。


「皆さんは、私も含めて今日入学しました。

卒業はバラバラになってしまうかもしれませんが、このメンバー全員が揃ったのは今日が初めてです。

いつか卒業する頃、この壁の傷を見て「あの日よりこんなに成長出来たんだ」と今日のことを思い出してください。」


子供達は「こんくらいおっきくなるぞー」とか「「ぬかしてやるからなー」とか言って、お互い背比べをしている。


ベル先生は、そんな子供達を見て笑っていた。


「初めての授業がこんなに素敵なものになるなんて、さすがフランドールお嬢様です。」


「この壁はこれで終わりじゃないですよ。

子供達が帰ったら、一人ひとりの身長を記録していくので、ベル先生も手伝ってください。」


「え、何をするおつもりですか?」


「みんなの身長の平均値を調べます。

そうする事で、ここの子供達の成長具合が分かります。

遺伝的なものもあるかもしれませんが、他の子に比べて成長が少ない子に対して、健康面の管理や注意喚起をしていく事で、みんなが元気に過ごすことが出来ます。」


「…そこまでお考えになって壁を作られたのですか。

流石フランドール先生です。」


いつの間にか先生呼びになっていた。



この後、教室に帰って健康についての話を少しした。


食事をよく噛んで食べる事のメリットとよく噛まず食べる事のデメリット、虫歯が健康へ悪影響を及ぼすリスクと歯磨きの効果、悪い姿勢による弊害等、出来るだけわかりやすく話した。


今日皆んなと一緒にいて気付いた、どれも今すぐ実践出来そうな事ばっかりなんだけど、分かってくれたかな?




子供達が帰る頃、リッカが迎えに来たけど、私はすることが沢山残ってたから待っててもらった。


ベル先生と二人でみんなの身長を記録していたら、他のクラスの先生が「何してるんですか?」と声をかけてきて。今日のことをベル先生がやや盛り気味に話したところ、その先生は急いで院長先生を連れてきて、中庭は岩壁まみれになった。


「ついでにフランドール先生も測ってみては如何ですか?」


前から二番目だった、ちくせう。

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