第5話 公爵令嬢は準備する 2

立食の練習を兼ねた昼食が終わった後、成認式用のドレスを作ってもらう事になった。


ケーラ先生曰く、「身なりは家柄の品格を表す」からだと。


平民の子ですら、この日の為に一張羅を用意するのに、公爵令嬢が使い回しのドレスだなんてありえないらしい。


ケーラ先生に加えて、侍女のリッカロッカも一緒にドレスを確認する。


本当はお母様にも同行をお願いしたかったんだけど、お仕事で無理だった。


今までの私の着ていたドレスは、フリフリのレースやリボンをふんだんに使った可愛らしいものが多かったんだけど、それがこの世界でオシャレなのかどうかは俺にはわからない。


因みに、成認式では一生に一度の晴れ舞台だからと、どの子も流行を取り入れつつ、5歳という年齢に似合うレースやフリルの多い可愛らしいドレスが主流らしい。


そう教えてくれたのは、王都で最も有名なデザイナー、ミス・フローレンス。


フィアンマ公爵家が贔屓にしているデザイナーで、そのセンスと技術はお母様の折り紙つき。


やっぱり皆んなもフリルを着るんだね。


昨日までの私なら、きっとそうしてたとおもう。


ただ、輝行の知識がフランドールの中に入っちゃったから、今すっごい悩んでる。


私の顔は、ふわっと可愛らしいお母様に似ず、凛々しくキリッとしたお父様に似ている。


サラサラストレートの濃茶色の髪の毛と同じ色の瞳もお父様譲り。


フリフリを着た私を想像してみたところ、確かに似合ってて可愛いと俺は思うんだけど、ヒロインの招待状を燃やしてお城の舞踏会に出かけた義姉にも見えてしまって、頭から離れなくなってる。


「因みに、今年の流行はどの様なものなんです?」


「今年は、白と花が流行っております。

皆様、フワフワの白いドレスに、レースで作った花や生け花のコサージュを、ドレスの裾や襟元へふんだんに使っていらっしゃいます。」


なるほど、つまり、今まできていた様なドレスに流行を取り入れると、皆んなと同じになるのか。


…なんかつまんない。


そもそも、今フリフリに抵抗感があるのに、一生に一度の晴れ舞台で気に入らないドレスを着るのが気に食わない。


ここは、興味が無かった故にこのジャンルの知識は少ない俺の微々たる情報と、私のセンスと、ミス・フローレンスのアレンジに期待するしかない。


「では私は、あえてシンプルなデザインでお願いいたしますわ。

ただシンプルなだけでなく、流行を捉えつつ、気品と高級感あふれるデザインで、素材は最上級のものを使ってくださいな。」


…なんで三人とも黙ってこっちみてるの。


「失礼致しました。

今までお嬢様が好んでお召しになっていたドレスとは全く違うタイプのものをご希望なさったので、少々驚いてしまいました。」


リッカがまず口を開いて、そう答えた。


「ふふっ、そうね。

でも、成認式って5歳になった成長を祝って、国民としてのあり方と、魔法の知識を身につける、いわば大人への第一歩を踏み出す場所でしょう?

だから、今までの私より少し背伸びをしてみたくなったの。

おかしいかしら?」


「フリフリ着たくない」とは直接言わず、それらしい言葉で言い訳した。


私は嘘は言ってない。


「いえいえ、とんでもございません。

とても素敵なお考えでいらっしゃいます。」


リッカが笑顔で釣れた。


「それに、皆様と同じような衣装ですと、せっかくの晴れ舞台で埋もれてしまいますわ。

国王様や国の主要人の方々が来てくださるのですから、少しでもお目に止めていただきたいと思いませんこと?」


更に話を盛って追い討ち。


私は嘘は言ってない。


「それは素晴らしいお考えです。

白いバラの中に一輪だけ青いデルフィニウムがあると、そこばかりに目が向かってしまうように、他の方とは違うドレスでいらっしゃるととても目立ちます。

来賓の方々の目を惹くのは間違いないでしょう。」


そう褒めてくれながら、ケーラ先生も釣れた。


デルフィニウムってどんな花なんだろう。


例えられても想像出来ん。


後で調べてみよ。


「むむっ、シンプルかつ流行を捉えていて、尚且つ気品と高級感溢れる最上級の逸品ですか。

これは私の創作意欲を掻き立てますね。」


火のついたミス・フローレンスが釣れた。


ここまで三者三様に釣れると面白い。


そして、ミス・フローレンスは羊皮紙にスラスラとデザインを書き上げ、それを私に見せてくれた。


それは、私の要望が全て詰まっているデザインのドレスだった。


「とても素敵ですわ。

メインの色はこちらなんて如何かしら。」


そう言って色見本を指差す。


「私もそう思っていたんです。

さすが、フランドール様はセンスがありますね。」


「センスがある」俺はファッション関係で一度も言われたことがないこの言葉に、ちょっと照れてしまった。


ただし、褒められたのはフランドールだ、輝行ではない。


あと、後ろでリッカとケーラ先生が、なぜか誇らしげに胸を張っている。


褒められたのは私だ、お前らでもない。


「お任せください、フランドール様がお気に召すお似合いのドレスを、必ず用意いたします。」


そう言って、えらく燃え上がったミス・フローレンスは、鼻息も荒く足早に帰って行った。


まるで、研究にハマり切っているを見ているようだ。


そして、家庭教師の時間も終わって、ケーラ先生も帰って行った。




さて、夕食まで時間もあるし、俺の記憶の記録と、この世界のことを調べていこうかな。


と机に向かっていたら、「今日は朝から一度もお休みされてませんし、お時間帯的にも、一旦ティータイムをはさみましょう」とリッカに言われた。


そういえば、昼食も立食のレッスンだったし、それを含めて、地球時間で7時間くらい休んでなかった。


言われるまで気づかなかった、…の悪い癖だ。


ティータイムのお菓子といえば、クッキーやカップケーキのような甘いもの。


私は好きなんだけど、俺のおやつと言えば、コーラとスナック菓子なんだよなー。


コーラは諦めるとして、ポテチを作ってもらおう。


ただ、そこで問題が発生するとは、思っても見なかった。

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