第39話 公爵令嬢は学童院に通う

1月も半ばを過ぎた頃。


お兄様がエレメント魔法学校へ入学して少し経つ。


全寮制なので、入学してからはお兄様に会えないけど、手紙で色々と情報交換をしている。


学校で楽しく魔法や勉学や魔法について学んでいるみたいだ。


因みに、友人ロナウド・アースフィールド第三王子の兄で、お兄様の友人でもあるクロード・アースフィールド第一王子とも手紙でやりとりをしていて、彼曰くお兄様は成績トップで先生から一目置かれていて、女性陣に囲まれたリア充生活を満喫しているらしい。



私はと言うと、今日から学童院に通う。


学童院は、フィアンマ公爵領の領民なら6歳から14歳迄の間に最低2年間就学していないといけない我が領独特の義務教育で、文字の読み書きや計算、一般常識やマナーといった事を学ぶ事が出来る。


8年前にお父様が創立させた時は、働き手となる子供を学校に行かせるなんて、と義務教育化に反対の声も多かったらしいけど、読み書き計算が出来て常識のある子供の就職率の良さや、優秀な従業員による収入の増加が、徐々に目に見えて結果として現れてきて、今じゃフィアンマ公爵領民の7歳以上の未成年(17歳未満)の識字率はほぼ100パーセントになっている。


そんな学童院にこれから通うんだけど、私多分この国の偉い人たちより知識あるんだよね。


読み書き計算を習う為の場所に、私が行く必要があるのだろうか。



お父様とお母様に行く気が湧かないと伝えたけど、


「気持ちは分かるが、お前だけ行かなくていいとか特別扱いは出来ない」


と言われて、渋々行く事になった。


「つまらなくならないように、上手い事やってもらうよう言ってあるから」と言われたけど、上手い事の内容が何なのかは分からない。


こんなにワクワクしない「分からない」も中々ないのだけど、不機嫌そうに学童院へ向かう私の姿を見たリッカが


「公爵令嬢たるお方が、そんなお顔をなさってはいけません。」


と注意してきた。


確かにそうなんだけど、うーん…


気に食わない時に思わず表情に出てしまうのは、私がまだ子供だからなのか、それとも私の性格だからなのか。


でも、立派な公爵令嬢になるには、こういう所は直していかないとね。


ましてや、私がもし乙女ゲームのライバルキャラだった場合、ちょっとキツめの顔だからブスッとしてると余計悪い顔に見られちゃうし、悪役令嬢には絶対なりたくないもの!



学童院は全部で3カ所あり、フィアンマ公爵邸から一番近い学童院までは馬車で10分程。


私は自前の馬車があるけど、皆んなが自前の馬車を持っているわけじゃないし、だからといって徒歩で通うには遠すぎる子も沢山いるから、そういった子達用に通学用相乗り馬車も出ている。

_


スクールバスのようなものだ。


農繁期の春と秋の二度長期休みがあって、大体の子がこの休み明けのどちらかで通学開始する。


私は誕生日が10月3日で、6歳になって長期休みが明けたのが今日。



もう6歳。


俺と一緒になってもう一年経つんだ。


この一年間で随分変わったなあ、この世界も、私も。


特に、食べ物が劇的に変わった。


揚げ料理と蒸し料理がこの世界に誕生した。


揚げ物は未だにブリキッド商会の専売だけど、蒸し料理、特にお饅頭は私とロナウド王子の共同開発として、王宮料理を代表する一品となった。


5歳と6歳の幼児2人が新料理開発とか、普通に聞いたら漫画みたいな話だよな。


あれから割と頻繁にお城へ呼ばれて遊んでいるけど、ロナウド王子は結構な頻度でお饅頭を作っているみたいで、最初に比べると見違えるように上手に作れるようになってた。


だから、この間は肉まんの作り方を教えてあげた。


醤油がないので日本で食べたのとは味が違うけど、それなりの味になったかな。


今度は一緒に餃子を作ろうと約束をした。


色々考えているうちに、学童院に着いていた。


物思いにふける事が多くなったのも、中年の俺の影響なのかな?




学童院は1カ所につき約800人程いて、1カ所につき20クラスある。


半年に一回学力別にクラス替えされて、学力が一定以上になれば二年間以上の通学後、卒業できる。


入学時期や卒業時期は人によってバラバラなので、入学式も卒業式もない。


受付で入学手続きと学力テストをしたら、学力に合ったクラスに割り当てられるはずなんだけど、私はテストを受ける事なく、何故か読み書きのできないランク1クラスへ案内された。


訳が分からないまま教室に入ると、成認式で一緒になったであろう子達にワッと囲まれてしまった。


でも、私この子達誰も知らない。


領内の孤児院の子達は、私が遊びに行った時読み書きを教えていたからもっとランクの高いクラスだし、成認式でドレスをあげたのは全員別の領地の娘だったから、知り合いはおろか顔見知りもいない。


だから、「わたしのこと知ってる?」って言われても知らねーよ!


フィアンマ公爵領だけでも1000人いたんだから、あんな一瞬で覚えられる訳ないよ!



皆んながわちゃわちゃ私に言い寄っているうちに、先生が来ていた。


改めて周りを見る。


このクラスは40人で、全員が今日初登校。


まず全員で自己紹介をした。


一人だけ7歳だったけど、他は全員6歳だった。


生徒の自己紹介が終わったら、先生の挨拶。


名前はベル、21歳女性。


学童院の卒業生で、17歳からここで先生をしているらしい。


そんな先生が、これからどんな授業をしてくれるのかなーとか思っていたら、私を呼び出して前に立たせた。


「そして、さっき自己紹介してくれた、フランドールお嬢様は、今日から私と一緒に先生をしてくれます。

皆さん、「よろしくお願いします」と言って拍手をしましょう。」


「「「「よろしくおねがいします」」」」パチパチパチ…


…は?


何も聞いてない、そんな事。


何?先生になるって?


お父様の言ってた上手い事って、この事?


最初に言っとけー‼︎

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