第38.5話 公爵令嬢専属侍女は再び頭を整理する
お嬢様の中にテルユキさんが入って(前世の記憶が戻ったという方が正しいらしいけど)丸一年が経った。
元々、他の同年代の子に比べて、器用でかなり頭の良いお子様だとは思っていたけど、テルユキさんの知識と経験だけでこれ程まで多彩な事が出来るもんなんでしょうか?
住む世界や環境、ましてや年齢や性別まで全然違うのに、テルユキさんはお嬢様に馴染み過ぎてると思う。
お互いに似ている所が多いからかも知れないけど、お互いの頭脳と身体をここまで上手く使いこなせるって、2人はよほど相性がいいのでしょう。
ただ、そのせいでかお嬢様のする事は、予想の範疇を大幅に超えてくる事が割としょっちゅうある。
お2人とも一応常識は持ち合わせているようなので、ニホンの知識で世界征服をしようだとか言った出鱈目な事は考えていない様だけど、好奇心が強すぎて、大抵のことを何の相談もなく思いついた時に行動されるので、毎度ヒヤヒヤさせられる。
つい最近の話だと、お嬢様の自室にいつの間にかかまどが出来ていた事とか。
何でも、「ロナウド王子と仲良くなる為に必要な事」だったそうだけど、それにしても何でまた部屋に。
一度、真夜中に調理場へ向かわれているのを見かけて、「何をなさるおつもりですか?」と聞いた時は、慌てた様子で「何でもないの、気にしないで」とお部屋に戻っていかれた事があった。
その後も夜中に部屋から出ようとするところを何度か見かけ、都度注意していたら部屋から出なくなったから諦めたのかと安心していたのだけど、全然そんな事なかった。
むしろ、何でそうなるの⁉︎と思ってしまった。
匂いで気づいて部屋に向かった頃にはもう、部屋のかまどを使って何度かあんこを作っていたらしく、もうすぐ実験棟が出来るから今後は部屋のかまどは使わないと言っていた。
そういう問題じゃあないでしょう。
そもそも、6歳にして自分専用の実験棟があるって事自体普通じゃないとは思わないのかしら。
そういう事をするから、年相応に見られなくなっちゃうんでしょうが。
もう、自業自得としか言いようがない。
因みに、その時のあんこは2人で食べたけど、それまでのものは1人で食べていいたのでしょうか…
本人的には「ごく普通の6歳の少女、フランドール・フィアンマ」なんでしょうけど、正直難しい問題だわ。
確かに、大人に隠れてコソコソ何かしていたり、わからない事を「なんで?」と聞いてくる所とかは、子供っぽいと思う事もある。
でも、内容がちっとも子供っぽくない。
「魔獣の体内にある魔石が、種族別で大きさや色が違うのは分かるけど、同種族だと個体の強さや大きさ、住んでいる環境が違っても、年齢が同じなら魔石の大きさがほぼ同じになるのはどうして?」
そんな事聞かれたって、私には「そういうものだからです!」としか答えられない。
知識量が少なかった4歳頃までは、疑問になる程に世の中を知らなかったから、「なんで」「どうして」がまだ可愛らしかったのに、異世界の37年分の情報が入ってしまってから、質問の内容が途端に濃く、そしてちっとも可愛げがなくなった。
…改めて思うと、5歳でその情報量を理解しきってしまうお嬢様は、テルユキさん関係なく普通じゃないわ。
相性云々じゃなくって、お嬢様がそれだけの事をし得る才能の持ち主だったのよ。
だからきっと、テルユキさんの記憶がなくても、遅かれ早かれ今と近しい事を将来していたんじゃなかろうか。
お城でのカミングアウトを聞いた時、何だか申し訳ない気持でいっぱいになって泣いてしまったけど、本当のことを言うと、お嬢様とテルユキさんを別の人としてもう見れないのよね。
テルユキさんの事を知っているのは私だけなんだけど、2人の考え方と言うか言動にちっとも違和感がなくって、お嬢様は生まれた時から2人で1人だったんじゃないかと思ってしまう程に自然すぎる。
確かに、未知の調理法でお菓子を作ったり、魔法を使わず氷や雷を発生させたり、野草やさつまいもをより美味しく料理したりってのは、テルユキさんの知識があってこそなんでしょうけど、お屋敷中の大量の不用品を燃やさせたり、製鉄所や炭鉱で自ら体験しようとしたり、第三王子をコテンパンに言い負かせたのに友達になれたりなんかは、テルユキ様はあんまり関係ないんじゃないかな?
ここまで言うと、ものすごく頭の良い非常におてんばで困った子に思われるかもしれないけど、公の場では礼儀正しく常識を持って行動し、ちゃんと心優しいところもあるのがお嬢様。
常に何か実験やら研究やら忙しくしてるお嬢様が、たまにしているのが絵本作り。
それは、字の読み書きや簡単な計算のやり方を学べる絵本で、赤青のおそろいの帽子と服を着た2匹のネズミが出てくるものや、口がバッテンになっているウサギが主役のもの等、子供が楽しく文字や数字を学べるように工夫がしてあった。
出来上がった絵本は、教会や孤児院に持って行って、識字のない子供たちに読み方を教えてあげていた。
また、今年も成認式の会場へ向かい、ドレスを着ていない子を見つけてはドレスを着せて差し上げていた。
今年は関係者ではないので会場に入場させてはもらえなかったものの、数台の馬車を使って、持ってるドレスの中でもより派手な物をより多くの娘たちに着せてあげようと、開場時間前から開演時間ギリギリまで頑張っていた。
今年の流行は青とシンプルという、昨年のお嬢様のようなドレスが多くの方に着られていたのだけど、昨年のお嬢様の活躍を知っている子たちも多くいて、お嬢様のドレスを着られた娘達はとても誇らしげにしていた。
そんなお姿を見て、私は本当にお嬢様にお仕え出来て幸せだと思う。
そして今、目の前にいるお嬢様に、私はこう声を掛ける。
「お嬢様、そんな巨大な磁石を引きずって、何をなさるおつもりですか?」
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