第20話 公爵令嬢は自分について考える 1

俺は今、大きな壁にぶち当たっている。


えも言われぬ「わからない」で頭がいっぱいになっている。


今まで、どんな難しい問題も解決していた


挑戦した事は何でも出来ていた。


別に、なんでもできていた訳ではない。


ただ、必要ないから知らないままでも出来ないままでも良かった。


でも今、何故か知らないままでいいと思えない。


漠然とした不安があって、どうにか解決しないとと思っている。





とにかく、その漠然とした不安を確認していこう。


何が気になっているのか。


それは、今の自分の置かれている立場や立ち位置の事。


リリーという光属性の子と会ってから。


その時から、まるでこの世界が作られた世界な気がして…。


…じゃあもういっそ、そう割り切って私のなりうる可能性を考えてみよう。




まず、この世界に転生したの場合。


ヒロインだの、ライバルだの、攻略対象だの、そういったものが何もない状態。


これが俺の理想。


今後、何の気兼ねもなく(とは言い切れないけど)どんどんジャンクフードを作って、この世界を色々研究していけばいいだけ。


何もないに越した事はない。




次に、何かしらの攻略的なゲームの世界の場合。


俺、全然ゲームしてなかったから、知識はペラッペラ。


だから、ラノベとかの情報を頼りにかなり想像になるけど。



まずは乙女ゲーム。


私がヒロインか、ライバルか、はたまたモブかで全然状況が変わってくる…と思う。


ヒロインだった場合、ハッピーエンドなら大体誰が相手でも幸せになれて、バッドエンドなら婚約破棄やら何やら不幸になる、とかでいいのかな?


他にも色んな種類の終わり方があるのかもしれないけど、ストーリーでのハッピーエンドが自分の幸せとは限らないから、誰が攻略対象で自分のやりたい事が今後出来そうか見極めないと。


そもそも、俺が男を恋愛対象として見れるのかがまず疑問。



ライバルだった場合、ヒロインが私に対してどういった目線で見てくるかで違ってくると思う。


ヒロインは、あのリリーって子で多分間違いない。


正当なライバル(って言い方でいいのかな?)なら、婚約者を奪われるか、そのままゴールインか?


他の終わり方があるのかは不明。


問題は、悪役令嬢と呼ばれる立ち位置の場合。


ラノベによくある話だと、ハッピーエンドで良くても婚約破棄、悪くなっていくと、身分剥奪、国外追放、牢閉、死刑…


バッドエンドで結婚成立、婚約者と国外逃亡、婚約者を殺す、ヒロインを殺す、誰かに殺される…


悪役令嬢リスク高すぎだろ‼︎


破滅フラグ多すぎ‼︎


これ絶対なりたくないヤツだわ。


もしライバル的存在だったとしても、常に真面目で常識を持って行動して、人に優しくしていよう。



モブの可能性は…


50年に一人の錬金魔法が使えるやつが、モブとかあり得るのだろうか。


いや、ありえない。次。



今度はギャルゲーの場合。


これはつまり、私が攻略対象だった場合って事でしょ。


この場合、私は何やらトラブルや問題を抱えていて、それを解決した主人公といい感じになって、結果結ばれるって感じ?


…おや、もしやこれは中々理想的ではないか?


私の問題って、多分だけど前世おれの記憶があるって事で、ハッピーエンドならそこを解決、つまりジャンクフードが食べられるようになってめでたしめでたしって事じゃ…


いや待て、そう上手くいくとは限らないぞ。


下手したら、俺いなくなっちゃうかもしれない。


えぇー⁉︎ 今更ー⁉︎


やっとこの世界に慣れてきたって所で、テルユキを忘れるって、私絶対イヤだー‼︎


バッドエンドならどうなんだろう?


私が主人公を振ってお終い、心に傷を負って引き篭る、主人公を殺す、私が死ぬ…


これもリスク高いわぁ…



エロゲーだったら、この流れの中にラッキースケベとかエロ要素が入って来るのかな?




はぁぁ、情報が曖昧すぎる。


前世でゲームは時間の無駄だってしてこなかったのが、今世でこんなツケになるとは思わなかったよ。


そもそも、来世フラン前世の記憶があるって事も、来世がまさか異世界だとも思ってなかったから。


とにかく、今すぐ出来る対策はない。


不確定要素が多すぎる。


今思いついた事以外の可能性も大いにありえる。


「将来のことなんて誰にもわからない」のは当たり前なのに、無性に気になってしまっていた。




そう言えば、私は何で火土属性なんだろう。




今日は凄く疲れたはずなのに、ちっとも眠れない。


現に、部屋の明かりを消してベッドに横になっていたのに、特に何をするでもなく私は机に向かっている。


いてもたっても居られず、何かしなければと思っていても何もできない。


今までこんな事なかった。


前世で、「テストでわからない問題があると、その問題しか頭に入らず次へ進めない」人を見て「そんなの飛ばして次に行けばいいのに」と思っていたけど、今ならその気持ちが分かる気がする。





「失礼いたします、お嬢様、まだ起きていらっしゃったのですか?」


私の様子を見にきたリッカが、静かに扉を開いてそう言った。


「ええ、何だか眠れなくて。

今日の成認式で色々ありすぎて、まだ少し興奮してるみたい。」


そう言って誤魔化す。


「もうすぐ6時ですよ、旦那様もとうに戻られてお休みになられましたよ。」


時刻は地球時間で24時前。


考え事をしていると、いつも時間が経つのを忘れてしまう。


「あまり無理をなさると、お身体に響きます。

眠れずとも、横になってお休みください。」


「…そうよね、心配させてごめんね、リッカ。

もう寝るから大丈夫、おやすみなさい。」


ベッドに入った私を確認して、リッカは扉を閉めた。


布団を被ってもまだ私の頭は思考が止まらず、眠れそうな気がしない。


寝返りをうって、窓の外を見る。


日本にいた時には見た事がないほど綺麗な星空。


星の配置は全然違って、星座もないこの世界。


この世界で、私はどうなるんだろう。


たった5歳の私が、今考えることではないのかもしれない疑問。


それが、俺の記憶という知識を知ったばかりに、夜も眠れなくなってしまう程考え込んでしまう。


今まで何でも知っていた方が良いと思ってたけど、知らぬが仏を正に実感している。


「…俺はこの世界にいるべきじゃなかったのかな…」


ポツリと呟き、眠気がこみ上げてきた頃には、空はもう薄暗かった。

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