第31.5話 公爵家次期当主は妹を想う
初めてフランがポテチを作った時、僕はとてつもない衝撃を覚えた。
誰もが知らない調理方法で、未知の食べ物を作ってしまった。
しかも、それがとても美味しかった。
まだ5歳になる前の小さな少女が、国を代表する程の食べ物を開発したのだ。
その後も、風魔法で氷を作った
先月は、新しいおやつを作ったとティータイムに誘われて、3種類のジュースを飲ませてくれた。
フランのこの発想力は、何処から湧いているんだろう。
食べ物の事だけじゃなくて、フランの考える事は面白い。
成認式で周りの人と全然違うドレスを着たいと言って自分でドレスを作っていた。
人と違うことをするってかなり勇気がいる事だと思うんだけど、フランはそこを逆手にとって、成認式でかなり目立つ事が出来たらしい。
目立った原因は着ていたドレスだけじゃなくて、成認式当日に自分の使っていたドレスを貧しい子たちに着せてあげると言う行動によるものも含まれてると思う。
今までそんな事を考える貴族なんて僕も含めて誰もいなかったから、フランは国王陛下からもかなり気に入られたようだ。
こういった周りに良い評価を与えるものもあれば、何でそんな事したのかと呆れてしまうようなことも何度もしている。
魔法の訓練だからと言って屋敷中のゴミ、しかも石やレンガなんて物までお母様と家庭教師の先生に燃やさせたり、別の家庭教師の先生を気絶させる程魔法で酷使させたかと思えば、次の日には自分が気絶しちゃったり。
「土と会話をしていた」と言って、庭から帰ってきた全身泥だらけのフランを見た時は、思わず声を上げて大笑いしてしまった。
フランはこの国で唯一、錬金魔法を使う事ができる。
ただ、魔法を使えるようになるまでにかなり時間が掛かった。
魔力が何か中々イメージ出来なかったらしいのだけど、僕は何のアドバイスもしてあげる事が出来なかった。
僕も、魔力が何かいまいちよく分からない。
でも、フランと違って、僕は魔法がすぐ使えてしまった。
魔法だけじゃなくて、大抵のことは何でもできてしまう。
勉強も、剣術も、人間関係も。
流石に初めて挑戦する時には経験者より劣っているけど、それも回数を重ねると段々追い付き、気付けば追い越している。
騎士団に仮入隊したばかりの時、模擬試合で初めて負けた時は泣くほど悔しかった。
でも、訓練を続けていくうちに、今では僕より強い人は騎士団長と総隊長しかいない。
その二人にも、今年の春頃には3回に1回勝てるようになってきていた。
嬉しいはずなのに、辛い。
目の前の人に追いつこうと努力していたはずなのに、気付くと前には誰もいない。
孤独な気がして、ずっと不安だった。
頑張れば頑張る程、僕は皆んなから離れていく、そんな気がしていた。
「貴方なら大丈夫。
今は辛くても、乗り越える事が必ず出来るから。」
お母様が僕に言ってくれたその言葉を信じて、不安に耐えながら、後ろを振り向かず、前だけ見て、孤独に耐えていた。
後ろを振り向くと、皆んなとの距離を感じてしまうから…
そんな僕の孤独を、フランは打ち破った。
僕は皆んなの歩く道の先頭を一人で走っていた。
ところがフランは、そんな僕より遥かずっと先、目で見る事ができない程遠くの場所を、ぶっちぎりのスピードでがむしゃらに進んでいる。
その姿は、走っていると言うような綺麗なものではなく、
僕の走る、用意された道なんかじゃなくて、誰も知らない道なき道。
そんな場所を、周りを気にせずただ一人だけで突進している。
それなのに、フランは怖がるどころか何処か楽しそうにしている。
途中で転けても、障害物があっても、その過程すら自分の力にしてしまう。
フランを見ていると、一人でも大丈夫な、いや、一人なんかじゃない気がしてきた。
天才だと言われてきた僕を、圧倒的な好奇心と努力で置いてけぼりにしてしまう。
公爵家次期当主だとか、魔力量が10レベルだとか、12歳で騎士団入隊だとか、今まで気にしていた肩書きがフランの前ではちっぽけで薄っぺらく感じてきた。
僕の悩みなんて、くだらないものだと感じてしまうようになっていった。
僕の妹は、凄い。
頭が良くて、才能があって、発想力豊かで、慈愛に満ちて、それでいて面白い。
たまに、フランが大人なんじゃないかと感じることもあるけど、それでもフランはまだ5歳。
勝手な事をしてお父様やお母様、リッカに叱られている所も割とよく見る。
でも僕は、そんなフランが大好きだ。
フランが妹で、本当に良かった。
さて、そんなフランなんだけど、僕はここのところ少し心配している事がある。
明日は僕の15歳の誕生日で盛大なパーティをするのだけど、そのパーティに僕の婚約者が来る。
そして、フランと僕の婚約者はあまり仲がよろしくないみたいだ。
今後も付き合いが長くなる二人なのに、いつまでも仲が悪くいて欲しくない。
どうしいたらいいのか、最近悩んでいるのだ。
どうにか僕が仲を取り持ってあげたいんだけど…うーん…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます