第38話 公爵令嬢は王子と饅頭を作る

さて、訓練場での一悶着の後、私達は調理場へ向かっていた。



次の目的は、ロナウド王子の壁を越えること。


さっき、ロナウド王子は私の壁を一緒に超えてくれた。


今度は私が一緒に、ロナウド王子の壁を越える番だ。


初めはただのお土産のつもりだったんだけど、今日持って来た荷物が壁を越えるための道具になりそうだ。


「ロナウド王子、今からお友達として私と一緒に、実験をしてみませんか?」


「じっけん?」


「私、本日ロナウド王子とお友達になれたら、誰も知らない新しいお菓子が作れるか、一緒に試してみたいと思っていたのです。

何でも出来るロナウド王子、ご一緒して頂けますか?」


「いいぞ、オレは何でもできるからな。」


良かった、調子が戻ってきたみたい。


今回は私とロナウド王子2人で作るから、コックや御付きの者達はリッカと一緒に見学。


私がいるから大丈夫だって、不安そうな顔をしないでよ皆んな。



そして調理場に着いた。


私は、大きな荷物から材料と調理器具を用意した。


取り出したのは、大きな蒸し器と大量の小豆、笹の葉数枚。


この蒸し器、公爵邸で作ってきた物。


木蓋はダニエル先生に作ってもらった。


因みに、ダニエル先生は植物の生成や成長は出来るけど、加工はした事がなかったらしくて、完成までに1週間掛かった。


ダニエル先生は完成した木蓋にやり切った感満載だったけど、普通に木工職人に頼んだ方が早かった。


あと、小豆なんだけど、農家さんに取り寄せをお願いしたらどこも取り扱ってないと断られた。


何でも、この世界で小豆は雑草扱いになっていて、誰も食べないんだって。勿体無い。


なので、笹の葉もついでに、小豆をダニエル先生に作ってもらった。


その他の材料はここの物を使わせてもらおう。




では先ず、あんこを作っていきましょう。


こしあんは面倒なので、今回は粒あん。


実はこっそり部屋で練習してきていた。


あんこの作り方は知っていたけど、作った事がなかった。


夜中、誰もいない調理場で一人でこっそり練習…しようとしたら、「何をなさるおつもりですか?」とリッカに見つかり断念。


いつ部屋を出ようとしてもリッカが待ち構えているから、仕方なく部屋にこっそりかまどを作って、夜な夜な練習。


最終的には匂いでバレたけど、蒸し器の蓋が出来るまでには大分上手に作れるようになったと思う。


初めての料理をロナウド王子とぶっつけ本番で作って失敗とか、嫌だったんだよ。


閑話休題。



まずは小豆を洗う。


二つのボールに入れて、二人で洗う。


ロナウド王子、水を捨てる時小豆をこぼさないようにね。


次に豆を煮る。



沸騰したら火を止めて、鍋に蓋をして暫く放置。


「なんで?」って聞かれたけど、なんでだろう?


この蒸らしの工程は、あんこを作る中でかなり大事らしいんだけど、理由は知らない。


6分(地球時間で10分)程蒸らして、煮汁に豆の色が付いたら煮汁を捨てる。


熱いから、気を付けてね。


次に、もう一度豆を煮る。


さっきは沢山の水で似たけど、今回はひたひたくらい。


沸騰したら、弱火でコトコト。


豆が膨れて水が減ってきたら、ひたひたになるまでこまめに水足し。


こうする事で豆が潰れにくくふっくらするらしい。


大変だけど、やっぱり一手間が美味しさのコツだよね。


で、豆が完全に指で潰せるようになったら、火を止めて、再び蒸らす。


さっきの6分の蒸らしでも待ちきれない様子だったロナウド王子が、18分(30分)も待てるのだろうか…


という事で、砂時計をあげた。


3分(5分)で砂が落ちきるように作ったので、6回落ちたら蒸らしが終わるよ、と教えると、じーーーーーっと落ちる砂時計を見ながら6回数えてた。


作っててよかった、砂時計。


6回終わったとロナウド王子が教えてくれたので、次は味付け。


水に砂糖を入れて、だいたい溶けたら豆を投入。


火に掛けて練るんだけど、この作業、素手でやったら滅茶苦茶熱い。


私は初めて作った時、軽く火傷をしました。


なので、調理用手袋を二つ作った。


私の手縫い。


裁縫なんて俺の高校以来だったから上手く作れるか不安だったけど、リッカと一緒に頑張って作った。


リッカが私の分を、私はロナウド王子の分と何故かリッカの分。


少し不格好になったから「こんなダサいの付けたくない」と言われてカチンときたけど、これしてないと絶対泣く程後悔するよと脅して無理矢理付けさせた。


リッカ、ロナウド王子を睨むんじゃない。


砂時計2回分練り上げたら、粒あんの完成!


荒熱が取れたら、ロナウド王子に味見してもらう。


「あ…甘くて美味しい。」


よかったー、美味しいと言ってくれて。


周りの大人にも味見をさせてあげる。


さっきからウズウズしてたの、分かってたんだから。


「お、美味しい!

あの野草の豆が、こんなに美味しいジャムになるんですね!」


あ、成る程、豆ジャムと捉えるんだ。


「流石です、ロナウド王子!

初めての料理でこんなに美味しい物を作られるなんて!」


そうそう、これを言わせたかったんだよ。


でもこれで終わりじゃない。


まだ具材を作っただけだからね。



薄力粉に砂糖、水、重曹を入れて、よく混ぜ合わせて生地を作る。


ロナウド王子、楽しそうだ。


次に、さっき作った粒あんを生地で包んでいくんだけど、私はこの工程が楽しくて好きなんだよ。


あー、やっぱりロナウド王子には少し難しいか。


慣れるまでは皮が破れてあんが見えたりしちゃうんだよ。


大丈夫、少々不格好でも一生懸命さが伝わればいいんだよ。


出来上がった物を、水を入れて笹の葉を敷いた蒸し器に並べて、蒸しあがったら完成。


お饅頭の出来上がり!


味見は私とロナウド王子だけ。


周りの大人達が食べたそうにしているけど、まだダメ。


うん、美味しい。


ロナウド王子もいい反応だ。




出来上がったお饅頭を持って、さあ行くよ、ロナウド王子!


え、どこだって?


勿論、国王様の所だよ!



国王様は、お父様とお話中だった。


仕事の話をしてたっぽいけど、私たちを見かけると話を切り上げて対応してくれた。


ロナウド王子と私で、新しい食材と新しい調理法で新しい料理を作ったと言ったら、一瞬お父様の顔が曇った。


もういいじゃんか、今回くらい。


今まで散々美味しい思いしてきたでしょう?


それに、ロナウド王子の壁を越えるのに、私が必要だと思っちゃったんだら。


「お父さま、オレがはじめて作ったあたらしいりょうり、たべてくれますか?」


そうして差し出した、不格好なお饅頭。


私のもお父様に差し上げたけど、それに比べると皮の厚さはバラバラで、あんこがはみ出てる所もある。


「…ロナウドが、儂の為に作ってくれたのか?」


「はい、いっしょうけんめい作りました。」


ロナウド王子が作った不格好なお饅頭を一つ手に取って、一口食べる国王様。


目を瞑って、しっかりと味を堪能している。


皮の厚さのばらつきで、多少味に違和感があるかも知れない。


でも、そんな事は関係ない。


ロナウド王子が初めて国王様にプレゼントをした。



国王様から物を貰ったり、何かしてもらう事はあっても、ロナウド王子が国王様のために何かをするという事が今まで一度も無かったらしい。


自分の事を見てもらうために、どんなに勉強や剣術、魔法を頑張っても、いつも褒めてくれるだけで認めてもらえた気がしない。


もっと自分の事を見て欲しいのに、忙しい国王様はちっとも自分に興味を持ってくれない。


だから、自分を大きく見せれば、自分の方を向いてくれると思ったロナウド王子。


そうして、ちょっと問題児として扱われてしまうようになった。


確かに見てはもらえるけど、認めてはくれない。


苦しかっただろうね。


だったら、国王様の為に何かをしてあげて、認めてもらおう。


それも、誰もやった事のない様な凄い事を。



手に取ったお饅頭の残りを、一口で食べきる国王様。


目を瞑って、ゆっくり噛みしめながら、目頭を押さえて時々鼻を啜っている。


「…美味しいなぁ…

こんなに美味しい食べ物なんて、初めて食べたよ…」


そう言って、次々とロナウド王子の作ったお饅頭を食べた。


そして、全てのお饅頭を食べ終えた国王様は、


「ありがとう、ロナウド。

最高に、美味しかったよ。」


そう言って、ロナウド王子を抱きしめた。


「お、お父さま⁉︎

こんな人前で、はずかしいから…」


「ロナウド、こんなに大きくなっていたんだな…

誰も知らない料理が作れるだなんて、立派になったなぁ。

流石、儂の息子だ。」


そう言われて緊張の糸が切れたのか、ロナウド王子は泣き出した。


さっき見せた悔し涙とは、別の涙。


一人で越えられない壁は、二人で越えちゃえば良いんだよ。


私だってそうだったんだから。


見ていた御付きの物達やリッカも、皆んな涙ぐんだり鼻を啜ったりしている。


そして、泣きながらお饅頭を食べる父ェ…。




「今日は本当に感謝する、フランドール嬢。

おかげで立派になった息子の姿を料理を食べる事が出来た。」


「とんでもございません。

ロナウド王子、また遊びにお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「友だちなんだから、けいごはいらねえよ。

いつでもあそびに来ていいぞ。」


「ふっふっふっ、こりゃ友人から嫁に変わる日も遠くないかな。」


「なっ、お父さま⁉︎」


こっこ国王様⁉︎


「陛下、非常にありがたいお申し出ですが、娘にはまだ早すぎると。」


お父様、それは良い意味で言ってくれてるのかな?



そんな雑談をして別れて、馬車の中でお父様に小言を言われながら帰った。


そして翌日、早速王宮に呼びだされ、国王様にロボットとオルゴールを要求された。

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