第6話 公爵令嬢はポテチが食べたい

「ねぇリッカ、今日は私、食べたいものがあるの。


それを用意していただけるかしら?」


「かしこまりました。


どのようなものをご希望ですか?」


「薄くスライスしたじゃがいもを、パリッと揚げて、塩をまぶした物よ。」


作り方はとってもカンタン。


これで伝わるはず。


「…あげる…とは、どのような調理法でしょうか?」


…うん?


「高温の油に食材を入れて、カリッと火が通ったら油から取り出す調理法よ。」


「えぇっ!?

油の中に食材を入れちゃうんですか!?

そんな事したら、油でベトベトになってしまいますよ!?」


は?ふ?ほ?


「ええっと、食材に火を通す方法を教えて頂いてもいいかしら。」


「はい、煮る、焼く、炒める、茹でる、の四種類です。」


なん…だと…?


この世界には、「揚げる」だけでなく、「蒸す」も「炊く」もないのか!?


それじゃあ、ポテチだけじゃなくて、肉まんも、牛丼も、食べることが出来ないって事か!?


そんなの、俺の人生の七割を失ったも同然だ。


いや、もう輝行の人生ではないのか。


仕方ない、もう自分で作ってしまおう。


「えぇっ!?

お嬢様が調理なさるのですか!?

まだ一度もお料理を作られた事ございませんよね!?」


あ、しまった。


俺は料理得意だけど、私まだ料理未経験だったわ。


「い、いえ、コックにちょっとお話しさせて頂こうかなと思って。」


「でしたら、コックをこちらにお呼び致しますよ?」


そんな事したら、リッカと同じリアクションしちゃうでしょーが。


「せ、折角だから、調理しているところを是非見てみたいと思って。」


「でしたら、休憩なさってから参りましょう。」


だーかーらー!!


ポテチで休憩する為に、調理場に行きたいんだってば!!


埒があかない。


「好きな事をして息抜きをする事で、休憩になる」と言う無茶苦茶な言い訳をしたところで、物凄く怪しまれた後、「でしたら私もご一緒に」という条件で調理場に入ることを許可してもらえた。


ただ、料理経験のない幼女に、コックが料理をさせてくれるんだろうか。





そうして調理場に入った私とリッカを見て、夕食の仕込みをしていたコック達が一斉にこっちを見てきた。


「いかがなさいましたか?」と、総料理長のダンが出迎えてくれた。


「わざわざお越し頂かずとも、メイドにお伝えくださればご用意致しますよ。」


そう言われたけど、


「薄くスライスしたじゃがいもを、パリッと揚げて、塩をまぶした物を作ってくださいな。」


と、私が言うと、


「…失礼致します。

『あげる』とは、どのような調理法でしょうか?」


ほら、デジャヴきた。


「高温の油に食材を入れて、カリッと火が通ったら油から取り出して油を切るの。」


「えぇっ!?

油の中に食材を入れちゃうんですか!?

そんな事したら、油でベトベトになってしまいますよ!?」


それ、リッカから一語一句違わずと聞いた。


「食材に火を通す方法を教えて下さる?」


「はい、煮る、焼く、炒める、茹でる、の四種類です。」


それもさっきリッカから(以下略


はぁぁぁ、やっぱりなぁ。


プロのコックに聞けば、メイドの知らない調理法でも何か知ってるのかと少しだけ期待してたんだけど、全力で予想通りだったよ。


あーもう仕方がない、ここは自分で作るしかない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る