第37話 公爵令嬢は王子と仲直りする

…割と長い時間泣いてるなあ。


今まで同年代で自分より優れた人が周りにいなかったから、「自分が一番凄い」って思ってたところに、成認式で目立ったり、50年に一人と言われる火土属性魔力持ちだったり、次々ヒット商品を作ったり…といったチート活動で、国王様の関心の先にある私にヤキモチ焼いたんだ。


だから終始私に喧嘩腰だったんだね。


王宮での普段の態度も、承認欲求の現れだったんだよ。


周りの皆んなから見てもらいたい。


そして、お父さんに認めてもらいたい。


たったそれだけなんだよ。


子供だから、不器用だから、そして男だから、素直に表現出来ないんだ。


「ロナウド王子…」


「うるさい!お前なんか、大きらいだ!」


…でしょうね。


元々ライバル意識を燃やしてた相手に、ぐうの音も出ない程コテンパンにされちゃあ、そのプライドはズタボロになるわな。


俺ならここまでされちゃあ、二度と会いたくない。


でも、それじゃあダメなんだよ。


壁を乗り越えないと。


一緒に乗り越えないと。


「私はロナウド王子と喧嘩をするためにここに来たのではありません。

友達になりたいと思って来たのです。」


「えっ、あんな事言っておいて?」と怪訝な顔してこっちを見ないでよリッカ、あとロナウド王子の御付きの者達。


「いやだ!友だちなんかになりたくない!

どうせオレをバカにするんだろ⁉︎」


…確かにそう捉えられるような言動をしたけども、不本意なんだよ?


途中ノリノリになっちゃったけど、本当に不本意なんだからね?


ワザとだろ?って考えてるんだろ、リッカ。


最近表情がやかましいよ?


「ロナウド王子、私には悩みがあります。」


「えっ」と泣きながら私の目を見るロナウド王子。


やっとこっちを向いてくれた。


私はロナウド王子の事を知る事が出来た。


今度は私の事を知ってもらう番だ。


「私は5歳になってから沢山の事が出来る様になりました。

沢山の本を読み、色んな実験をして、料理を作れるようになり、魔法も使えるようになました。

そして、多くの人に褒めてもらえるようになって、色んな方に私の能力を認めてもらえるようになりました。」


「なんだよ、ただのじまんか⁉︎」


「そして段々と、私は5歳の少女として見てもらえなくなりました。」


ふっとロナウド王子の表情が変わった。


おいリッカ、何でボソッと37歳オッサンでしょ?とか言うの?


シリアスな空気になってるのに、さっきからチョイチョイ水を差すんじゃないよ。


「私の事を、金のなる木だと言う人がいます。

私の事を、流行の最先端だと言う言う人もいます。

私の事を、世界を変えていく者だと言う人もいます。

私の事を、「とても5歳とは思えない」と言う人は沢山います。

でも、私の事を、「やっぱり5歳の女の子なんだね」と言う人は誰もいません。」


「…おとなだと言われるのはイヤなのか?」


「嫌ではございません。

褒めて頂けると嬉しいですし、認めて頂けると安心します。

でも、年相応に全く見られないのは寂しいのです。

まるで、私の中にいる別の誰かとして見られているようで。」




私の壁。


段々と私の事を、5歳の少女、フランドール・フィアンマとして見られなくなってしまった事。


確かに、私の中にテルユキ・ハラダは存在する。


私の行動や功績に、テルユキの知識、知恵、経験、技術が多く関わっているのも事実。


でも、私がテルユキになった訳じゃない。


私の中には、テルユキとフランドール、二人とも存在する。


なのに、周りは皆んなテルユキばかり見ている。


国の偉い人も、領民も、フィアンマ家の使用人達も、家族やリッカでさえも、私でなくテルユキばかり見ている。


テルユキが嫌いな訳じゃない。


とても大切な私の一部だから。


だからと言って、テルユキばかり見られるのは辛い。


私が、フランドールが、居なくなってしまったように思えて…。




「なに言ってるの?

お前5才じゃないの?」


「いいえ、あと一月半の間は、まだ5歳です。」


「お前、名まえは?」


「フランドール・フィアンマでございます。」


「じゃあ5才の少女、フランドール・フィアンマだろ?」


…思わず笑ってしまった。


そうだよ、私はフランドール・フィアンマなんだよ。


「なにわらってるんだよ。

あっ、もしかしてお前、男なのか⁉︎」


「ふふっ、男性に見えますか?」


「見えるわけないじゃん。」


6歳の少年、ロナウド・アースフィールドは、私の事を色眼鏡なしで見ていてくれる。


「やっぱりロナウド王子は蛮族なんかじゃなくて、困った人を助ける英雄だったんですね。」


「っあたりまえだろう!」


少し照れながらロナウド王子は答えた。


「では、私を助けると思って、友達になって頂けませんか?」


「…しかたない、とくべつだぞ。」


「ありがとうございます。

先程は数々の無礼な発言をしてしまい、申し訳ありませんでした。

許してくださいますか?」


「ああ、わかったよ。

次からは気をつけろよ。」


「はい、気を付けます。

ロナウド王子は優しいですね。」


ふんっとそっぽを向いてしまったけど、耳まで真っ赤になってる。


今日はここに来て良かった。


彼と友達になれて良かった。


「ぅお嬢様ぁ!

ん私もっ、ぐすっ、わ、私も、おじょお様どじでっ、ひぐっ、見でおりっばすっ!」


…ほんとうに今日はここへ来て良かった。

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