第41話 公爵令嬢は授業を行う
昨日は帰ってからお父様に文句を言った。
先生になるだなんて聞いてない。
「言ってなかったからな。」
何故に。
「言ったからって、学童院に行きたいと思ってくれるとは限らなかったからな。」
先生なら面白そうだから行きたいと思ったよ。
じゃなくて、生徒のつもりで学童院に行ったら実は先生でしたとか、心や物の準備が出来ないでしょうが。
「物はフランなら現地調達出来るだろう。
それに、初の授業はとても良かったと聞いたぞ。」
たまたまだから。
次からはちゃんと相談して欲しい。
「フランだって何の相談もなく色々やっちゃってるじゃないか。」
くっ…
お父様は国王様に石焼き芋の作り方を教えたことを今だに根に持っている。
国王様、どうしても石焼き芋が食べたくて、こっそり作ってた所を家来に見つかってバレてしまった。
内緒にしてと言ったからって、自分で芋焼いちゃうとか、国王様お茶目かよ。
今日の授業は、全校生徒で身体測定。
実は、この国の体重計は魔導具として作られた物しかなくて、かなり貴重でお値段もぶっ飛んでいる。
この世界、文字と時間軸は地球とは違うけど、重さや長さなんかは同じだった。
だから私、作っちゃいました、魔法で。
昔の銭湯とかによく置いてあるあの形のやつ。
昨日夜遅く(リッカに注意される)まで作ったものが3台、今朝早く登校して何とか作れたのが1台、計4台。
昨日散々ぶつくさ言われたから、体重計の事はお父様には何も言わずに黙って持ってきた。
後で何を言われようがもう知らん。
当然、先生方はこの体重計を見てビックリ仰天してた。
一応この学童院専用の物だから、分解したり持ち出したりしないでねとかなり念入れしておいた。
これ作るの、めちゃめちゃ大変だったんだから、壊したり無くしたりされても二度と作らんぞ。
あと、中庭にあった大量の壁は邪魔くさかったから、うちのクラスのもの以外撤去。
代わりに身長計を作った。
綺麗だった芝が見るも無残な姿になってしまった。
我が家の庭の二の舞である、私のせいではない。
私のクラスは、昨日身長を測ってるから体重だけ。
身体測定は、年齢・生まれ月別に分けて計測。
6歳、7歳が多いけど、家庭の事情とかで10歳で入学する子とかもいて、物覚えが悪くて3年以上在学してる子もちらほらいたので、思ったより色んな年齢の子の情報がゲット出来た。
因みに、私全校生徒で3番目に小さかった、解せぬ。
午前中に身体測定が終わって、昼食の時間になった。
今日は私も皆んなと同じものを食べる事にした。
硬くて小さなパンがひとつと、薄い塩味の野菜スープ。
これだけ。
絶対足りない。
いつもの私の食事の半分ほど。
こんなんだから、皆んな背の割に体重が軽かったんだよ。
…じゃあ私の背が低いのはなぜ?
昨日の授業で言った通り、皆んなしっかりよく噛んで食べている。
私も満腹中枢を刺激するために、いつもより多く噛んでおります。
でも、腹八分目にもならなかった。
栄養バランスも悪い。
これは給食をどうにかしないと。
午後は普通通りの授業。
前半はベル先生が受け持ち、昨日と同じく字の読み方を教えている。
でも皆んな集中できてない。
手悪さしたり、落書きしたり。
前の席の子にいたずらしている子もいる。
これじゃあ覚えるのに時間が掛かりそうだ。
案の定、集中できてない子達は中々字を覚えられないようだ。
これも何とかしなくては。
ベル先生が授業をしているうちに、私はこっそりあるものを用意した。
量が多かったからちょっと大変だったけど、何とか私の授業までに間に合った。
あと、朝体重計作ったり壁無くしたりしてて魔力残量不安だったけど、魔力足りてよかった。
後半になって私が授業を受け持つ番になった。
私はまず、皆んなに机と椅子を教室の外に出すように指示を出した。
「フランちゃん先生、なにするのー?」
ふっふっふっ、それはこれからのお楽しみ。
机と椅子が出せたら、5人組を作ってもらう。
私含めて40人だから、ひと組は4人組だけど、全部で8組出来た。
その8組に、アルミで出来た薄い小さな板の束を渡す。
「これなににつかうの?」
「なんか字がかいてあるー」
「今配った板を床に並べて、それを5人組で囲ってください。」
言われた通りにアルミの板を並べて囲みガヤガヤ騒ぐ子供達。
ベル先生は何をするかわかってない様子で、黙って私を見ている。
「これからゲームをします。
私がこれから字を読み上げるので、その字が書かれた札を早い者勝ちで取ってください。
グループで一番札を取れた人には、明日私の手作りお菓子を用意してあげましょう。」
「「「「ええっ、ほんと⁉︎」」」」
「本当です。
ただし、一番たくさん札が取れた子だけですよー。
喧嘩をした人にもあげません。
皆んなで仲良く集中して、たくさんの札を取ってくださいね。」
「フランドール先生、いつのまにあのような物を用意されていたのですか。
8人の子に手作りお菓子だなんて、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です、私こう見えて料理得意なんです。
流石に全員分用意するのは大変なので、子供達で競い合って数を減らしてもらいましょう。
では初めますよー。
最初は『か』」
「えぇーっと、えぇーっと…」
「あった!」
「あれ、この字だったかなー?」
全グループが取れたようなので黒板に正解の字を書く。
「よっしゃー、せいかいだー!」
「うわーっ、まちがえたー。」
「正解した人はその札を持ってて、間違えた人は札を元の場所に戻してくださーい。
じゃあ次行きますよー、『れ』」
「よし、ゲットだ!」
「あれっ、どこだどこだ?」
「あー、この字しってたのにとられたぁ。」
皆んなワイワイきゃあきゃあ楽しんでる。
ご褒美で釣ったのは良くないのかもしれないけど、この調子ならご褒美なしでも全員が集中して授業を受けてくれるんじゃないかな。
場の札が10枚になったところで、今回は終了。
お菓子ゲットの8人が決まった。
「皆さん、よく頑張りました、お互いに拍手ー。
この8人には明日手作りお菓子をあげます。
明日のこの時間にも、このゲームをします。
ご褒美をするかは分かりませんが、しっかり字を覚えてたくさん札が取れるようになりましょうねー。」
「よっしゃ、めっちゃ字をおぼえまくるぞー!」
「つぎはアタシがかつんだからね!」
「おかしがなくても、ボクはかつもんね。」
皆んなには、頑張れば評価してもらえるって事、集中して楽しく学べば勉強が好きになるって事、「わからない」が「わかった」になった時の喜びを、私は知って欲しい。
「…フランドール先生はやっぱり凄いですね。
こんなに楽しそうに勉強をする子供達、初めて見ました。」
「勉強は面白いんです。
それを皆に知ってもらいたくて、頑張って考えました。」
「私も負けてられません。
皆んなが面白いと思う勉強方を考えます。」
「お互い、素敵な授業にしていきましょうね。」
授業中にギャーギャー騒ぐうちの教室を不審に思った先生が駆けつけてきて、昨日のようにベル先生が話を盛って伝えたため、再び院長先生が召喚されて、アルミ板文字かるたを大量に生産する羽目になり、今日もリッカを待たせることになった。
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