第36話 公爵令嬢は王子と喧嘩をする

部屋に金髪翠瞳の美少年が入ってきた。


国王陛下の御子息の一人でこの国の第三王子、ロナウド・アースフィールドだ。


私と同じ、いや誕生日がきているから同学年一歳上の6歳。


そして、兄であるクロード・アースフィールド第一王子に「天狗になって調子こいてる」的な事を言われてしまっている人物。


「来たか、ロナウド。

彼女がフランドールだ」


「お初にお目に掛かります、フランドール・フィアンマと申します。」


「ロナウド・アースフィールドだ。

お父さまやお兄さまがスゴい人だって言ってたけど、オレより小さな子どもじゃん。」


「これロナウド、失礼な事を言うんじゃない。

すまん、フランドール、口の悪い息子で。

儂も手を焼いておるのだ。」


ほほう、これが第一次反抗期というやつか。


私なんかよりよっぽど5歳児が似合うじゃないか。


あ、もう6歳児か。


但し、先程言っていた「小さい」という言葉は聞き捨てならねえな。


おっと、幼児相手に熱くなっちゃいかん、冷静に。


「ロナウド王子は、国王様と同じ風土属性魔力をお持ちでしたわね。

しかも魔力量が9レベルと非常に高かったと。

私、魔力量がとても低いので、ロナウド王子が羨ましいですわ。」


「へへん、そうだろ、うらやましいだろ。

それにな、オレはもうカミナリまほうが使えるんだ。

どうだ、スゴいだろ!」


ガキンチョのくせして一丁前に自分の事を「オレ」とか言ってカッコつけて、褒められると態度がデカくなって、聞いてもない事を自慢してくる。


もう、年相応の健全なガキ大将じゃんか。


「素晴らしいですわ。

ぜひ、雷魔法を見せてくださいませんか?

私、一度も雷魔法を見たことがありませんの。」


「ああいいぞ。

ようし、じゃあここで見せてやろう。」


おだてたらおだてただけ調子にのる、思わずニヤニヤしそうだ。


とここで国王様からストップ。


ロナウド王子はまだ魔法の訓練中だから、するなら訓練場でしてくれと。


なので訓練場で見せてもらう事になった。


国王様とはここでお別れ。


去り際に「あんまり息子で遊ばんでやってくれ」と言われた。


国王様にはバレていた。




訓練場に着いて、改めて雷魔法を見せてもらう様お願いした。


何やら呪文を唱えながら集中している。


これは唱和式発動と言って、魔法の未熟な者や魔法初心者が言葉にしてよりイメージしやすくする方法で、魔法を教えてもらう時には、大体唱和式発動の方法から教えてもらう。


因みに、私の場合この唱和式発動と相性が悪かった。


だって、「天から与えられし力を源に、湧き上がる力を炎に云々うんぬんかんぬん」とか言われたって、炎のイメージ以前に魔力そのものがイメージ出来なかったからね。


言葉にせず、科学的にイメージしたらすぐ発動しちゃったもんだ、呪文なんて必要ない。


つまり私は、通常なら通る道である唱和式発動と、呪文を簡略化した簡略唱和式発動をすっ飛ばして、イメージだけで発動する無唱和式発動をいきなりやらかしている。


同期の子に比べて1ヶ月以上のタイムラグがあったけど、そんなの関係ねぇ位にぶっち切りで追い抜いた。


やっぱフランってチートだよ。


うだうだ考えてたら、唱和が終わってた。


大きく開いた両手の間を、バチバチッと雷撃が一瞬走った。


先程の様に、褒め言葉のさしすせそでベタ褒めすると、ロナウド王子はふん反り返った。




さあ、ここからが私の本当の仕事。


クロード王子の依頼「彼の鼻を折ってくれ」


ええ、やってやりましょう、バッキバキの粉々に砕いて見せますとも。


「素敵な物を見せてくださって、ありがとうございます。

お礼に私からプレゼントがございますわ。」


そう言って、ロナウド王子の前に錬金魔法で小さな金属の人形を作った。


ぜんまい仕掛けのブリキのロボットだ。


ロナウド王子に喩えて、鼻が少し高め。


背中にあるぜんまいをまわして、遊び方を教える。


幼稚園児くらいのロナウド王子なら、こういう自力で動くロボットとか絶対好きでしょ。


「しかたないな、もらってやるよ!」


怒りながらロボットを奪い取って、大事そうに抱きしめる。


よしよし、これで自然な形で「私の方が魔法の発動力も想像力も技術力も上でしょ?」とマウントを取ることが出来た。


ではもう一度。


「お気に召しませんでしたか?」と再度錬金魔法発動。


今度は、大人の掌サイズのオルゴール。


曲は勿論、鼻の長い人形が主人公のあの超有名な曲。


こっちの世界じゃ誰も知らないけど。


これも使い方を教えると、また奪い取って大事そうに抱き抱える。


ねえリッカ、なんで君はここでこっそりと催促をする?


そういうのは帰ってからにしなさい。


ほらー、ロナウド王子の御付きの者達も、物欲しそうな目でこっちを見ているじゃないか。



「す、少しくらいめずらしいまほうが使えるからって、えらそうぶるな!」


私の作った玩具を大事そうに両手に抱きかかえながら言われても、全然説得力がないよ。


「それに、おれはまほうが使えるだけじゃなくて、本がよめるんだ!

お前なんかより、スゴいんだぞ!」


「そうなんですか?

私も読書が大好きで、公爵領の書物や文献はほぼ読み尽くしてしまいましたの。

宜しければ、王都でお勧めの物を教えてくださいませんか?」


あ、御付きの者達は比喩だと思ってるんだろうな、子供を見るような目で「スゴイですねー」て言ってる。


「しかたないなー、おしえてあげよう。

『りゅうきしブルースカイのぼうけん』はとても良いはなしだぞ。」


「ええ、素敵なお話ですわ。

幼い頃から共に育った子竜のマークと一緒に、母竜を探す旅に出かける、というお話でしたわね。

最後に母竜と出会えたシーンは、とても感動的でしたわ。」


「なっ、じゃあ『ゆうしゃスレッチと100たいのオーガ』はどうだ⁉︎」


「ええ、存じ上げております。

囚われの姫君を百体のオーガから救い出す物語でしたわね。

スレッチ様の勇敢なお姿は、本当に格好良くて憧れてしまいます。

先程のお話と同様、とても子供向けの絵本とは思えませんんわ。」


「こっ、子どもだと⁉︎」と怒ってるけど、単純明快なストーリー、簡易的な文章、全体の半分近くある挿絵、何処をどう見ても子供向けの絵本だとしか言えない。


「私もお勧めの本がございますの。

『魔法陣における魔法伝導率の重要性』という本がございまして、《魔法陣の精密度、整合性による効果の比例》や《魔法陣の簡略化の限界》等、とても興味を惹かれましたわ。

『世界の魔獣 解剖図鑑』なんかは、魔獣の外見から身体の仕組み、内臓や魔石まで詳しく絵で描いてあるので、とても読みやすくて良いですわよ。

ああ、『貴族の成り立ち』は、王族でいらっしゃるロナウド王子ならすでにお読みでいらっしゃいますわよね、御意見をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか。」


涙目になりながらプルプルしているロナウド王子。


御付きの者達、「マジだったんだぁ…」て、今仕事中だよ、声に出てるよー。


ちょっとリッカ、大人気ないとか言うな、私はまだ子供だ。



「けっ…けんならどうだ⁉︎

オレはけんも使えるんだ!」


半泣きになりながらも、まだ突っかかってくるロナウド王子。


「まあ素敵!

私、一度も剣術をした事がありませんの。」


やりたいと言ったけど、お父様にめちゃくちゃ禁止されている。


やっぱり娘に剣術をさせるのは危険だから心配してくれたのかなぁとか思ってたら、「剣なんか持たせたら、何仕出かすか分からん」だって。失礼な。


あ、ロナウド王子段々悪い笑顔になってきた。


「よし、じゃあオレとけんで、しょうぶしろ。

ぜったいにオレがかってやる!」


御付きの者達が必死でロナウド王子を止めている。


「お怪我でもしたら…」とリッカも心配している、王子の。


「えっ、ロナウド王子は剣を持ったことのない私に勝負をしろと仰るのですか⁉︎

私、ロナウド王子は、女子供や老いた方など弱い物を守る騎士様かと思っていたのですが、か弱い少女に剣を向ける蛮族でいらっしゃったのですね⁉︎」


うわーーーーーーーん‼︎


遂にロナウド王子が泣き出した。


御付きの者達が、ロナウド王子を慰めながら「容赦ねぇなぁ…」とこっちを見てくる。


おいリッカ!


「か弱い?どっちが蛮族なんだか」とか聞き捨てならねえ事を言ってたな?


お前にはロボットもオルゴールもなしだ!


今更私に取り繕っても、もう手遅れだからな。



しかしまあ…ちとやり過ぎたかな?

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