第22話 公爵令嬢は魔法が使えない
成認式からしばらく経ち、新しく魔法の家庭教師が雇われた。
本来なら、私と同じ火土属性の魔力持ちが来るのだけど、いかんせん50年に一人の確率という稀な存在の為、今現在私以外に火土属性持ちは国内に存在しないらしい。
代わりに、火属性のメイビス・ネヴァンというアラサー女性、土属性持ちのビビアン・スコッティという中年女性、水土属性のダニエル・グリンフォンという初老男性の3人が、私の魔法の先生になった。
普通なら、一つの属性の訓練だけで良いところ、私の場合、火属性魔法、土属性魔法、火土属性複合魔法の3種類が使えないといけない為、人の3倍訓練しないといけない。
3人とも、まずは座学で魔法の原理と発生方法をお教えてくれた。
曰く、「体内にある魔力を魔法として具現化する」のらしいんだけど、「体内にある魔力」というのがそもそ分からない。
前世で言うところのチャクラ的なものなんだろうか。
それこそ、完全主義だった俺からすると、胡散臭い作り話のようなものだと思っていて全然信じていなかった為、全くイメージが出来ない。
ここに来て、また俺の知識が邪魔をしている。
魔力のイメージも人によって違うらしく、メイビス先生は「血液のように全身を巡っているもの」、ビビアン先生は「胸の奥からジワジワと湧き上がるもの」、ダニエル先生は「力を込めると手のひらから発生するもの」とバラバラ。
因みに、風属性のケーラ先生は「自分の周りに漂っているもの」、お父様は「全身から吹き出しているもの」、お母様は「体の中心にあるドロリとしたもの」、お兄様に至っては「なんとなく感じるもの」。
流石お兄様、「炎よ出ろ」と思ったら出たらしい。
何の参考にもならない。
この魔力のイメージというのが、魔法を使うに至って最大の鬼門らしく、お兄様のように1秒で出来る人(お兄様は本当にイメージ出来てるのかは怪しいけど)もいれば、イメージを得るまでに1年以上掛かってしまう人もいるらしい。
そして私は後者に当てはまり、1日の殆どを魔力のイメージに当てているにもかかわらず、一向に魔力をイメージ出来ずにいた。
人生で初めての挫折。
それも、俺の人生も含めて初めての。
何時ぞや眠れないほど考えていた「私の今後の人生」すら頭に入ってこない程、私は落ち込んでいた。
1ヶ月以上経ち、未だにイメージができず焦っている私に、「いい加減休んだらどうなんだ」とお父様から無理矢理3日間の魔法訓練の謹慎を言い渡された。
毎日休みなく、休憩時間も惜しんで訓練している私の相手をしていた先生方が、そろそろ疲れてきたらしい。
先生方には申し訳ないことをしてしまった。
周りを見ずに突っ走ってしまうのは、俺の時から私の悪い癖だ。
3日間は魔法の勉強もするなと言われてしまった。
そうすると、何をしたらいいいのか分からなくなってしまった。
今までなら、他に調べたい事や知りたい事が幾らでもあった。
でも今は、魔法以外の事が全く頭に入らない。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
そうリッカに聞かれても、何と答えればいいのか分からない。
「…どう大丈夫でないのかも、わからなくなってきたわ…」
「…お嬢様が弱音を言うなんて、初めて聞きました。
そんなに、魔力のイメージって難しいものなんですか?」
「…私にとって、魔力がどういうものか分からないから、イメージ出来ないの。
『分からない』を調べるのは、楽しくて大好きよ。
でも、その求めている答えが人それぞれ違うの。
他の人の正解が私の正解でない、どう答えを求めたらいいのか分からなくて…」
そう言うと、リッカは黙ってしまった。
前世で新しい物を作る時、ある程度完成のイメージが出来ていたから、多少時間が掛かっても完成させる事が出来ていた。
だから、イメージする事が出来ない魔力を実体化する事が出来ない。
1を10にする事はできても、0から1を生み出せない。
初めて知った、俺の欠点。
あ、いや、欠点はもっとあったんだけど、ここまで立ち直れない程支障をきたす出来事を体験したのはこれが初めて。
沈黙と重い空気で辺りがいっぱいになった。
「あ、あの、気分転換にお料理をしてみたら如何ですか?
ポテチ以外にも、ニホンには美味しい食べ物が沢山あったんですよね?
是非、私も食べてみたいです。」
空気を変えようとしたのか、リッカが
そう言えば、私になってからまだポテチしか食べてなかったなぁ。
忙しすぎて、と言うか余裕がなくて、大好きなジャンクフードの事すら忘れてた。
「あ!その、お嬢様にご馳走を作らせるとか、そう言う意味ではなくてっ」
焦るリッカの顔を見て、思わず笑ってしまった。
「分かってるわ、大丈夫。
私も今、食べたいと思うものがあるの。
お母様に料理をする事を伝えなきゃね。」
「…お嬢様の笑顔、やっと見る事が出来ました。
何が出来るか楽しみです。」
そう言ってリッカはホッとした様に笑った。
「心配かけてごめんなさい。
やっぱり元気になるには、美味しい食べ物よね。」
そう言って私は、お母様のもとへ行った。
「お母様、私、料理がしたいです。
調理場に行って宜しいですか?」
私がそう言うと、お母様は少し考えて
「約束通り相談に来てくれたのね。
良いわ、料理をしてごらんなさい。
そのかわり、母も一緒に調理場へ行くので、フランの料理を作るところを見せて頂戴。」
と言ってきた。
お母様が私の調理現場を見たいと言う発言に驚きつつも、お母様なりに心配してくれてるんだろうなと嬉しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます