第32話 公爵令嬢は兄の誕生日を祝う 1
今日はお兄様の誕生日パーティがある。
以前、フリフリドレスが着たくないからと大量にばら撒いて処分したのだけど、あの後お祖父様達が
「恵まれない子達にドレスを差し上げるだなんて、とても素晴らしい事をしたんだね。
でもそのせいで、自分のドレスがすっかりなくなってしまったじゃないか。」
と、更に大量のドレスをくれてしまった。
それはもう、衣装部屋に入り切らないんじゃないかと言う程に。
普段なら、そんな大量のドレスなんて要らないと断ってくれるお母様も、すっからかんになった衣装部屋に対して「新しいドレスが沢山戴けるわよ、良かったわね」とか言い出す始末。
「5歳になったから」と言う言い訳も勿論使う事が出来ず、ドレスの山をありがたくもなく頂戴してしまった。
計画大失敗である。
お祖父様達、何してくれてんだよ。
と言う訳で、本日の衣装はフリフリドレスでございます。
お祖父様達も勿論来る今日のパーティに、戴いたドレスを着ないわけにもいかない。
もうね、毎週パーティしても来年まで持つんじゃないかって量なので、諦めざるを得ない。
さて、お兄様は今日で15歳になったんだけど、それは魔力保持者がエレメント魔法学校に入学する節目の年齢。
私の5歳の誕生日と同様、盛大なパーティになる。
今回も、私の作った料理が振る舞われる。
前回出したポテチは勿論、フライドポテト他揚げ物類、ハンバーガー(但し一口大)、アイスクリーム、炭酸飲料。
これらはブリキッド商会を代表する人気商品であり、誰でも真似が出来るハンバーガー以外は他では取り扱っていない専売商品。
相変わらずお祖父様はまだかまだかとレシピを待ちわびている。
そんな人気商品を次々と発明しただけでも目立つのに、私は50年に1人と言われる火土属性魔力保持者。
いつの間にか、家族の誰よりも有名になっていた。
超不本意だ。
確かに、私の誕生日の時は自分の華の無さに凹んでいたけど、ここまでビッグネームになってしまうと物凄く活動がしにくくなる。
「たった5歳の子供が、こんなに沢山の美味しい料理を発明なんて出来るわけがない」とか、「錬金魔法を使って金儲けをしている」とか、何とも否定し難い陰口を言われているらしい。
この事を知ったフィアンマ家は、陰口の出所となったと思われる貴族を徹底的に敵視して、目を付けられた貴族は現在社交界でかなり肩身の狭い思いをしている。
私が外出する際は「悪い奴に拐われないように」と「町中で私が変な事をしないように」と二つの意味でいつも大量の護衛を付けさせられていて、街中にいると非常に目立ってしまう。
と言ったように、家族は私に対してかなり斜め上へ過保護になっている。
他にも、最近ちょくちょく国王様からのお呼び出しがある。
内容は主に、錬金魔法と発明した食べ物の事について。
何が大変かと言うと、国王様ってばお父様がいると私が自由に発言できないからって毎回2人きりにするんだよ。
いくら国王様が「遠慮なく好きに話をしてくれ」と言ってくださっても、相手は国王様だよ、発言には気を使うに決まってんじゃねーかよ。
そんな事より困っているのが、以前魔法の練習と言って一人で訓練していた時に我が家自慢の庭を岩だらけにした事があって、「そんなに魔法の訓練がしたいのならこれをずっと作っていなさい」と重曹とクエン酸を魔力量限界ギリギリまで毎日作る羽目になった事。
そのせいでと言うか、おかげでと言か、魔法の腕はメキメキと上達して、夏の頃の5倍もの量の重曹とクエン酸が作れるようになった。
そしてお父様はウハウハしている。
いい加減他の物も魔法で作りたい。
と、他人から見れば喉から手がでる程羨ましがりそうな、そうでもないような苦労話を自慢したい訳じゃなくて、今日の主役はお兄様。
そんなお兄様、なんだか少し気分が晴れやかでなさそうに見える。
前回の私同様、主役の自分より目立つ人が家族にいるのが気になってるのかな。
決して自惚れてる訳じゃないんだよ?
それとも、婚約者である隣国の第二王女、マリア・クインシー様がいらっしゃるからなのかな。
どうして私がそう思ったかと言うと、マリア王女、滅茶苦茶自意識過剰で言い方に一々棘があるんだよ。
1回しか会った事ないんだけど、まだ4歳だった頃に隣国に訪問した際、マリア王女はお兄様に一目惚れして、更にお兄様が頭が良くて剣や魔法にも秀でていると聞いた時、「これ程に見た目も地位も才能も優れたお方、私以外の女性には釣り合いませんわ」と自信満々に言い放っていた。
それ以来、私が苦手としている人物なのだ。
立場的な問題もあって断り難かったのは仕方ないにしても、お兄様はよくあんな人との婚約に納得したなあとつくづく思ったよ。
まあ、お兄様は人間関係に困った所を誰も見た事がない位愛想が良くて人付き合いが上手いし、マリア王女もお兄様にベタ惚れなだけあってお兄様
かく言う私はお兄様と違って、苦手意識を持った相手にまでおべっか使える自信はない。
更に言えば、俺はクラスで2人組になる時は大抵残りの一人になっていた程なので、その辺は私より酷い。
ドレスもフリフリだし、今から憂鬱だ。
しかし時間は待ってくれない。
出来るだけ憂鬱気分を顔に出さないようにしながら、いざパーティ会場へ。
私の時も偉い人が沢山来てたんだけど、お兄様の場合その規模が違う。
実際に、私の時には来ていなかった騎士団の同期の方々や、エレメント魔法学校で同級生になるであろう若い人たちも多く来ていた。
流石人付き合いが上手いだけあって、お兄様は友達が多い。
わ、私にだっていない事でもないけど、まだ社交界デビューする年齢じゃないからねっ…ぐすん。
今言ったように、お兄様の招待客には同年代や比較的若いお客様が結構いるんだよ。
だからほら、お兄様は大勢の若い未婚の女性にあっという間に囲まれた。
中には、20代の女性もちらほら混じってる。
中年男性を連れた人もいるから、親を使って縁談的な話に持っていこうとしてるんじゃないかって人もいる。
この国では、血統を継がせるためと、当主の器の大きさを知らしめるために、一夫多妻が割と多い。
お父様も昔そうだったしね。未だに理由を教えてくれないけど。
だから、お兄様程の人なら婚約者が一人居たところで、全然問題なく結婚や交際の申し込みが殺到している。
ただ、それをあの人が認めるかどうかは別として。
噂をすれば来たよ、凄い気配を出しながらマリア王女はお兄様に近づいている。
お兄様の周りを囲んでいた人達が、モーゼの海の如く割れた。
障害物のなくなったお兄様の元へ行き、マリア王女は猫撫で声で話しかけて完全に二人の世界を作ろうとしている。
…私も挨拶に行かないといけないんだけど、どこをどう見ても声を掛けられる自信が微塵もない。
それでも行かなきゃならない、どうにか頃合いを見つけて挨拶せねば。
その前に、私の周りにいる人達をどうにかしないと。
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