第29話 公爵令嬢は錬金魔法を覚える

翌日、水土属性魔法の魔力保持者、ダニエル・グリンフォン先生がいらっしゃった。


本来なら火土属性の魔力保持者に教えてもらうべきなんだけど、私以外に誰もいないから仕方ない。


二属性魔力保持者の中でも特に実力のあるダニエル先生が、私の二属性複合魔法の家庭教師として白羽の矢が立ったらしい。


元々ちょっと心配性な所もあって、いつまでも魔力を感じられない私を心配してくれてたんだけど、昨日の件を誰かから聞いたからか、いつも以上に何かに怯えている。


何をそんなに恐れているのか分からないけど、錬金魔法はおれのジャンクフード生活に絶対必要だから、必ず習得してみせるんだ!




「二属性複合魔法は、単体魔法以上に想像力が必要になります。

それも、複合魔法の事だけイメージするのではなく、各属性両方がどう関わり合って複合魔法として発動されるか、という事をイメージしないといけません。

つまり、同時に三種類の魔法をイメージしないといけないのです、」


ダニエル先生はそう言った。


「私の場合、種を植えた土に水を撒くと、植物の芽が出て大きく育つ、といった感じでしょうか。」


成る程、じゃあ私の場合、鉱石に熱を加えて精錬する、って感じかな?


昨日火と土でたらふく遊んだから、イメージは出来るはず。


よし、やってみよう。



そうして出てきたのは、火で炙られている小さな小石の山。


違う、そうじゃない。


「なんと素晴らしい‼︎

初めての複合魔法の練習で、同時に二種類の魔法を発動させる事が出来るだなんて‼︎」


「え、そうなんですか?

これは失敗じゃないんですか?」


ハイテンションのダニエル先生に、思わず聞き返した。


「失敗と言えば失敗になりますが、二種類の魔法を同時に発動させるには、その二種類の属性両方がしっかりイメージ出来ていないと出来ません。

一般的に、魔法が発動できる様になってから、同時に二種類の属性魔法を発生させるのに約10日間、複合魔法を発生できるようになるまで約1ヶ月は掛かると言われています。」


そうなんだ、イメージって魔法を使うのに本当に大事なんだなぁ。


てか、50日も錬金魔法使えないのか、困ったなあ。


もうすぐ夏になるから、一刻も速く使えるようになっときたいんだけど。


「フランドール様なら、きっと2週間以内で習得できるでしょう。

なので、自信を持ってください!」


ダニエル先生は嬉しそうに言った。


うーん、それでも2週間かぁ、厳しいなー。



練金魔法って書庫にも資料が全然なかったから、コツがよく分からないんだよなー。


そもそも、錬金魔法が使える人の絶対数が少な過ぎるし、希少魔法の独占とか考える奴らとかに資料を占領されてしまったのかもしれない。


うーん、仕方ない。


イメトレはダニエル先生の魔法を参考に、どんな事が出来るのか見せてもらおうかな。


「ダニエル先生、植物魔法でどんな事が出来るのか、見せていただけますか?」


ダニエル先生固まった。


「先日のビビアン先生の様に、魔力を使い果たすほどはお願い致しません。

言葉で伝えられる事はそうしてくださって構いませんので、お願い致します。」


そう伝えると、ダニエル先生は少しホッとした様子で了解してくれた。



ダニエル先生の植物魔法は、水属性の生産力と土属性の認知力を必要としているらしく、名前は知らなくても見たことのある植物なら、生やしたり、成長を促進させたり、枯らしたりする事が出来るらしい。


ただ、成長させるにはその植物の成長過程を知っていないとダメらしくて、例えば古代に生えていた絶滅種の種が手もとにあったとしても、その植物の育ち方が分からなければそれを成長させる事は出来ないんだって。



て事は、私がさっき失敗したのは、精錬過程や精錬後のイメージがしっかりと出来てなかったからなのかな?


じゃあ、明確に鉄を作るイメージをしていこう。




炉に、鉄鉱石、コークス、石灰石を入れて、下から温風を吹き込んだら、鉄鉱石が還元されて、溶けた鉄が出てくるわけなんだけど…


熱風って、風魔法必要じゃね?


とりあえず、熱風のところも含めて、全体をしっかりイメージしてみよう。


いざ!



ドロドロ、ジュワワー。


ヤバい!超大変!


溶けたままの状態で鉄が出てきちゃった!


あ!待ってダニエル先生、水掛けないで!


土で囲って流れ出さない様にして!


ダニエル先生が植物を成長させた様に、私も鉄の状態を変化させてみる。


出来るかどうかは、やってみないと分からない、焦らずめっちゃ急いで、しっかり冷えて固まった鉄になる様にイメージして…



お、お、おぉー!


出来たー!


超焦ったー‼︎


でもって、めちゃくちゃ疲れたー…


身体が…重い…重すぎる…


「せ、先生…どうでしたか…出来ました…よね?」


「な…なんと…

まさか初日で複合魔法を発動させるだなんて…

しかも、溶けた鉄を固める事まで出来るとは…

間違いなく、フランドール様は天才です!

国の誉れ、国の宝です‼︎」


うわぁ、ダニエル先生めちゃくちゃ興奮してる。


今日1日の挙動に、全く落ち着きがない。


「そうですか?ありがとうごz…」




目が覚めると、見慣れた広くて高い天井があった。


どうやら、私はあの後魔力の使い過ぎで倒れてしまっていたらしい。


既に日暮れ前、半日近くも眠っていたみたいだ。


「お嬢様!お気付きになりましたか!

ご気分は如何ですか?」


「…ええ、大丈夫よ。

とても疲れていたけど、今はもうずいぶん楽になったわ。」


ダニエル先生はあの後、私が倒れてしまった事に物凄く責任を感じて、今もまだ客間で心配してくださっているらしい。


とりあえずダニエル先生に謝らないと、と思いベッドから降りて向かおうと思っていたら、ダニエル先生を呼んできてくれた。



「ダニエル先生、この度はお見苦しい姿をお見せして、大変失礼致しました。」


「とんでもない、私の方こそ、魔力量の事を考慮せず、いきなり高度な二属性同時発動や複合魔法をさせてしまい、本当に申し訳ありません。」


「今の時間までずっと心配してくださったんですね、ありがとうございます。」


ダニエル先生とは、次回の訓練では製鉄所で実際に鉄が精錬されているところを見に行こうと約束して、お帰り頂いた。




「…お嬢様、ここのところちょっと度が過ぎますよ。

眠れない程悩んでいたかと思えば、謹慎中の3日間は朝から夜遅くまでずーーっと本を読みあさって、いざ魔法の訓練になれば、先生方は疎か奥様にまで過労させ、挙げ句の果てにはご自身まで倒れてしまう始末。

私はもう、心配になり過ぎて、心臓がいくつあっても足りません!」


…返す言葉もございません。


ただ、どれもわざとじゃないんだ、至って不本意なんだよ?


「第一、テルユキさんは何故お嬢様を止められないのですか?

お嬢様はまだ5歳なんですよ、加減を見て差し上げてくださいいよ!」


「あ、テルユキは私より酷いから、言っても無駄よ。

死んだ(と思われる)原因も、研究に熱中し過ぎて食事もろくに取ってなかったんだから。」


「な…」と言ってリッカは激しく呆れていた。


「だから、私が暴走しそうになったら、リッカが止めてね。」


「…では、常にご一緒に同行させていただきますね。」


「もちろんじゃない。

私が一人の時は、食事や休憩も一緒に取ってもらうわ。」


「そういう事を言っているのではなくてですね…」


「じゃあリッカが私を付きっきりで見張るために、食事も休憩も取らないつもり?

私はやりたい事が多すぎて、全然時間が足りないの。

リッカが休んでいる間に、一人で色々やっちゃうわよ?」


「…このやろう。」


「では、今からお父様とお母様に許可を頂きに参りましょう。

お父様達だって、ここ数日の様な事を毎日されたら、きっと

困ると思うもの。」


私もストッパー外しっぱなしにして叱られまくるのは嫌だ。


「…畏まりました。

そうまで仰るなら、旦那様と奥様お二人の許可を頂き、お嬢様と私の二人きりの時のみ、ご一緒にお休みさせて頂きます。」


二人の元へ向かおうとしたところ、「お二人ともまだお戻りではありません、後ほど私の方から許可を頂いておきます」

と止められた。



夕食はベッドの上でと言われ、ベッドの上で過ごすなんて、する事が何もないと文句を言ったら、


「当たり前です。

気を失って倒れるほど疲れたというのに、これ以上何をするつもりですか?

いい加減大人しく、ベッドの上で何もせず休んで下さい。」


と早速暴走しそうな私を止めてくれた。


ただ、しっかり休んで元気になったのに、ベッドの上でじっとしてないといけないのは逆にしんどいので、リッカに話し相手になってもらった。


リッカの過去、俺の過ごしていた世界のこと、私がやりたい事と次の目標…


気付けばすぐ夕食の時間になっていた。


昼間たくさん寝たから、今日の夜は眠れないだろうと思っていたけど、流石5歳、食後にちゃんと眠くなった。

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