第21話 公爵令嬢は自分について考える 2

「おはようございます、お嬢様。

昨夜はお休みになれましたか?」


朝、いつもの時間にリッカが起こしに来た。


「…おはよう、リッカ…」


体が怠くて頭がボーッとする。


私になって、初めて寝不足になった。


「お身体がすぐれないようですね。」


「…ええ、あれから横になってたんだけど、やっぱり眠れなくて…」


シャキッとしない頭の中で、昨日の考えが未だに頭の中を渦巻く。


「お食事はお部屋にお持ち致しますので、もう暫くお休みになっていて下さい。」


その言葉に甘えて、再び横になって目を瞑った。




朝食を持ってきてもらったものの、あまり食欲も湧かず、殆ど手を付けずに残してしまった。


もう一度ベッドに横になってみたけど、眠気はとうに無くなってしまっていた。


仕方なくベッドから起き上がり、着替えてお母様に挨拶に行く。


お父様とお兄様はもう出かけられたようだ。


お母様に挨拶をする。


「顔色が優れないわね。

夜遅くまで起きていたとリッカから聞いたのだけど、その様子だとろくに寝られていないようね。」


「…はい、昨日の成認式で色々あり過ぎて、中々眠る事が出来ませんでした。」


「色々…ね。

そう言えば、成認式の感想を聞いていなかったわね。

昨日1日を通じて、貴女は何を感じたの?」


「…本当に多くのことを感じました。

この国にとって魔法が、そして国民が如何に大切か。

その意思とは裏腹に、成認式のドレスはおろか、明日のご飯を調達するのにも苦労している人達が多くいる事。

貴族と平民、お互いをどう見ているか。

見たこともない魔導具の数々。

…そして、私を含めた魔力保持者の方々。

今口にした以上の、本当に言葉に出来ない程多くの事を感じました。

あまりにも多くて、頭が整理しきれません。」


グチャクチャな俺の頭の中から、私は言葉を選びながら発する。


「一度に全てを理解する必要はないわ。

貴女はとても賢いから、少しずつでも理解する事が出来るわ。」


「ありがとうございます、お母様。」


「今日は一日ゆっくり過ごしなさい。

貴女はこのところ、少し頑張りすぎよ。

たまには一息着いたらどう?」


「…はい、今日はお部屋で休ませて頂きます。」




部屋へ戻ると、心配そうにリッカが声を掛けてきた。


「お嬢様、大丈夫ですか?

昨日からずっと、何か考え込まれているようですが…」


「ええ、大丈夫よ。

本当に疲れただけだと思うから。

心配掛けてごめんなさい。」


リッカには言えない。というか、どう伝えていいかわからない。


「いえ、そんな。

あの、テルユキさんとの事と何か関係ありますか?」


俺の事…


「…関係あるかないかと言われたら、多分ないわ。

今は私の人生だから。」


そう、関係ない。


フランの人生だから、俺は関係ない。


でも、私の中で確かにテルユキは生きている。


そして俺は、フランに不幸になって欲しくない。




「…あの、変な事を言っているように思うかもしれませんが、お嬢様が土属性なのはテルユキさんの影響があるのではないでしょうか。」


…俺の影響?


「本来、フィアンマ家の家系からして、火属性以外が生まれる事はほぼないと思われますよね。」


そう、家系図を初代から遡っても、フィアンマ家は代々火属性のみ。


正妻、側室、養子の家系も調べ尽くした限り全員火属性だった。


属性を統一する事で、魔力量がより強くなっていき、先先代からお父様まで8レベル、お兄様が最大の10レベルまで強くなっている。


かく言う私は魔力量4レベル。


フィアンマ家で魔力量が6レベルを下回ったのは私が初めて。


それ以上に謎なのが火土属性。


通常、両親が別々の属性の場合、母親の属性が引き継がれやすく、ごく稀に両親の属性を合わせた二属性持ちが生まれる。


但し、親の持っていない属性を持って生まれる事は、三代前までの先祖が持っていた属性以外が生まれる事は、ほぼ有り得ない。


それこそ、魔力非保持者の両親から魔力保持者の子供が生まれる確率程に。


なので、通常なら強いはずの魔力量は少なく、通常なら持っているはずのない土属性を持っている私は、異常なのだ。



「これって、テルユキさんが土属性を持っていたとして、そのままお嬢様と一緒になったと考えると、火土属性になり得る可能性はないでしょうか。」


…思っても見なかった。


私だけでなく俺にも魔力があったって事?


でも、テルユキはただの前世の記憶。


たかが記憶が、しかも魔法なんてなかった世界にいた俺が魔力を持って私に影響を与えているだなんて考えられるのか?


「リッカはどうしてそう思ったの?」


「テルユキさんは以前仰いました、「人は人生を全うしたら魂を浄化して新しい肉体が与えられる。稀に前世の記憶を持ったまま生まれ変わる」と。

なので、テルユキさんは前世の記憶と一緒に土属性の魔力を持ってお嬢様に生まれ変わったのではないのかと思ったのです。」


「…でも、テルユキの世界には魔法はなかったのよ?」


「魔法のない世界で、実は魔法を発揮できないほどごく僅かに魔力を持っていたとすると、お嬢様の魔力量が少ないことも説明できるんです。

お二人の魔力が合わさって二属性になったけど、一人の身体に二人の魔力持ちがいる事で、一人分として半分の量になったと考えると辻褄があいませんか?」


…びっくりした。


まさか、リッカが一晩でここまで考えていたなんて。


でも、物凄くしっくり来る。


「…面白い事考えていたのね。

いつからそう思っていたの?」


「昨日、成認式の発表を聞いた時からです。」


えっ⁉︎ 一晩どころか、一瞬でこんだけの事を思い付いていたのか⁉︎


気使いもできるし、物分かりも良いし、出来るメイドだとは思ってたけど、ここまで閃きが良いとは思わなかった


「…凄いわね、リッカ。

私なんて思ってもみなかったわ。」


俺も思ってもみなかった、俺が魔力持ちだなんて。


「勿体無いお言葉です。」


でもこれって、俺のせいで魔力量が減ったって事なんだよな?


しかも火土属性だなんて、きっと傷つく言葉をかけられたり、悪い奴らに利用されたり、大変な思いをするんだろう。


申し訳ない事をしたなぁ…




「あの、テルユキさん、お嬢様が稀属性だった事で、お嬢様が今後普通の魔力持ちより過酷な試練がある事は、予想し得る事よね。

でも、テルユキさんの土属性は、お嬢様と共に望んでいた「便利なものでいっぱいの世界にしたい」と言う願いに必要だとは思わない?

お二人のその素晴らしい力で、この世界を「便利なものと美味しい物でいっぱい」にして欲しいの。

だから、元気をだして。」


リッカの言葉に思わず目を見開く。


「…どうして私ではなくテルユキに?」


「元気がなさそうなのは、お嬢様よりテルユキさんじゃないかと感じたからです。」


…本当によくできたメイドだ。


「ありがとう、リッカ。

おかげで元気が出たよ。

これからもフランを守ってやってくれ。」


「!も、もちろんよ!」


はは、びっくりしてやがる。


もう俺は出てこないと言ったけど、ちゃんとお礼は言っとかないとな。


それに、本当に心の中のモヤがずっと晴れて、元気が出てきた。


「それにしても良くわかったわね、リッカ。

私でなくテルユキが悩んでいたなんて。」


「もちろんです。

私はお嬢様の専属侍女ですから。」

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